第53話 「会いたかった・・・姉様」
「という事が、あって・・・」
寮に帰った私は、ローゼリア様に相談してみる事にした。
日本人の私からしたら信じ難いような幽霊の話も、異世界ならそこまで特別な事じゃないかも知れない・・・と思ったんだけど。
「消えた女の子に、怪しい3人組ね・・・」
美しい眉間にしわを寄せて、ローゼリア様は考え込んでしまった。
この反応を見る限り、やっぱり異世界でも特殊な事例のようだ。
「女の子の方は既に学園側で保護しているのかも知れないわ、先生に聞いてみましょう」
「あ・・・そうか」
あの時は焦ってて、その可能性を完全に失念していた。
隠れている所を先生に見つかって保護されている・・・普通に考えればありそうな話だ。
明日先生に聞いてみよう。
「問題は怪しい3人組の方ね・・・王都の警備隊は何をやっているのかしら」
ローゼリア様の表情を険しくさせているのは主にこちらのようだ。
この国の王女として、街の治安に責任を感じているのだろうか・・・私と同じ年のはずのローゼリア様がすごく大人びて見えるのは、そういう所によるのかも知れない。
「明日、私が王宮に行って打診してくるわ・・・たいした事は出来ないかも知れないけれど」
「い、いえ・・・すごく、助かります」
直接王宮に口を出せるって時点ですごい事だよ。
ローゼリア様の事だから、ちゃんと何かしらの対策を打ってもらうに決まってるし。
あの3人組が何者かは知らないけど、ここで王女様が動くとは思っても見ないに違いない。
「念のため、明朝はアクア達やメイドリーを誘って、纏まった人数で登校しましょう」
「え・・・そ、そこまで・・・」
「当然よ、ナデシコは顔を見られているかも知れないもの・・・もし何かあったらこの国の恥だわ」
さすがに大袈裟な気がするんだけど・・・留学生の私に何かあったら国際問題なのか。
ローゼリア様が神経質になってしまうのも仕方ないのかも知れない。
結局翌日はアクア、フィーラに、メイドリー・・・ついでにメイプル先輩も引き連れての集団登校になった。
もちろん道中怪しい人影などなく・・・平和そのもの。
「こんなに若い子達に囲まれていると、私も若返るような気分だわ~」
「お姉ちゃん!私達とひとつしか違わないし!」
「・・・」
なにげない姉妹のやりとりを背景に、フィーラが軽く固まるのが見えた。
ああ、エルフだから年齢が・・・たぶんメイプル先輩は気付いていないんだろう。
かくいう私もフィーラの実年齢がいくつなのか知らないんだ・・・なんかとんでもない数字とか出てきそうで、聞くに聞けないものがある。
「・・・フィーラ?」
「あ・・・ごめんなさい、なんでもないわ」
年齢の話がそんなにショックだったのか、フィーラはその場に立ち止まってしまっていた。
アクアちゃんに呼ばれて我に戻ったようで、慌てて歩き出す・・・
その際に中庭の方をちらりと見たような気がするから、ひょっとしたら中庭の花壇が気になったのかも知れない。
そういえば今はフィーラも寮暮らしだから・・・中庭の世話をする人がいないのかも知れない。
仕方ない・・・ここは私がひと肌脱ぎますか。
これでも地元に居た頃は、よくお母さんに庭の草むしりをさせられてね・・・終わらないと家に入れてくれないの。
どうせ家に居ても漫画を読むかゲームしてるんだからって・・・その通りではあるんだけどさ。
放課後、例の3人組の件で王宮に向かったローゼリア様を見送った後・・・私は中庭へと向かった。
予想通りと言うか、主の居なくなった中庭はすっかり雑草が生い茂って・・・植物の育ちやすい季節というのもあるかも知れない。
こう草が育つと昆虫も湧くんだよね・・・ムカデとか・・・気をつけよう。
まずは通路・・・人が歩く道の確保が最優先だ。
フィーラが住んでた頃を思い出しながら、通路上の雑草を引き抜いて1ヵ所に纏める。
思ったよりも雑草が育ってて手強い・・・今日は通路の半分くらいで切り上げて、また明日出直そう。
そして迎えた翌日の放課後。
私は中庭の様子を見るなり絶句してしまった。
「な・・・なんで・・・」
鬱蒼と生い茂る雑草・・・それは昨日見たままの姿で・・・
なぜか、昨日私が引き抜いて回った通路上までもが・・・昨日と同じように雑草が生え散らかしていた。
まるで昨日の私は何もしていなかったかのように・・・全部が全部「やったつもり」だったとでも言わんばかりに・・・
「・・・」
激しい徒労感に襲われ・・・私の中のやる気がへし折られそうになった、その時___
「・・・やっぱり、ここに来ていたのね」
「フィーラ・・・あ、あの・・・私は・・・」
険しい顔をして中庭に入ってきたフィーラに、事態の説明をしようとするも、上手く言葉が出て来ない。
しかしフィーラは私の方などお構いなしに、歩みを進め・・・雑草を踏み分け大樹の方へと・・・
「そこに居るんでしょう?! シィリオ、出てきなさい!」
「?!」
いつになく強い言葉で、フィーラが怒鳴った。
すると・・・大樹の中から・・・あ、これフィーラの時と同じだ・・・
フィーラが出てきた時のように大樹が開いて・・・中から現れたのは金色の長い髪と、緑の服の・・・
「あ・・・この前の・・・」
謎の3人組に追われて、助けを求めてきた女の子だ。
金の髪が風にふわりと翻って・・・その隙間から、人のものよりも長い耳が垣間見えた。
「会いたかった・・・姉様」
そしてその女の子・・・エルフ族のシィリオは、勢いよくフィーラの胸に飛び込んでいった。




