第50話 「交代は、なしで・・・」
「メイドリー・・・早く、怪我の治療を・・・」
準決勝は負けてしまったけれど、今はそれどころじゃない。
赤く腫れあがったメイドリーの足首・・・さすがに骨は折れてないと思うけど、素人の私には何とも言えない。
一歩歩くたびにメイドリーの顔に汗が浮かんで・・・すごく痛そうな事はわかる。
会場のどこかに治療用の術士のいる医務室があるはず・・・早くメイドリーを連れて行かないと。
けれど、メイドリーに肩を貸しながら通路に向かおうとした所で、彼女は私を制止した。
「ダメ・・・まだ競技は終わってないし」
「め、メイドリー?!・・・な、何を言って」
「この後の3位決定戦に勝てば入賞・・・ローゼリア様から勲章を貰えます」
「・・・!」
3位決定戦・・・準決勝で負けたペア同士で行われる試合。
メイドリーの言う通り、そこで勝てば勲章を貰うことが出来る、けど・・・
「けど・・・その足じゃ・・・」
諦められないメイドリーの気持ちもわかるけど、不正防止の為、競技終了までは魔法による治療を受けられないルールだ。
3位決定戦に出るのなら、それが終わるまでメイドリーの足はそのまま、怪我した足で試合しないといけない。
同じ敗者とはいえ準決勝まで進んで来るような相手に、そんな状態のメイドリーと私で勝てるとは思えない。
だけど、そんな事はメイドリーもわかっていた。
「ナデシコ・・・今すぐ、私の代わりを探して下さい」
「え・・・」
「負傷した際の選手の交代はルールで認められています、誰か他の生徒と組めれば・・・まだ勝てます」
・・・一瞬、メイドリーが何を言っているのか理解できなかった。
ルールによれば、ペアのどちらか片方に限り1回だけ・・・選手の交代が認められている。
既に体育祭も半ばだ、既に自分の出場種目が終わった生徒なら引き受けてくれるかも知れない。
けれど・・・その場合は・・・
「今のナデシコならきっと大丈夫です、誰と組んでも勝てるはず・・・」
「でも・・・そうしたら・・・メイドリーが・・・!」
交代したら、メイドリーはローゼリア様から勲章を貰えない。
その為に今までがんばってきたはずなのに・・・メイドリーの交代は、棄権するのと何も変わらないのだ。
それじゃあいったい、メイドリーは何のために・・・
「私は・・・そう、ですね・・・きっとこの怪我は私への罰なのかも」
「いやそれは・・・私を助け___!」
その時メイドリーが浮かべた表情を見て・・・私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
なんだか、とても辛そうで・・・と言っても、怪我が痛むとかじゃなく。
もっと思い詰めたような・・・悲しげな雰囲気をさせていて・・・
「ナデシコ、ごめんなさい・・・」
私と目を合わせる事を避けるかのように、伏目がちに・・・
メイドリーは弱々しい声で話し始めた。
「本当の事を言うと・・・私最初からローゼリア様が目当てで、ナデシコに近付いたんです・・・ペア決めの時にナデシコがあぶれたのを見て・・・今がチャンスだって思って」
それは・・・知ってるよ。
メイドリーはローゼリア様が大好きだもの、そんな理由でもなければ私と組もうなんて誰も思わない。
だから私は・・・
「これをきっかけにローゼリア様とお話が出来たら良いなって・・・そんな願いをナデシコはすぐに叶えてくれて、それどころかお食事をご一緒したり・・・お部屋でのお茶会に呼んで頂いたり・・・もう毎日が夢みたいで」
それは・・・そうしないと、どこかで見捨てられるって思ったから。
私なんかと組んでくれて、あんな風に懇切丁寧に面倒を見てくれるのなんて、メイドリー以外にはいないもの。
そうだよ、交代とか言っても、私に代わりなんて見つけられるわけが・・・
「・・・だから私は、ナデシコに勝ってほしいんです・・・勝って入賞して、後で振り返った時に『楽しい体育祭だった』って思えるように・・・私に出来る事は、それくらいしか思いつかないし・・・」
そんな事なら・・・もう・・・
私はこれまでずっと、運動には嫌な思い出しかなかったけど・・・今は違うもの。
それも全部メイドリーがいてくれたから・・・メイドリーと一緒にがんばるこの体育祭は、充分に楽し・・・
いや、まだだ・・・まだ終わってない。
「・・・メイドリー、ごめんなさい」
「・・・ナデシコ?」
「その・・・交代は、なしで・・・私、メイドリーがいい」
「なな、なにを・・・?!」
メイドリーは明らかに動揺した表情を浮かべて・・・まぁ、そうだよね。
怪我人を続投させようだなんて、人のする事じゃない・・・ぐうの音も出ない程鬼畜の所業だ。
それにきっと・・・
「まさかこのまま・・・私と試合に?・・・ど、どう考えても勝つのは無理だし!」
「いいよ!・・・勝てなくても・・・いいから・・・」
勝ち負けなんかじゃない・・・最後まで2人で一緒にがんばったって体育祭にしたいんだ。
きっとそれが・・・私にとって1番楽しいと思えるから。
「・・・」
返答に迷っているのか・・・それともおかしな要求をする私に呆れて、ものも言えなくなってしまったのか・・・
メイドリーは何も答えてくれない。
もし迷っているのなら奥の手だ・・・私は頭の後ろに手を回して・・・ポニテを解いた。
「これ・・・メイドリーにあげる」
「・・・このリボンは・・・もしかして?!」
「・・・うん」
そう・・・ローゼリア様に貰ったリボンだ。
・・・さすがメイドリー、見ただけでそういうのわかるんだね。
たぶん試合は負けて、勲章は貰えないだろうけど・・・その代わりとしては充分な品だと思う。
・・・ローゼリア様には怒られちゃうかもしれないけど、事情が事情だし・・・
「私と一緒にがんばってくれるなら・・・メイドリーに、あげる」
「・・・」
ごくり、と・・・メイドリーの喉が鳴るのが聞こえた。
これでダメなら私も諦めるしかない・・・怪我の状態的に無理かも知れないし・・・その時は、棄権でもいい。
「け、怪我で・・・メイドリーが辛いなら・・・諦める、けど・・・」
「・・・や、やりますし!こんな怪我なんて・・・こうすればへっちゃらですし!」
そう言ってメイドリーはリボンを受け取ると・・・怪我をした足首に巻いた。
・・・私にはよくわからないけど、応急処置みたいなやつっぽい。
リボンを巻き終えると、メイドリーは足の状態を確かめるように、軽く地面を踏みしめ・・・
「う・・・な、なんとかなるし!」
渋い顔をした・・・さすがにそこまでの効果は期待出来なそうだ。
けど、やる気にはなってくれてるみたい。
私達がそうこうしているうちに、決勝戦が終わり・・・例のドワーフ女子のペアが優勝したようだ。
そして、この後すぐに3位決定戦が行われる。
3位決定戦は決勝戦と同じコースだ・・・これまでよりも岩が大きく、難易度が高くなっている。
「ナデシコ・・・あまり助けてはあげられないけど」
「う、うん・・・がんばる」
2人を繋ぐロープ・・・これまではメイドリーに引っ張って貰って、助けて貰うばかりだったけど。
ここは逆に私がメイドリーを助けるくらいの気持ちでいないと。
並んでスタートラインに立つ・・・対戦相手は・・・さすがにドワーフ女子みたいな規格外の雰囲気じゃない、普通の生徒に見えた。
「位置について、よーい・・・」
ここで勝てなくても構わない・・・だけど、最後までがんばるんだ、メイドリーと一緒に。
スタートの係の人が旗を振り上げるのと同時に、私達は一斉に駆け出した。




