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第47話 「絶対に、勝ちましょう!」


「貴女がぁ、噂の大和撫子ちゃんね、話は聞いてるわ~」

「あ・・・は、はじめまして・・・」


着崩れた部屋着を直そうともせずに、私の周りを回るように移動しながら観察してくる。

その仕草は・・・なんというか、人懐こい大型犬を連想させた。


これがメイドリーのお姉さん、メイプル先輩・・・先輩、なんだよね?

ぐうたらな姉がいるとは聞いていたけど・・・見た感じは確かに、ちょっとだらしない印象だ。

姉妹なだけあって見た目はメイドリーとよく似てるんだけど、雰囲気というか、人となり?はまるで別人のよう。


「お姉ちゃん!恥ずかしいから早く着替えるし!」

「ちょっと・・・メイドリーちゃん?!」


顔を真っ赤にしたメイドリーが、慌ててメイプル先輩を部屋の中へと引っ張っていく。

残された私は、勝手に部屋に入るわけにもいかず・・・一人途方に暮れるばかりだった。

ど、どうしよう・・・なんだか立て込んでるみたいだし、今日の所は出直そうかな・・・なんて考えていると。


「ごめんなさい、ナデシコ・・・うちの姉がとんだ粗相を・・・」


姉を部屋に置いて、メイドリーが出てきてくれた。

いつも通りのローゼリア様と同じ髪型にセットされた髪、服も着替え終わっていてメイプル先輩とは対照的だ。


「メイドリーちゃん、スカートが見当たらないんだけど~」

「それで、今朝はいったいどんなご用ですか?」


なんか部屋の中からメイドリーを呼ぶ声が聞こえてきたんだけど・・・メイドリーは意図的に無視して私に話しかけてきた。

朝食を誘いに来たんだけど・・・こんな状況で・・・い、良いのかな?

少し・・・いや、かなり不安になりながら、私は話を切り出した。


「ええと・・・あの、ね・・・これから、一緒に朝ごはんを食べようって・・・さそいにきたんだけど」


やっぱり気まずくて・・・私の声がどんどん小さくなっていく。

あ、そうだ、ローゼリア様も一緒だって伝えないと。


「もちろんローゼリ・・・」

「ローゼリア様と?!ご一緒して良いんですか?!」


さすがメイドリー・・・私がローゼリア様の名前を言い切るよりも早く食いついてきた。

こんなストレートな反応をされると、誘った私もちょっと気分が良い。

でも・・・


「あの・・・お姉さんは、大丈夫?」

「あ・・・」


一応確認の為に聞いてみると、メイドリーは渋い表情を浮かべた。

やっぱり・・・思えば、これまで朝の食堂でメイドリーを見掛けた事はなかった。

単純に混んでいてわからない、というのもあるだろうけど・・・この様子では、結構ギリギリの時間になっているのかも。


「・・・行ってきなさい」

「え・・・」

「お姉ちゃん?!」


迷いを見せたメイドリーの背中を押したのは、当の本人メイプル先輩だった。


「私の事は気にせず、メイドリーちゃんの好きなようになさい」

「で・・・でも・・・お姉ちゃん」

「心配しないで・・・メイドリーちゃんがいなくても、自分の事は自分でやるわ」


不安げなメイドリーの頭を優しく撫でながら、メイプル先輩は力強く微笑みかける。

なんだか、すごく良いお姉さん、という感じだ・・・そこだけだったなら。


「お姉ちゃん・・・制服の前と後ろ逆に着てる」

「あらあら・・・」

「そもそもスカートも履かずにこっち来ないで」


メイプル先輩・・・言ってる事とやってる事か全然食い違っているよ。

どうしたらそうなるのか、前後を逆に着たブレザーといい、スカートは・・・そういえばさっき見つからないって。


「だ、だって・・・メイドリーちゃんが教えてくれないから・・・」

「もうっ、あそこの引き出しに仕舞ったって昨日言ったし!」

「なぁんだ、そんな場所にあったのね」

「なぁんだ、じゃないですし!・・・もうっ!」


本当にこのお姉さんをここに放って置いて良いのか・・・ものすごく不安になってきた。


「メイドリー・・・やっぱり、今日は・・・や、やめ・・・」

「今すぐ行きますし!こんなの放っといて良いですし!早く行きましょう」

「え・・・えええぇ・・・」


勢いよく部屋を出たメイドリーを追いかけるようにして、私も部屋を後にする。

一瞬だけ、チラッと部屋のメイプル先輩の様子を伺うと、なんか笑顔で手を振ってきた・・・本当に大丈夫かなぁ。


食堂に辿り着いた私は軽く座席を見渡す・・・と、お目当ての席はすぐに見つかった。

ローゼリア様は存在感があるので、とても目立つのだ。

すると、隣でメイドリーの動きが硬くなった・・・早くも緊張しているみたいだ。


「メイドリー・・・力を抜いて」

「あ・・・は、はい・・・」


余計な力を抜くように促すと、メイドリーはすぅっと大きく息を吐いた。

それでもまだまだ硬い・・・まぁ、こればっかりは仕方ないよね。

今の私に出来るのは、せいぜい背中をさするくらいだ・・・少しは楽になると良いんだけど。


「ローゼリア様・・・お待たせしましてすいません」

「ナデシコ、無事にメイドリーを誘えたのね」


ローゼリア様の元に辿り着くと、安堵したような表情を浮かべた。

ひょっとして、私の事だからメイドリーを誘えなかった場合を心配してたんだろうか・・・我ながら否定出来ないのが辛い。


「ろ、ローゼリア様・・・ごご、ご機嫌麗しゅう・・・」

「おはよう、メイドりー・・・急に誘ってしまってごめんなさいね」

「そそ、そんな事ないですし、ご一緒出来て嬉し・・・こ、光栄ですっ」


相変わらずメイドリーは緊張しっぱなしだけど、以前と比べて喋れるようになった気がする。

少しは慣れてきたのかな・・・ローゼリア様の方はすっかり気を許してくれているようで、和やかに朝食の時間が流れていく。

メイドリーは緊張してるし、私は私でお喋りは苦手な方だけど・・・不思議とローゼリア様との会話は弾んだ。


「2人とも毎日遅くまで練習がんばってるけど、大丈夫?無理はしてない?」

「大丈夫です・・・メイドリーが気遣ってくれるので・・・怪我もなく、順調です」


チャンスがあればメイドリーを持ち上げるのは忘れない。

ローゼリア様に好印象を持ってもらおうという作戦だ・・・でも実際にメイドリーのおかげで助かっているのも事実。

私は正直な感想を伝えているだけだ・・・それさえもこうして意識してないと上手く言葉に出来なかったりするのが私なんだけど。


「まぁ、メイドリーは随分ナデシコに信頼されているのね」

「それはもう、メイドリーのおかげで・・・私、急成長してるんですから」

「ふふっ・・・優秀なコーチなのね」

「そ、そんな・・・私なんて・・・たいしたことないですし・・・」


そう言いながらも、メイドリーの頬が緩んでるのを私は見逃さなかった。

よかった・・・これで私も少しはメイドリーに恩を返せたかな。

いや、まだだ・・・メイドリーがしてくれた事を思えば、この程度じゃぜんぜん釣り合わないよ。


「そうだ、ローゼリア様も今度、私達の練習を見に来ませんか?」

「なな、ナデシコ?!何を言ってるし・・・」


突然の事にメイドリーは困惑しているけど、我ながらこれは良い考えだと思う。

ローゼリア様も一人だけ体育祭の練習に参加出来なくて寂しそうだし、興味を持ってくれるのでは?

そう思ったんだけど・・・ローゼリア様は残念そうに首を振った。


「ごめんなさい・・・私は私でやらないといけない事があるの」


ローゼリア様も主賓としてただ観戦するだけ、というわけではないらしい。

競技の勝者へ勲章を与えたり、専用の衣装を着て、体育祭の無事を祈願したりと、儀礼の主役的な立場でもあるようだ。

私達が練習しているその時間に、ローゼリア様はそれらの準備や練習を行っているのだとか。


「専用の・・・衣装?」

「ええ・・・私は戦女神の巫女という役割で・・・伝統的な巫女の装束とは少し違うのだけど」

「何ですかそれ詳しく聞かせてくださいし!」


専用の衣装と聞いて、私もメイドリーも興味津々と言った感じでローゼリア様に迫ってしまった。

本当は秘密だからとローゼリア様は念を押しながらも、私達だけにこっそりと・・・うわ、そんな衣装なんだ。

巫女というだけあって白をベースにしながらも、ローゼリア様の体形を活かせるように大胆なアレンジが・・・


「絶対、似合うと思います!」

「め、メイドリー・・・声、声・・・」

「あっ・・・ごめんなさい、ついお姿を想像しちゃって・・・」


興奮して大きな声を出したメイドリーを慌てて窘める・・・よかった、朝食時間の喧騒に紛れたっぽい。

きっとメイドリーの事だから、まだ見ぬ衣装を着たローゼリア様の姿がありありと想像出来たんだろう。

残念ながら私は実物を見ないと・・・なんとなく凄そうってくらいしか・・・想像つかないや。


「あ、あの・・・勲章の授与も・・・その衣装で?」

「ええ・・・開会から閉会まで、ずっとその衣装のままのはずだけど・・・」

「だって・・・ナデシコ、今の聞いた?」

「・・・え?」


聞こえてはいたけど・・・

メイドリーがなんでそんな事を言い出したのかまではわからず・・・私は首を傾げた。

なんだかメイドリーの様子が・・・こう、メラメラというかギラギラというか・・・


「ナデシコ、絶対に、勝ちましょう!」

「・・・はいぃ?」


か、勝つ?! 私達が?!

確かに練習は頑張ってきたけど、それはあくまでもダメダメで無様な姿を晒さない為であって・・・

競技で勝つとなると、話は変わってくるんじゃないかな・・・ほら、対戦相手とかいるし。


「ローゼリア様! 私達・・・必ず勝って、ローゼリア様から勲章を頂きます!」

「それは素敵ね・・・楽しみにしてるわ」

「ええ、楽しみにしていてください! 私とナデシコで、勝利を捧げます!」


すっかり興奮してしまったメイドリーはノリノリで、とんでもない事を口走ってくれた。

こういうのって、負けた時恥ずかしいやつだよ?! 本当に大丈夫?!


「じゃあ・・・私も、2人が買った時の為に特別なご褒美を用意しようかしら」

「____!!」



ローゼリア様?! ただでさえメイドリーが暴走気味な所に、なんてことを・・・

ああ、メイドリーの目が血走って・・・火に油を注ぐとはこの事だよ。

『絶対に負けられない戦い』・・・そんな言葉が脳裏を過る・・・今のメイドリーはそんな顔だった。


「ナデシコ・・・今日も練習、頑張りましょう」

「・・・う、うん」


激しく嫌な予感・・・そしてそれは的中して・・・

その日の放課後から、メイドリーの練習メニューは、かなりハードなものに変わったのだった。


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