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第52話 「助けてください、追われているんです!」


優しく身体を包み込むふかふかのお布団も、出番を終える時期というものがある・・・それはちょうど今頃かも知れない。

寝ている間に振り払ったお布団を手探りで抱き寄せようとした私は、思わぬお布団の抵抗によって目覚めを迎えた。

いくら引っ張っても手元に引き寄せる事が出来ない・・・それもそのはず、薄目を開けた先で私のお布団はローゼリア様によってしっかり抱え込まれていた・・・私が寝過ごさないように。


「・・・ローゼリア様・・・おはようございます」

「おはよう、ナデシコ」


この異世界に来て、もう何度目の朝だろうか。

寝坊しそうになってローゼリア様に起こしてもらうのも、もう何度目だろうか。

一国の王女にこんな事をさせるなんて・・・我ながらとんでもない事だといつも思う。


「体育祭の疲れは取れたかしら?」


こころなしか・・・今回は起こす方法がちょっと優しい気がする。

体育祭の後という事もあって心配してくれているのかも知れない。


「うーん・・・たぶん・・・大丈夫です」


体育祭後の休日を休息に充てて、昨日は寮から出ずにゆっくりと休んだ・・・おかげで疲労感は残っていない。

ベッドから起きて軽く伸びをしてみたところ・・・筋肉痛も感じなかった。

こころなしか身体が軽くなったような気がする、うん・・・我ながら体調は良好だ。


私の机の上には、体育祭で勝ち取った銅の勲章が無造作に転がっていた・・・朝日を反射してきらりと眩しい。

何度見ても誇らしい気分だ・・・あの時は勝てなくても良いとか思ってたけど、こうして結果が形になった物があるって良いね。


「ふふっ、ナデシコったらまた勲章を見てる・・・そんなに嬉しかったのね」

「は、はい・・・こういうのって、初めてなので・・・」


勲章とか、メダルとか、トロフィーとか・・・これまでの私の人生には縁遠い品だ。

きっとこれから先にもないんじゃないかな。

ただ机に転がしておくのは勿体ない、皆こういうのってどうしてるんだろう?


勲章って言うと、服にぶら下げてる印象があるけど・・・制服にぶら下げるのはなんか恥ずかしい、1位ならともかく3位だし。

何か、こういうのを飾る用の台座みたいなのがあったりしないかな・・・アクアちゃんに聞いてみようか。


体育祭が終わった事で、学園生活はすっかり元通り。

体育祭以降で変わった事と言えば、一緒にお昼を食べる面子にメイドリーが加わったくらい。

もちろん放課後に残って練習するような事も、もうない・・・はずだったんだけど___



「がく、りょく・・・テ、スト?」

「はい、一定以下の点数の生徒には補習を受けて貰います」


体育祭直後のこのタイミングを狙ったかのように、テストである。

勉強なんてそっちのけで、ずっと体育祭の練習ばかりしていた私に、良い点数など取れるはずもなく・・・


「あっ・・・あっ・・・」


当然の結果として、私は補習を課せられてしまった。

それはまぁ・・・しょうがないんだけどっ・・・なんで、私だけ・・・


「ごめんなさいナデシコ、勉強の事までは気が回らなかったし」


メイドリー・・・放課後はずっと私と一緒に練習して・・・勉強なんてしてないはずなのに。


「さすがに私も今回は点数低かったわ・・・」


アクアちゃん・・・それでも学年上位に入ってるんですけど?


「気を落とさないで、私も昔は・・・そこまででもなかったわね」


フィーラ・・・留年のエルフとか、ずるいと思う。


「なんだか私だけ体育祭不参加なのに・・・申し訳ないわ」


ローゼリア様はローゼリア様でお忙しかったから・・・そこは仕方ないです。



なんだかんだあっても、私以外は元の頭が良いんだよね。

さすがにひと月も過ぎてると、異世界のせいにばかりしていられない・・・いられないんだけどなぁ。


タチアナ先生とのマンツーマン状態の補習を受けて・・・帰る頃にはすっかり日が暮れてしまった。


夕日に照らされる校舎を背に、一人とぼとぼと歩いていると・・・街の方から誰か駆けてくるのが見えた。

女の子?・・・私より背が低い、普通に年下に見える・・・小学生か中学生か・・・長い金髪と葉っぱモチーフの緑色の衣服。

なんとなく、不思議の国のアリスが思い浮かんだ・・・この女の子の場合は森の国のアリスと言ったところか。


その女の子は真っ直ぐ一直線に・・・私の元に駆けてきて・・・え、私に何か?

どう対応すれば良いのかわからず、思わず硬直してしまった私の襟元にしがみつくようにして、その子は叫んだ。


「助けてください、追われているんです!」

「・・・へ?」


追われている・・・言われて女の子の後方を顧みると、こちらに向かってきてる・・・のかな?

遠くの方に、ひとつ、ふたつ・・・計3名の人影が見えた。


「この学園の人ですよね?!お願いします!」

「あ・・・うん、そうだけど・・・」


周りを見回しても私の他に誰もいない・・・こんな時間では仕方ない。

いったい何事で、何者なのかわからないけど、こんな女の子を追いかけまわすなんて・・・良い感じはしない。


「こ、こっちへ・・・」

「あ、ありがとうございます」


とりあえず、女の子を連れて校舎の中へ・・・やり過ごせると良いんだけど。

本当は部外者を入れちゃいけないんだろうけど・・・今は非常事態だよね。

女の子には外から見えないように物陰に隠れて貰って・・・私は入り口付近で様子を伺った。


「・・・」


もし怖い人達だったらどうしよう・・・先生とか通り掛かってくれると助かるんだけど。

しばらくするとフードを被った3人組が・・・さすがに学園内には入ってこないみたい。

3人組は遠巻きに学園の様子を伺っていたけど・・・やがて諦めたのか、どこかへ去っていった。


「・・・た、助かったぁ」


安心したら、その場で力が抜けて・・・っていけない。

あの女の子にもう大丈夫って伝えなきゃ・・・なんで追われてたのかも気になるし。


「も、もう大丈夫・・・出ておいで・・・」



・・・


・・・・・・反応がない。


「あ、あれ・・・聞こえなかった・・・かな」


まぁ、私の声小さいもんね・・・もっと大きな声を出さないと聞こえないか。


「だ、大丈夫だよー」


ちょっとがんばって大きな声を・・・しかし、反応はなかった。

その辺りの隠れられそうな物陰を探してみるけど・・・それらに女の子の姿はなく。


「・・・??」


いったい、どこに消えてしまったんだろう。

もう一度念入りに探したけど、女の子は何処にも見つからないまま・・・辺りはすっかり暗くなって・・・


「・・・ま、まさか・・・ゆ、ゆう・・・」


いやいやこんな異世界だよここそんなのいるわけがないいたとしてももっとこうモンスターてきな・・・


背筋にうすら寒いものを感じながら・・・私は捜索を諦め、寮に帰ったのだった。



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