表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/101

第54話 「一緒に森へ帰ろう?」


「・・・姉様?」


聞き間違えじゃない、エルフの女の子・・・シィリオはフィーラの事をそう呼んでいた。

姉様と呼びながら、フィーラに抱き着いて・・・猫のようにすりすりと・・・懐いてる?


「この子・・・シィリオは私の妹なのよ、昔はナデシコよりも小さかったんだけど、すっかり大きくなって」

「えへへ・・・もう緑葉の儀だって受けられるんだから」


フィーラに抱き着いたまま、得意げに笑うシィリオ・・・けど、今でも私の方が背が高いはず。

え・・・私ってあれより小さいって思われてるの?! さすがにそれは心外だよ。

恨めしげな視線をフィーラに送るも、向こうは妹の方に意識が向いてしまったようだ。


「けれど、貴女がわざわざ森から出てきて、こんな所にまで・・・いったい何の為に?」

「もちろん、姉様を連れ戻す為だよ」

「「え・・・」」


思わず口を突いて出た声が、フィーラと重なった。

連れ戻す? フィーラを? まさか、エルフの森に?

さすがのフィーラも、この妹の発言の意図が理解出来ないらしく、その表情に困惑の色を浮かべている。


「姉様、私と一緒に森へ帰ろう?」

「あのねシィリオ・・・今の私は、この王立学園に通って・・・」

「うん、知ってるよ・・・人間の文化を学ぶために、森の皆を代表して留学したんだよね?『フィーラはエルフ族の誇りだ』って皆が言ってたわ」

「・・・そ、そういう事になってるのね」


キラキラした尊敬の眼差しで姉を見つめるシィリオとは対照的に、フィーラは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

これは・・・どういう事なんだろう?

私の聞いた話では、フィーラは森のエルフ達に厄介払いされて・・・それがなぜ、エルフ族の誇りだ、なんて事に?

疑問の視線を投げかける私に、フィーラもわけが分からないとばかりに肩をすくめて見せた。


「それはそうとして・・・それなら尚更、私が勝手に森に帰るわけにはいかないんじゃないかしら?」

「それは・・・そうだけど・・・でも、だって・・・」


正論で妹を諭すフィーラに対して、シィリオは妙に歯切れが悪くなった。

仮にもフィーラはエルフ族の代表として学園に通う留学生だ、その理由が厄介払いだろうと何だろうと、そこは変わらないはず。

姉から視線を逸らそうとするシィリオを逃がさぬようにフィーラはがっちり掴まえて・・・


「・・・何か理由があるのね、シィリオ、話しなさい」

「う・・・姉様、怒らない?」

「いいから話しなさい」


何か後ろめたい事でもあるのか、怯えたような素振りを見せるシィリオ。

しかしフィーラは妹を甘やかさない教育方針のようで、厳しい顔のまま問い詰めた。


「あのね、じぃじがね・・・私を次の族長にするって言い出して・・・」

「族長が・・・シィリオを後継に?」

「うん・・・人間と仲良くするのに年寄りよりも若い長が良い、とかなんとかで・・・」


おずおずとシィリオが語り出したのは、エルフ族の・・・後継者問題?

よりによって、こんな小さい子を族長に?

いくら若い方が良いからって・・・シィリオはせいぜい中学生に見えるかどうかだ。

これはさすがに・・・


「若過ぎる・・・ような・・・」

「でしょっ!!」


ふと零れた私の小さな呟きに、シィリオが全力で肯定してきた。

さすがはエルフ、その長い耳は飾りではないらしい。


「私が族長とか100年早いと思うの、しかも姉様を差し置いてだよ?!」

「あ・・・」


・・・ひょっとして、そこから話が繋がるのか。

見た感じ、この姉妹の仲は良さそうだし・・・まだ幼い自分が族長に選ばれた事よりも・・・


「私なんかよりも、姉様が族長になった方が良いに決まってるの!・・・なのに皆、姉様は留学してるから無理だって」

「それで、私を族長にするために森に連れ戻そうと思ったのね・・・」

「そうなの! 決して、族長になるための勉強が嫌で逃げてきたんじゃなく!」

「・・・逃げてきたんだ」

「あっ」


とっさに両手で口を押えるシィリオ。

しかしもう手遅れだ・・・滑らせてしまった言葉は、私達がしっかりと聞いてしまっている。

なるほどね・・・本音はそっちか。


「・・・シィリオ」

「う・・・嘘じゃないもん」


呆れたようにジト目で妹を見るフィーラに、シィリオはまだ諦め切れないのか、不貞腐れて頬を膨らませながら・・・


「・・・姉様の方が相応しいと思ったの、嘘じゃないもん」

「・・・」


そう言われてしまうと、フィーラも複雑な気持ちだろう。

ついこの間の体育祭での活躍といい、学園でのフィーラを見ていると、かなり優秀な人物だと思う。

きっとシィリオの言う通り、族長に相応しいかも知れない。


けれど・・・だからこそ、フィーラは疎まれたんだ。

疎まれて、遠く離れた人間の国の学園に送り付けられた・・・族長になんてならないように。

その辺りの事情を何も知らず、ただ尊敬の眼差しで自分を見てくる妹に・・・フィーラは本当の事を言えるのだろうか。


結論から言うと・・・フィーラは言えなかった。


「・・・森へは、貴女1人で帰りなさい」

「姉様?!」

「その様子だと、許可もなく勝手に飛び出してきたんでしょう? 早く帰りなさい」


そう告げるフィーラの声に表情はなく、ただ淡々と・・・しかし。


「そんなの嫌っ!」

「シィリオ?!」


それですんなり帰ってくれるシィリオではなかった。

フィーラの手を振りほどくと、シィリオは中庭の大樹の中へ・・・引き籠ってしまった。


「シィリオ!そこから出てきなさい!」


入り口はしっかり閉ざされてしまって、フィーラの力でも外から開く事は出来ないようだ。

姉妹だけあって、シィリオにもフィーラと同じような力があるのか。

あるいはそれ以上に・・・ひょっとしたら、次の族長に選ばれた理由の一端かも知れない。


『姉様と一緒じゃなきゃ、帰らない!』


大樹の中から、シィリオが叫ぶのが聞こえた。


「・・・シィリオ」


ピクリとも動かない大樹を前に、呆然と立ち尽くすフィーラ。

その背中にかけるべき言葉を・・・私は何も思い浮かばなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ