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第51話 「本当にがんばったわね、えらいわ」


「・・・なんだこれ」


観客の誰かがそう言ったのが聞こえた。

それはこっちの台詞だ、むしろ私が言いたい・・・なんだこれって。



3位決定戦が始まり、最初に立ち塞がった大岩。

いつもならメイドリーに先に上って貰って、ロープで引き上げて貰う所だ。

けど、今は足の怪我があるメイドリーを頼るわけにはいかない。


むしろ私は引っ張る方に回るべき・・・最低限これくらいは自力で上らないと・・・

そう思って果敢に挑んだものの・・・なかなか上手くいかない。

さっそく対戦相手のペアに追い越され、怪我人のメイドリーまで先に上り終えてしまった。


「ナデシコ、やっぱり私がロープを・・・」

「それはダメ・・・もう少し・・・だから」


メイドリーに頼るにしても、もっと先の難所みたいな場所だけにしたい。

最後までがんばるって決めたんだ・・・これくらいは、自分で・・・上り切る!

練習の日々を思い出しながら、なんとか最初の大岩を上り終えた・・・異変が起こったのはその時だった。


「え・・・な、な・・・」

「?!」


地震?・・・始めは地面が揺れたのかと思った。

けどそうじゃなくて、変化が起きたのは私達の足元・・・岩で出来た決勝用のコース全体だった。

ぐにゃあ、と足元の岩が歪んで・・・足が沈み込む、感触が岩じゃない・・・まるで粘土の上に立っているかのようだ。


「きゃっ!」


悲鳴を上げたのは先行していた相手ペアだった。

1人がバランスを崩して落下・・・それに引っ張られる形でもう一人も・・・

ロープで繋がっているから、こういう時連鎖してしまうんだ。


審判の人もこの事態には困惑しながら、しかしルール通りにコースアウト判定となり、スタート地点からやり直しに。

その間にも足元の岩はどんどん柔らかくなって、高さも少しずつ沈んでいってる。


「ど、どうしよう・・・こんな事って・・・」


メイドリーも困惑してる・・・決勝コース独自のギミックというわけでもないようだ。

純粋に何らかのトラブル、でも試合を中止するような指示は出ていない。

なら・・・私達がやる事は変わらない。


「メイドリー・・・進もう、ゴールまで!」


ロープを軽く引っ張り、メイドリーに意思を伝える。

試合が続いているなら私達はゴールを目指すだけだ。


「・・・もう・・・やるしかないし!」

「足元・・・気を付けて」


頑丈な岩だったコースは、ぐにゃぐにゃとして、すぐに転びそうになる。

けれど私は練習の時・・・川原を歩いた時の事を思い出していた、あの時も足元の石が不安定で・・・

そうだ、今のこれは・・・あの時の感覚に近い。


先に進むにつれて、あるいは時間の経過によるのか・・・足元は次第にどろどろと・・・泥沼のようになってきていた。

よく比喩として泥沼状態とか、泥仕合とか言うけど、文字通りの泥沼状態だ。

踏み出した足は膝の上まで沈み込み、一歩進む度に泥が跳ねあがる・・・足を滑らせないように気をつけながら一歩ずつ進む。


「ナデシコ、ついて来これてます?」

「う、うん!・・・だいじょうぶ」


泥が跳ねるので、視界もすごく悪い・・・声を掛け合って互いの位置や距離を確認した。

あまり離れると2人を繋ぐロープが引っ掛かって、事故になりかねない。

もう相手ペアの存在とか、勝敗とか気にしてられなかった・・・ただゴールだけを目指して私達は突き進み・・・


不意に・・・泥の感触が消えて、ちゃんとした地面に足がついた。

それと同時に、会場内に歓声が湧きたつ・・・主審の声が高々と勝者を告げる・・・私達・・・ゴールしたんだ。


後ろを振り返ると、かつて岩場だった・・・今では泥沼のコースが、光の粒となって消えていく所だった。

・・・後から聞いた話によると、コースを担当していた魔術師が疲弊して、岩の魔法が解けかかっていたのだとか・・・

そのコースの真ん中あたりに、相手ペアの姿がいた・・・コースアウト分もあってか、結構な差がついていたみたいだ。


「メイドリー・・・私達・・・」

「うん・・・勝ったし、3位だし」

「や・・・やったっ!」


私達の勝利・・・思わずメイドリーに抱き着いてしまったけど、その瞬間に表情が歪む。

あ・・・怪我してるんだった。

慌てて身を離す代わりに、その肩を支える・・・これで私達の競技は終了だから、治療を受けられるんだよね?


私達は今度こそ医務室を探しに通路へ向かった・・・んだけど。


「・・・ローゼリア・・・様?」


幻でも見ているのかと思った。

主賓席にいるはずのローゼリア様がなんで・・・振り返って主賓席を見ると、そこにもローゼリア様がいて・・・


「え・・・ど、どういう・・・」

「ふふっ」


あっちにもこっちにもローゼリア様・・・わけがわからなくなっていると。

目の前の方のローゼリア様が悪戯っぽく笑った。


「魔法で私の姿を投影してるの・・・主賓席は離れてるから誰も気付かないわ」

「そ、そんな事が・・・」


魔法ってそんな事も出来るんだ・・・すごい。

などと私が感心していると、ローゼリア様はメイドリーに近付いて足元に屈みこんだ。


「そんな事よりメイドリー、怪我をしているんでしょう? 見せなさい」

「え・・・あ、はい」


そうか・・・メイドリーの怪我を心配して、ここまで来てくれたんだ。

さすがはローゼリア様、治癒の魔法も使えるみたいで・・・メイドリーの怪我はあっという間に治ってしまった。


「これでもう大丈夫・・・あとは閉会の時間まで、出来るだけ安静にしていること」

「はい・・・あ、ありがとうございます」

「あ、あの・・・ローゼリア様・・・」


怪我の治療をしたという事は・・・そこに巻かれてるリボンにも・・・もう気付かれているはず。

ローゼリア様に頂いた物なのに、勝手にあげちゃった事を謝らないと。


「その、リボンなんですけど・・・ご、ごめ」

「この応急処置はナデシコがやったの? 良い判断だったわ」

「え・・・いや・・・私は・・・」


なんか誤解をされてしまったけど、勝手にメイドリーにあげた事を説明して・・・許して貰えた。


「ナデシコったら、そんな事気にしなくて良いのに・・・」

「いやでも・・・せっかくローゼリア様が・・・」

「欲しいならまたあげるわ・・・そうね、次はメイドリーの分も用意しようかしら」

「そそそそんな!・・・私にはこれだけで充分過ぎます!」


ローゼリア様を前にして、メイドリーはすっかり恐縮してしまったけど・・・足の方はもう何ともなさそうだ。

これで一件落着、改めてローゼリア様にお礼を言うと私達はクラスの席に戻ろうと・・・


「それはそうと・・・2人とも泥だらけね」

「「・・・あっ」」


泥のコースの方は綺麗に消えたのに・・・私達の身体の方は泥まみれのままだった。

魔法っていったい・・・どういう仕組みなんだろう。

そんな風に不思議に思っている間もなく、ローゼリア様は泥まみれの私達を競技場備え付けの浴場まで引っ張っていき。


「あまり時間がないわ、2人ともはやく脱いで・・・」

「あ・・・あわわ・・・」


体操着も、身体も・・・ローゼリア様の魔法で綺麗さっぱり洗ってもらったのだった。

メイドリー・・・また呆けちゃってる・・・しょうがないか。

身綺麗になった私達はクラスの方に戻り、ローゼリア様は主賓席に帰っていった。


そして体育祭はつつがなく進み、無事に全ての競技が終了・・・あとは表彰式を残すのみだ。


各種目で上位3位内に入賞した生徒達が、順番に壇上に上がり・・・ローゼリア様から祝福を受ける。

私達の番も程なくしてやって来た・・・大勢の観客に注目されながら壇上に上がるのは、競技以上に緊張する。


「あ・・・ああ・・・」


しかし今、私の隣には私と同じくらいに緊張している人間がもう一人・・・メイドリーがいた。

公の場で、憧れのローゼリア様から表彰される・・・私と違って緊張するのも仕方のない理由だ、むしろ途中で倒れたりしないかちょっと心配に・・・いや、私も他人の心配をしてるような余裕はない。


「ふふ・・・なにあれ・・・」

「そんなに、笑ったら失礼よ」


二人揃ってガッチガチに緊張した動きで壇上に上る姿に、会場のあちこちから笑い声が上がった。

くぅ・・・恥ずかしさで顔が熱くなってくるのが自分でもわかる・・・きっと傍目には顔真っ赤なんだろうな。

ぎこちない動きのまま壇上に上った私達を、ローゼリア様は優しく包み込むような笑顔で出迎えてくれた。


「ナデシコ、メイドリー・・・3位入賞おめでとう」


真ん中に銅のメダルをあしらった3位の勲章・・・日本と同じく1位から金銀銅の順だ。

活躍した選手の健闘を称えながら、ローゼリア様手ずからこの勲章を胸につけてくれる。


「ナデシコ・・・本当によくがんばったわ」

「め、メイドリーのおかげです・・・」

「いいえ、ナデシコ自身のがんばりもあってこその結果です・・・戦女神もそうおっしゃっています」


ローゼリア様は芝居がかった仕草でそう言うと、私の胸に勲章をつけてくれた。

続いて隣のメイドリー・・・うわ、緊張で身体が震えちゃってる・・・だ、大丈夫かな。


「メイドリー・・・」

「あああ、あの・・・ろ、ロー___!!」


ここで会場から歓声が巻き起こった。

震えの止まらないメイドリーを、ローゼリア様が抱きしめたのだ。

そして子供をあやすように優しく、メイドリーの頭を撫でる・・・そんな事をしたら逆効果に思えたけど、不思議とメイドリーの震えは止まった。


「あ・・・ああ・・・」

「あんな怪我までしながら・・・本当にがんばったわね、えらいわ」

「・・・ローゼリア様・・・私・・・私・・・」


抱きしめられたままのメイドリーの頬に涙が伝う。

事情を知らない多くの人達も、感じ入るものがあったのか、会場内は静まり返り・・・


パチパチパチ…


誰かの拍手の音・・・それに釣られるように拍手の音が増えていって・・・会場を包み込むような拍手の大合唱に。


「・・・ぐすっ」


メイドリーが落ち着くのを待ってから、その胸にローゼリア様が勲章をつけた。

まるで体育祭がフィナーレを迎えたかのような雰囲気に、気まずくなりながら私達は壇上から降りる。

そんな私達とすれ違うように壇上に上がるのは、次の種目の1位ペア・・・アクアちゃんとフィーラだった。


「もうっ・・・体育祭で一番活躍したのは私達なのに!」

「すっかり主役を持っていかれた気分だわ」


不貞腐れたような顔をしながら、アクアちゃん達が私の横を通過する。

彼女達の言う通り、会場を最も沸かせたのはこのペアで間違いない。

開幕の弓術では驚くべき連射で新記録を打ち出し、続く馬術、水泳、跳躍、リレー全てにおいて他の追随を許さなかった。

今回のMVPはこのペアで間違いないだろう、拍手喝采はこの2人にこそ相応しい。


「う・・・ごめんなさい」

「はぁ・・・何謝ってるのよ」


私が小さい声で謝ったのが聞こえたのか、アクアちゃんは足を止めて振り返った。


「がんばった結果なんだから、もっと胸張りなさいよ・・・3位、おめでとう」

「・・・!」


それだけ言うと、アクアちゃんは速足で壇上へ上っていった。


「い・・・1位、おめでとう」


遠ざかる背中に、私はそれだけを言うので精いっぱいだった。

アクアちゃんは振り返る事は無く・・・けど片手を上げて応えてくれた。


思わぬ形で私達が盛り上がりに貢献した表彰式もつつがなく終わると。

生徒達全員が整列しての閉会式・・・これにて体育祭は終了だ。

ここからは開会式とは逆の流れで競技場の外へ・・・外に出ると・・・


「お疲れ様!」

「皆ーよくがんばったぞー」


道の両側にびっしりと並んだ街の人々が、学園へと帰る生徒達へしきりに声を掛けてくる。

そこに勝敗も何も関係ない・・・今日一日、体育祭を精いっぱいがんばった生徒達への激励の言葉だ。


「・・・っ」


なんか胸が熱くなってくる・・・何かお礼を・・・お礼を言わないと。

だけど言葉が出て来ない・・・なんて言ったら良いんだろう。


「もう、ナデシコ何やってるの!」

「だ、だっで・・・アグアちゃ・・・私・・・」

「こういう時は、笑顔で手でも振ってればいいのよ!」


そう言いながら、私に手本を見せるかのように・・・アクアちゃんはオーバーな動きで手を振って、観衆に応える。

その胸で金色の勲章が夕日を反射してキラキラと光る・・・そういえば、私の胸にも勲章があるんだった。


ちょっとだけ誇らしい気持ちで・・・勲章を見せるように。

さすがにアクアちゃんみたいには出来ないけど・・・私も手を振った。


「あ、よくわからないけどがんばってた子だ!覚えてる!」

「ああ、泥んこの子だ!お疲れ様!」


何人かに覚えられてた・・・ちょっと恥ずかしい・・・それに泥んこの子って・・・

それに反応したのか、生徒達の列の中からメイドリーがこっちを見てきて・・・私と目が合った。

あ・・・笑ってる、すごく良い笑顔で・・・楽しかったね、体育祭。

私もあんな風に笑えてるのかな・・・笑えてたら良いな。


大通りを抜けた後も、人々の歓声はしばらく続く。

こうして私達の体育祭は幕を閉じたのだった。



___そして翌日。



体育祭の疲れもあって、いつもよりも遅く起きた朝。

同じくお疲れのローゼリア様と一緒に、遅めの朝食を頂こうと食堂に向かうと・・・


「あ、ナデシコ、おはようございます」

「・・・?」


・・・知らない子に呼び止められた。

なにやら親しげな雰囲気で声を掛けてきたんだけど・・・見覚えが全くないのだ。

いや、声は聞き覚えがあるような・・・クラスの誰かだったら、ちょっと申し訳ない・・・なんとか思い出そうと、首を傾げていると。


「あら、メイドリー」

「ろ、ローゼリア様!おはようございます!」


えっ、メイドリー?!

ローゼリア様が何のためらいもなくメイドリーと呼んだこの子・・・確かに髪の色はメイドリーと同じだ。

それにローゼリア様を前にしてのこの反応、緊張で硬くなってる感じ・・・なんかだんだんメイドリーって気がしてきた。


で、でも・・・メイドリーと言えば、良く再現されたローゼリア様と同じ髪型がトレードマークのはずで。

今目の前にいるこの・・・メイドリーは髪は長いけど、無造作に伸ばしたストレート。

伸びた前髪で目元が隠れてきてるし、ボリュームのある髪は途中からストレート感を失って、もっさりと・・・あれ。


なんだかすごく見覚えのある髪型だ・・・具体的に言うと、鏡とかでよく見る・・・


「この髪型・・・ま、まさか・・・」

「気付かれました? 今日は気分を変えて、ナデシコの髪型にしてみたんですけど」


そう言いながら、メイドリーは恥ずかしそうに私から視線を逸らした。

髪型を変えただけで、まるで別人のよう・・・でも、わざわざ私の髪型なんて真似しなくてもいいのに。

いったいどんな心境の変化が・・・単に気まぐれを起こしたんだと思うけど。


「すごく似合ってると思う、かわいいわ」

「本当ですか?!・・・ナデシコ、ローゼリア様に褒められちゃったし」

「よ、良かったね・・・」


自分の髪型をそんな風に言われても・・・なんか素直に喜べない。

ローゼリア様もローゼリア様だ、なんでそんな心にもな・・・あれ、すごく曇りのない瞳・・・えっ、本心なの?!


「私、これからはこの髪型でいきます!」

「ちょ・・・メイドリー?!」

「あっ・・・ダメ・・・ですか?」

「う・・・ダメ・・・じゃないけど」


そんな顔されたら嫌って言えないよ・・・別に私も、この髪型に拘りがあるわけでもないし。

でも、私としては、これまでの・・・ローゼリア様の髪型の方が良いと思うんだけどな。


「ふふっ、なら決定だし」


私の気も知らずに、メイドリーが嬉しそうに微笑む・・・こんなに素直に喜びを表現する彼女を見たのは初めてかも知れない。

ローゼリア様の前では固まりがちなメイドリーにしては珍しく自然な感じと言うか。


まぁ・・・本人がそれで良いなら、いっか。


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