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第55話 「お肉っ!!」


「フィーラ・・・あのままで、良いの?」


フィーラの妹、シィリオが中庭の大樹に引き籠ってから数日が経っていた。

最初のうちはフィーラも声を掛けたりしてたんだけど・・・シィリオの態度は変わる事無く・・・


『姉様と一緒じゃなきゃ、帰らない!』


・・・その一点張りだ。


「うん・・・まぁ・・・シィリオもそのうち諦めて帰るわよ」


そう答えるフィーラも、本気でそう思っているのかは怪しい所だ。

なにせあの樹の中は、自給自足が可能な引き籠るのに快適な空間で・・・フィーラが10年くらい過ごした実績もある。

妹であるシィリオも、フィーラと同じくらい引き籠れる資質があるかも知れない。


「・・・どの道、私が帰った所でどうにもならないわけだし、ね・・・」

「それは・・・そうだけど・・・」

「それどころか、余計なトラブルの火種でしょ」

「う・・・」


フィーラが森のエルフ達から受けた仕打ちを、シィリオはまだ知らない。

もし敬愛する姉がそんな目に遭っていたと知ったら、シィリオはどう思うか・・・

フィーラは教えない事を選んだ・・・知らない方が幸せな事というのは、確かにあるのだ。


「あの子の気が変わるのを期待して、今は静観するしかないわ」

「・・・いいのかなぁ」


ちょっと釈然としないものがあるけど、私にどうこう出来る事でもない。

この国の人間ですらない私は、部外者もいい所だろう。

そんな風に考えていた私は、すっかり忘れていた・・・シィリオを追ってきた3人組がいた事を。


「ローゼリア様、一緒にかえ・・・」

「ごめんなさいナデシコ、今日は王宮に用事があるの」


一緒に帰ろうと誘う隙もなく、ローゼリア様は足早に立ち去ってしまった。

なんだか最近のローゼリア様は忙しそうだ。

一国の王女様だから仕方ないんだろうけど・・・帰りが遅いので無理をしてないか不安になる。


なら私は私で、この機会にナデシコノートの新章でも書いてみようかな。

ここ一ヶ月の異世界生活で、私のインスピレーションみたいなものは刺激されまくっている。

普通の人には出来ない体験をしてきたんだ、きっとすごいものが書けるはず。


「ふふ・・・ふふふ・・・」


色々妄想しながら、寮への道を歩いていると・・・


「・・・来たぞ、あの子供だ」


不意に・・・そんな声が聞こえた気がした。

聞き覚えのない声だし私には関係な・・・でも周りには私以外の人影はなく・・・どこからともなく甘い匂いが。

なんだろう・・・身体がふわふわする・・・それになんだか・・・眠く・・・瞼が・・・重い。


道の真ん中だというのに、押し寄せてくる強烈な眠気に私は抗えず・・・意識を失ってしまった。



・・・



・・・・・・



・・・・・・・・・



「・・・なかなか起きないな」

「・・・子供相手に盛り過ぎたんじゃないか?」

「・・・か、加減はしたぞ・・・まさかこんなに効くなんて」



・・・何か話し声が聞こえる・・・気がする。

きっと気のせいだ・・・だって、こんなに心地良いのだもの。

身体がふわふわして・・・柔らかい羽毛に包み込まれているみたい。


これまで体験した事のない寝心地の良さ・・・これならいくらでも眠っていられそう。



ぐぅぅ…


誰かのお腹が鳴る音がした・・・誰だろう、アクアちゃんかな・・・食いしん坊だし。

食事の度に思うんだけど、あの小さい身体のどこに入るんだろうね・・・身長は私と変わらないんだけどな。



「・・・食べ物の匂いで起きたりしないか?」

「・・・それだ!人間の子供が好きそうな食べ物を買ってこい!」

「・・・そう言われても・・・何が良いんだ?」



・・・また何か聞こえたような。

まぁいいや、気にしたら負け・・・気にしたら負け・・・私はごろごろしていたいんだ、ごーろごろ。


ああ・・・こんなに惰眠を貪るのはどれくらいぶりか。

異世界に来てからはずっと規則正しい生活で・・・寝坊しそうになってもローゼリア様が・・・ローゼリア様?!


・・・そうだ、いつもならとっくにローゼリア様が起こしてくれるはず。

私・・・どうしてこんなに・・・段々と意識がはっきりしてきた。


気付けば、身体を包むふわふわ感は綺麗さっぱり消え失せていて・・・むしろ身動きが取れない?!

身を捩ると、縄が食い込んでくる感触が・・・ロープか何かで縛られてるようだ。

なんとなく・・・自分の置かれた状況を察して、すぅっと血の気が引いて来る。


(ひょっとして・・・私・・・攫われた?!)


誰に?・・・そんなのわかりきってる、例の3人組だ。


『ナデシコは顔を見られているかも知れないもの・・・』


ローゼリア様の言葉が、今更ながらに思い出される。

まさか本当に私が狙われるなんて・・・後悔しても、もう遅い。


「・・・本当に、いつまで寝てるんだか」

「・・・すやすやと気持ちよさそうにしやがって」


話し声が思ったより近い・・・少なくとも2人は傍にいるみたいだ。

怪しまれないように寝てるフリを続けるけれど・・・いつバレるかわかったものじゃない。


「・・・のやつ、遅いな」

「・・・どうせ自分も何か食いたくなったんだろ」

「・・・ちゃんと俺達の分の食べ物も買って来てくれると良いんだが」

「・・・だな、俺も腹減ってきたぞ」


食べ物・・・そう聞いた瞬間、私のお腹が空腹を訴えた。


ぐぅぅ…


「ははっ、こいつまた腹の音させてる」

「よっぽど腹が減ってるんだな、食べ物が来た瞬間に起きるんじゃないか」


し、失礼な・・・人を食いしん坊みたいに・・・でも空腹感はすごい。

きっと長時間寝てたからだ、そうに違いない・・・けど、いったい何時間寝てたんだろう。

あ・・・ダメだ、意識しちゃうと本当にお腹が空き過ぎて・・・はやく何か食べたい・・・何か食べ物を・・・


激しい空腹感に襲われ続けた私の鼻腔を目掛けて・・・どこからか焼けた肉の香ばしい匂いがしてきた。

お肉・・・食べたい・・・もう頭の中がお肉でいっぱい・・・口の中もじゅるりと唾液が上がってきて、完全にお肉を食べる口になってる。

お肉・・・私にはやくお肉を・・・


ガチャリ…


扉が開く音と共に、より一層強い肉の香りが部屋中に漂って・・・


「・・・悪い、待たせ___?!」

「お肉っ!!」


お肉を目掛けて、勢いよく飛び起きた私を前に・・・


「「「・・・ププッ」」」


3人組が一斉に吹き出し、爆笑したのだった。


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