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第42話 「ローゼリア様もここ跳ねてるし」


「ナデシコ様、まずは柔軟運動からですよね、お手伝いします」

「ふぇっ?!・・・わ、私・・・かか身体が」


柔軟運動と聞いて、身体の硬い私は身構えてしまった。


手伝うって、背中を押してきたりするやつだよね? アクアちゃんと組んだ時の事が脳裏をよぎる。

アクアちゃんは情け容赦のないスパルタ式だ、柔軟も力技で関節を開いてきて・・・すごく痛い。

でも痛い分だけ効果もあって、以前と比べて少しはマシになってはいるんだけど・・・出来ればああいうのは、ちょっと・・・


「身体が硬いんですよね、ちょっと失礼します」

「え・・・ちょっ?!」


そう言うなりメイドリーは、私の太もものあたりを触ってきた。

これは・・・マッサージ?・・・なんか強めの力でぎゅっと締め上げながら、脚の付け根から膝の方へと。

特に痛みは感じないけど・・・なんだかくすぐったいと言うか・・・こそばゆい。


「ん・・・」

「あっ・・・痛かったですか?」

「だ、大丈夫・・・こういう・・・な、慣れてなくて」


メイドリーが丁寧に両脚のマッサージをしてくれた後、柔軟運動を始めると・・・


「痛・・・く、ない?」


驚く程楽になっていた。

いつもなら両脚を開いた瞬間にはもう、脚の付け根のあたりが痛みを発するんだけど・・・今回はそれがない。

そこから上体を倒し始めると・・・さすがに痛い、痛いんだけど・・・そこまででもない感じ、耐えられるレベルの痛みだ。


「ここで息をゆっくり吐いてください」

「・・・ふ・・・ふー」


あ・・・呼吸していられる!

アクアちゃんの時は息がどうとか言ってられるような状態じゃなかったのに。

背中を押す手もアクアちゃんと違って、メイドリーは添えるだけ・・・それでも伸ばした私の手は、いつもよりも少しだけ前の地面に着いた。


「・・・すごい」

「がんばりましたね・・・次は右側いきますよ」

「あ・・・うん」


今度は身体を横に倒して、手を右の足先の方へ・・・こっちはそんなに変わらない。

身体の硬さそのものは改善していないようだ・・・けど、痛みが少ないので精神的にはだいぶ楽だった。

なんてことだ・・・これまでの地獄のような柔軟とは別世界だよ!


「メ、メイドリー・・・!」

「はい・・・?!」


私はひしっとメイドリーの手を握りしめた、出来る事ならぎゅっと抱きしめたいくらいだ。

・・・さすがにそれは恥ずかしくて無理だけど。

この胸からとめどなく溢れ出る感謝、感謝の気持ちを彼女に伝えたくて仕方ない。


「あり・・・あり、ありが・・・とう」


涙腺から涙も滲んできて、視界がぼやける。

この子が私と組んでくれて良かった・・・この子は神なの? 神の使いか何かなの?


「な、ナデシコ様?!どこか痛むんですか?!」


ブンブン…


急に私が泣き出したものだから、心配してそんな事まで・・・なんて良い子なんだろう。

ぐいっと雑に涙を拭って、気合を入れ直す・・・今度は交代してメイドリーの柔軟だ。

私も見よう見真似でマッサージを・・・たしかこんな感じで、グッと・・・


「ナデシコ、様・・・く、くすぐったいです・・・や、やめて」

「あ・・・ご、ごめん」


さすがに私なんかが真似出来る事ではなかった。


「メイドリーは・・・どこで、こんな・・・」

「ああ、私にはちょっとぐうたらな姉がいまして・・・昔からよくやらされてたんです」


メイドリーのマッサージはそのお姉さんの面倒を見る中で身に着けた能力らしい。

ぐうたらな姉か・・・なんか、その人にちょっとだけ親近感を覚えた。

それに私は一人っ子なので、ちょっと羨ましくもある・・・いいなぁ。


「ナデシコ様、一緒に走りましょう」

「う、うん・・・」


今日の体育の授業は、内容的には薄く、ごく基本的な運動に限られた。

体育祭パートナーの能力を互いに理解するのが目的らしい。

メイドリーはその宣言道りに走るペースを私に合わせてくれて、ゆっくり並走してくれた。


「ナデシコ様、もしペースが速過ぎたら言ってくださいね」

「だ、大丈夫・・・わた・・・がんば・・・る」


ここまでされて、甘えてるわけにもいかない、いつもよりも少しだけペースを上げてがんばった。

メイドリーは私の事をいちいち様付けして呼んで来る・・・例の大和撫子の噂のせいで高貴な出自と思われてるみたいだ。

どちらかと言えば、私の方こそ様付けで呼びたいくらいなんだけど・・・


「メ、メイドリー・・・あの・・・」

「・・・はい?」

「ごめん・・・なんでも・・・ない」


私の事は呼び捨てで良いよ・・・そう言いたいだけなんだけど。

こう本人にまっすぐ見つめられると、改まって言う感じがなんか恥ずかしいというか・・・うまく言い出せない。

今は授業中だし・・・後で適当なタイミングを見つけて言おう。


「はぁ、はぁ・・・」

「大丈夫ですかナデシコ様・・・お水飲めます?」


さすがにペースを上げて走ったせいで、私はすっかりへばってしまった。

メイドリーからお水を貰って・・・ゲホゲホッ・・・思い切りむせてしまった。


「ご、ごめん・・・水、かかってない?」

「私は平気ですけど・・・」


多少かかってしまったと思うんだけど、メイドリーは心配そうに私の方を覗き込んで来る。

くるくる巻かれた彼女の髪が目の前で揺れて・・・あれ・・・この髪型、もしかして・・・


「ローゼリア様と・・・同じ髪型?」

「!!」


私がそう呟いた瞬間、メイドリーの顔が真っ赤に染まった。

その反応は・・・たまたま、偶然・・・というわけではなさそう。

そのままじぃーっと見つめていると、耐え切れなくなったのか・・・メイドリーは恥ずかしそうに俯いて。


「な、なななんでわかったし・・・誰にも気付かれた事なかったのに」


くるくるの毛先を弄りながら、そうメイドリーは訊ねてきた。

改めて意識して見てみると、色が全然違うせいでだいぶ印象が違って見える。

けれど毎日見てきたローゼリア様の髪型と寸分違わない・・・意図しているのか、髪の癖までよく再現されている。


「・・・ここの、毛先の・・・跳ねてるの・・・わざと?」

「!!・・・そうだし、ローゼリア様もここ跳ねてるし」


やっぱり意図して再現してるんだ・・・よく見てるなぁ。

記憶の中のローゼリア様を反芻しながら、髪型の再現度の高さに感心していると・・・


「ち、近いし!」

「あ、ごめん・・・」


さすがに気味悪がって、距離を取られてしまった。

・・・メイドリーは私から髪を庇うように描き抱いて、ジロリと睨んでくる。

つい注目しちゃったけど、これじゃまるで髪フェチの変態みたいだもんね・・・ちょっと申し訳ない。


「ロ、ローゼリア様の事・・・好き、なの?」

「!?」


メイドリーはまた顔を赤く染めて・・・うわ、すごくわかりやすい。

そっか・・・メイドリーはローゼリア様に憧れてるんだね。

それはよくわかる、だってローゼリア様は・・・


「完璧な、王女様・・・って感じだもんね・・・気品があって・・・華やかで」

「そう、あの方は存在そのものが華ですし」

「凛としてる姿も・・・いいけど・・・優しい所も・・・」

「そんなギャップもたまらないのですし・・・あっ」

「あ・・・ふふっ」


そこまで語らった所で私達の目が合った・・・自然と笑みが零れ落ちる。


ローゼリア様について2人で語ると、いくらでも話していられる感じがしてきて・・・

この子は本当にローゼリア様が好きなんだなって・・・なんだか親しみが湧いてきた。

メイドリーの喋り方も、今は素というか気を使わない感じに・・・あ・・・今なら・・・うん、今なら言えるかも。


「メイドリー・・・私の事・・・呼び捨てで、良いよ」

「・・・ナデシコ」

「うん・・・よろしく、ね・・・」


思ったよりも自然に、そう言えた。

メイドリーの方もごく自然に呼び捨てに・・・恥ずかしさは感じられない。


きっとローゼリア様が繋いでくれた友情だ・・・そう思うと少し胸が熱くなった。


奇しくも、今度の体育祭ではそのローゼリア様が主賓という立場で観戦する。

きっとローゼリア様も私達が頑張る姿を見て、応援してくれる事だろう。


「一緒に・・・がんばろうね、メイドリー」

「ん・・・がんばるし」


私達は固く握手を交わし・・・


「そこの2人、まだ授業中ですよ!」

「「あ・・・」」


・・・タチアナ先生に怒られてしまったのだった。


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