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第49話 「ここに集いし勇士達よ」


王立学園体育祭___


それは王立学園に通う生徒達による運動の祭典。

健やかに育った王国良家の若者達が、その身体能力を競い合う。

こんなイベントが学園内だけで収まるはずはなく・・・


この日、私達学園生徒はクラス毎に集まると、学園の門を出て街へ・・・

王都の中心部に建つ、大きな競技場へと行進する事になった・・・その先頭を行くのは、戦女神の巫女の衣装を纏ったローゼリア王女殿下だ。

さすがは『王立』学園・・・学校行事も王家主催で、王都開催という事らしい。


それは・・・良いんだけど。


「は・・・恥ずかしい・・・」


あまりの恥ずかしさに、私は身を縮こませ、震えながら歩いていた。


「ナデシコ、もっとしっかり歩きなさいよ」


隣からアクアちゃんの叱咤が飛んできた・・・身長順なので、自然と私の隣はアクアちゃんになる。

さすがと言うか、アクアちゃんは観衆の視線にも動じる事無く堂々と歩いていた。


「た体育祭で・・・こんな事、するなんて・・・うぅ・・・恥ずかしい・・・」

「また『大和撫子の奥ゆかしさ』ってやつなの?・・・少しはローゼリア様を見習ったら?」

「それと、これは・・・じ事情が・・・」


ローゼリア様を先頭に大通りを行進する生徒達の行列は同じ格好で、さながら女王が率いる軍勢のよう。

行進の邪魔にならないように、一般市民の皆様が道の両端に寄りながら見物しているわけなんだけど・・・

たぶん・・・この恥ずかしさは私にしかわからないと思う。


だって・・・体操服なんだよ?


西洋風の雰囲気たっぷりな街並みの中を、日本の体操服を着た集団が行列で練り歩く・・・それが今の私達だ。

なんてシュールな光景なんだろう・・・先頭に居るのが、これまた雰囲気たっぷりな衣装のローゼリア様ってあたりも拍車をかけている。

ああ・・・もし映像に残すなら先頭だけを切り取ってほしい、後ろは写さないか、ぼかし処理で・・・そんな私の願いは虚しく・・・


「あ、撫子ちゃ~ん!」


見物する一般人に混ざって、路地の方から長久保さんが能天気に手を振ってきた。

しかもその手に持っているのは・・・カメラ?!

え・・・まさか撮ってる? 撮ってるの?!


「や・・・やめ・・・」


思わず両手で顔を覆うけど・・・もはや手遅れだろう。

学生寮の事務員とは仮の姿、長久保さんの本職は外務省の駐在員だ。

そんな彼が私の参加する学校行事の映像を撮っているのなら、その目的はきっと・・・日本に居る私の両親に見せるやつだ。


な、なんて恥ずかしい姿を・・・お茶の間で私の姿を見て面白がる両親が目に浮かぶようだ。

幼い頃以来した事がないポニテリボンスタイルなのもまずい・・・きっとからかわれる。


「ナデシコってば!足止まってる!」

「あ・・・ごごめん!」


アクアちゃんに怒られて、慌てて小走りで進む・・・

もう一度路地の方を見ると、長久保さんの姿は既になく・・・けれど、あの様子では会場に向かった可能性が高い。

またいつどこでカメラを向けられるか・・・別の意味でも油断出来ない体育祭になりそうだ。


生徒達の行列は、競技場の大門の前で一旦停止した。

巫女に扮したローゼリア様がここで祈りを捧げるのだ・・・会場として使わせてもらうこの場所への感謝みたいな。

そういった点は、日本人の私も馴染み深いものを感じた。


ゴゴゴゴ…


祈りの儀式が終わると、鈍い音を立てて・・・生徒達を迎え入れる為の大門が開いていく。

と同時に大きな歓声が上がった・・・ローマコロッセオもかくやという石造りの競技場を埋め尽くす大観衆・・・全部で何人いるのかもわからない。

たかが学生の運動会とはとても思えない熱狂っぷり・・・会場の警備の為に兵士達の姿もあちこちに・・・王家主催って、こういう事か。


ここからは各クラス毎に列が分かれて・・・各々所定の配置に整列する。

この辺は体育祭らしいと言うか、大観衆がいるから夏の甲子園みたいだなって思った。

整列を終えると、中央に設けられた祭壇のようなものにローゼリア様が上っていく。


白の簡素なチュニカの上に、半透明かつ極彩色の飾り帯を幾重にも絡ませたその姿は、まるで虹を纏っているかのよう。

不思議な事に、その長い飾り帯の数々は地面に着く事なく・・・ゆらゆらと宙を舞い踊るかのように漂っている。

きっと魔法によるものなんだろう・・・私にはさっぱりだけど。


戦女神の神器たる一振りの槍を、神への供物のように捧げ持ちながら・・・ローゼリア様は祭壇の上に辿り着いた。

そのままの姿勢を保ちつつ、一礼、二礼・・・楕円形の会場の四方それぞれに礼をした後。

ローゼリア様は私達生徒の方へ向き直ると、神器たる槍を高々と振り上げた。


「ここに集いし勇士達よ・・・この青き天の元、いざ競え!」


凛としたよく通る声が競技場に響く。


「その鍛えた肉体と、磨き上げし技を、いざ示せ!」


槍を掲げて、声を轟かせる・・・その姿はまさしく戦の女神をその身に宿したかのよう。


「魔の力は用いず、邪なる企てなく・・・清廉なる意思で、いざ誓え!」


古代の兵士さながらに、鬨の声や雄叫びを上げてしまいたくなる・・・そんな雰囲気の中。

生徒達は声を上げる事無く、一糸乱れぬ動きで地に跪いて、女神への臣従を示す・・・もちろん私も遅れないように跪いた。

この一連の流れは日本で言う所の選手宣誓・・・だと思う、こっちでは選手の意思表示ではなく、戦女神に命じられる形を取るようだ。


「・・・宜しい・・・戦女神は今、汝らの意思を受け取った」


そう言うと、ローゼリア様は再び槍を捧げ持ち・・・祭壇に収める。

これにて儀式は完了・・・これまで静まり返っていた客席から一気に歓声が沸き上がった。

先程までの神懸かり的な所作と打って変わって・・・ローゼリア様本来の優雅さで観客の声援に応えながら、彼女は主賓席へと納まる。


これにて開会式は終了。

私達はクラス毎に分かれたまま、客席の真下に用意された待機スペースへ移動した。

野球のベンチスペースみたいなのが各クラス分用意されているようだ・・・ここの設計も日本が関わっていたりするんだろうか。

とりあえず自分達の種目が来るまでは観戦していれば良いんだけど・・・先生から腕輪のような物が配られてきた。


「あの・・・これは・・・?」

「魔力を抑制する魔導具です、体育祭中はこれを身に着けてください」


先生にそう言われて、魔法の使用は禁止っていうルールだったのを思い出した。

ただ禁止って言っても魔法はこっそり使えてしまうから、こういう物が必要になるのだとか。

・・・魔法の使えない私には関係ないとは思うけど、ルールだから仕方ない。


手首にぴったりしたサイズで、一度着けると鍵がないと外れないようになっている。

なんか手枷みたいだなって思ったら、鎖付きの罪人用もあるらしい・・・そっちは両手もしっかり固定されるようだ。


「治癒の魔法も使えなくなるので、競技外での怪我には気を付けてください」


競技中に怪我をした場合は、競技の終了後に医療スタッフ的な人が治してくれる。

気をつけないといけないのは、あくまで競技の終了後という点。

その前に治療をしたければ棄権しないといけない・・・結構厳しいルールだ。


生徒全員の腕輪の装着を待ってから、最初の種目が始まった。


最初の種目はシンプルな陸上競技、200m走・・・しかしこの体育祭では全ての種目がペア前提になっているので、リレー形式だ。

純粋な早さ勝負・・・のように見えて、バトンの受け渡しが勝敗を左右するシーンが多かった。

基本的に足の速さに自信のある生徒が選びやすい種目のため、速さそのものは拮抗しやすい・・・ってメイドリーが言っていた。


続く800m走、1600m走は距離が増えただけで変わらない。

この辺りで足の速い生徒は出尽くしている、というのがメイドリーの見立てだ。

私達が参加する種目を選ぶ時から、メイドリーは対戦相手を意識していたみたい。


「私達の参加する『ダブルロックラン』は、そういう意味では半端な生徒が来やすいんです・・・勝ち目は充分ありますよ」

「そ・・・そうなんだ・・・」


いざ『ダブルロックラン』が始まってみると、メイドリーの言葉の通りだった。

私達が予選でぶつかったのは、まさに迷っている間に他の種目が埋まってやむを得ず・・・みたいな生徒達。

それでも運動音痴な私と違って、基本的には日本人よりも運動の出来る異世界人だ、油断できない強敵・・・と思っていた。


「あ・・・あれ・・・勝った?」

「はい、無事予選突破です」


魔法によって生み出された岩だらけのコースは、思ったほど険しくなくて。

メイドリーと練習した成果・・・なのかな、私達がゴールした時には相手ペアはまだ真ん中のあたりで・・・大差だった。

これには自分でも信じられないくらいで・・・もちろん他の生徒に至っては驚くばかりだ。


「ナデシコ様って、運動はあまり・・・だったはずなのに?!」

「あの動き・・・体育の授業とはまるで別人じゃないか!」

「これはまさか・・・そういう事なのか」

「何か知ってるのか、ライゼン?!」

「聞いた事がある・・・ニホン国は国土の大半が険しい山岳地帯だと・・・そこで生まれ育った大和撫子にとって、あの程度の岩は平地となんら変わらないのだろう」

「「?!」」


なんかクラスの皆が騒がしい・・・メイドリーの言う通りに本番まで実力を隠してたからかな。

私自身もここまで出来るとは思わなかったよ・・・もちろんメイドリーに頼ってる部分が大半なんだけど。

その後も私達の快進撃は続き、準決勝進出・・・ここで勝てば表彰台に上がって、ローゼリア様から勲章を貰えるのが確定する・・・そんな時だった。


「な・・・なに・・・あれ」


準決勝の対戦相手として出てきたのは、体操服からはちきれんばかりの筋肉に覆われた2人の女せ・・・えっ、女生徒?!

身長的には大きくはないけど、パンパンに膨らんだ上腕の筋肉が、体操服の袖口を破きそうなくらいに引き伸ばしている。

フレスルージュ王国の中にあって、良家の子女が通う王立学園にこんな・・・こんな生徒がいるだなんて・・・


「そうか・・・ドワーフ族がいたし!」

「・・・っ!」


ドワーフ族・・・そう言われてみると、確かに。

性別こそ違うけど、以前にドワーフの工房で見かけたドワーフ達と、その特徴が一致する。

エルフ族のフィーラが留学生としているように、ドワーフ族からも留学生がいたのか。


「どど、どうしよう・・・あんなのに・・・か、勝てるわけが・・・」

「く・・・くぅぅ・・・」


さっきまで自信に溢れていたメイドリーも、険しい表情を浮かべていた。

ドワーフ族と言えば山岳地帯に住む種族だ・・・それこそ岩なんてものともしないに違いない。

この『ダブルロックラン』はドワーフ族の為にあるような種目・・・そういう風にすら思えてしまう。


「や、やってみなければわからないし!」

「あらあら、元気のいい人間ですこと・・・」

「?!」


意外な事に、いかついその見た目に反してドワーフ女子は上品な口調で話しかけてきた。


「姫様、競技前に対戦相手を煽るような言動はいかがなものかと・・・」

「あら失礼、どうかお許しくださいませ」


もう一人はなんか知的な感じで・・・でもドワーフだ。

なんか姫様とか言ってたけど・・・ドワーフにも王家とかあるらしい。

でも、そういう高貴な身分という事は・・・運動は得意じゃないかも・・・


・・・なんて事もなかった。


序盤こそ私達がリードしていたものの・・・


「さぁ、参りますわよ!真っ直ぐです、真っ直ぐにぶち抜いてやりますわ!」

「はっ!姫様の仰せの通りに・・・」


突然、後方から物凄い勢いで迫って来て・・・


「のろまな亀さんは、お退きあそばせ!」

「あわ・・・ぶ、ぶつか・・・」

「ナデシコ?!」


ちょうど岩の上からメイドリーに引っ張り上げて貰っている所の私に、接触するようなコースでドワーフ女子が!

無理無理無理・・・あんな筋肉の塊・・・押しつぶされちゃ・・・


「危ない・・・ッ!」


不意にロープが勢いよく引き上げられて・・・メイドリーが思い切り引っ張ってくれたんだ。

すんでの所で、私はドワーフと岩のサンドイッチにならずに済んだ。

けれど、勢いをつけ過ぎて・・・ロープを引いたメイドリーはバランスを崩してしまった。


「め、メイドリー?!」

「こ、これくらい・・・へいきだし・・・う゛」


岩の上でバランスを崩し、転倒したメイドリー。

よろよろと立ち上がったけど・・・その足首が・・・


「へ、平気じゃ、ないよ・・・こんな・・・」

「大丈夫だし!はやく、ゴールに・・・」


大丈夫と言いながらも、ぎこちない足取りのメイドリー。

それもそのはずだ・・・彼女の足首は真っ赤に腫れ上がっている、こんな状態では歩くのだって辛いはずだ。

その間にも、ドワーフ2人はすごい勢いで岩の上を駆け抜けていって・・・



・・・結局、私達は準決勝に敗退。


ドワーフ女子達が決勝戦に進出したのだった。



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