第43話 「よく似合ってるわ」
私がメイドリーと友情を育み、一緒に体育祭をがんばろうと気合を入れた・・・その翌日の事である。
「き、筋肉痛が・・・がが・・・が」
目を覚ました瞬間から全身を苛む痛み・・・私は筋肉痛に襲われていた。
気合を入れて張り切った、その結果がコレだよ。
貧弱なこの肉体はちょっとがんばると簡単に悲鳴を上げる・・・ベッドから起き上がるのも一苦労だ。
「ナデシコ、大丈夫? 今日は学園をお休みする?」
「う・・・」
ローゼリア様の甘美な誘惑・・・お休み・・・ちょっと心が動かされそうになった。
でもメイドリーと2人で一緒にがんばろうって決めたばかりだ。
こんな筋肉痛程度で、お休みするわけには・・・いかない。
「だ、大丈夫です・・・これ、くらい」
「そう? ナデシコ、無理はしないでね」
そんな風に本気で心配されると・・・お休みに心を動かされてたのが恥ずかしくなる。
やっぱりがんばらないと・・・幸いな事に今日の体育は午後からなので・・・きっとその頃にはこの筋肉痛も治まっているはず。
・・・治まってるといいなぁ。
私が筋肉痛と戦っている間にも、ローゼリア様は手早く支度を済ませていく。
そう言えばローゼリア様の髪型って、どうやってセットしているんだろう。
たぶん魔法を使っているんだろうけど・・・メイドリーの事があったのでちょっと気になってしまう。
「・・・ナデシコ?」
ちょうどローゼリア様が髪を弄り出したので・・・じっと見ていると、ローゼリア様は不思議そうにこっちを振り返った。
背中に目でもついているんだろうか・・・いや普通に鏡か。
「その・・・髪型が、気になっちゃって・・・どうやって巻いてるのかなって」
「・・・ナデシコも巻いてみたいの?」
「え・・・」
いや・・・さすがに私の髪を巻くとか・・・絶対似合わないと思う。
毛先だけドリルみたいになった自分を想像して、私は激しく首を振った。
うん、どう考えても無理・・・やっぱりああいうのはローゼリア様だから似合うんだよ。
「そうね・・・やっぱりナデシコは今のままが良いと思うわ・・・あ、でも」
「?」
そこでローゼリア様は何かを思いついたような顔で、すっと立ち上がり・・・私の背後へと回り込んだ。
え・・・ローゼリア様?! いったい何を・・・
「動かないで」
「は、はい・・・」
そう言われてしまうと、私はもう指一本動かせなくなった。
なんか髪を掴まれてるような感触・・・ちょっとぞわぞわして・・・首筋のあたりに風を感じる。
「・・・これで良いわ」
もう動いても良さそうなので、ローゼリア様の方へ振り返ると・・・私の動きに合わせて髪が流れた。
同時に、微かに引っ張られるような後頭部の感覚・・・髪の毛の重心も上の方に感じられて・・・あ、この感じは。
「やっぱり、身体を動かすならこの方が良いと思うの、どう?」
「・・・」
鏡に映る姿は、私の予想した通り。
真っ赤なリボンで結わえられたその髪型は、所謂ポニーテールというやつで・・・
ただでさえ低身長の私としては、子供っぽく見えてしまうこの髪型は、あまり好きではなかった。
けれど・・・
「ふふ・・・ナデシコ、よく似合ってるわ」
私を見て微笑むローゼリア様を見ていると、そんな些細な事はどうでも良くなってしまった。
たしかに首元が涼しく、動きやすい・・・それよりも気になったのは真っ赤なリボンだ。
ローゼリア様の私物にしては、ちょっと子供っぽいと言うか・・・ミスマッチを感じる。
「ローゼリア様・・・このリボンは・・・」
「あ、気付いちゃった・・・それはね」
問いかけると、ローゼリア様は悪戯がバレた子供のような顔を浮かべた。
「ナデシコのパートナーになってあげられなかったでしょう? そのお詫びというか・・・代わり」
「え・・・」
「ごめんなさい」
そう言うと、ローゼリア様は申し訳なさそうに頭を下げた。
そんな・・・あれはどうしようもない事で、ローゼリア様が気にするような事じゃないのに。
「それを身に着けて、私の分までがんばって・・・って言うのは、ずるいかしら?」
「そ、そんな事っ!・・・ない、です」
ブンブン…
私が首を振ると、ボリューム感のあるポニテが激しく左右に踊った。
なんかえらい間抜けな感じがする・・・そして、それを見たローゼリア様は・・・
「ふふっ・・・やっぱり、よく似合ってるわ」
笑いを堪えながら・・・ローゼリア様、さすがにそれは私もわかるよ。
私は容赦なくリボンに手を掛けてポニテを解く。
「あっ・・・」
ローゼリア様は残念そうな顔を浮かべるけど、構わない。
やっぱりポニーテールなんて・・・ポニーテールなんて。
「・・・」
すごくがっかりした顔をしてもダメです・・・ダメ・・・なんだから。
「・・・」
「・・・運動する時だけ・・・ですよ?」
「・・・」
渋々そう告げると・・・ぱあっとローゼリア様の顔が綻んだ。
もう・・・
まぁ、体育祭が終わるまでなら、良いかな。




