閑話 メイメイ姉妹
「・・・おはようございます、ローゼリア様」
窓から差し込んで来る朝の光が照らし出すその御姿に、変わらぬ敬意を込めてご挨拶をしながら・・・私はベッドから身を起こした。
今日のローゼリア様もお美しい・・・この肖像画を手に入れるのにはずいぶん苦労したけれど、それ以上のものを私にもたらしてくれていた。
そう・・・私の朝はローゼリア様と共に始まるのだ、なんて素敵な事か。
「毎日毎日ローゼリア様・・・って、ホント飽きないわね~」
「飽きるだなんて・・・ローゼリア様はそんな低次元な存在ではないの」
「はいはい・・・でもその天井にぶら下げてる肖像画・・・いつか落ちてきて怪我すると思うわよ、賭けても良いわ」
「余計なお世話よ・・・それにローゼリア様で怪我をするなら本望ですし」
ローゼリア様の良さがわからない残念な姉を放って、私は身支度を整える。
綺麗な金の髪を持つローゼリア様と違って、私の髪は赤銅の色・・・ローゼリア様と同じように巻いたのに、ロールパンをぶら下げているかのようだ。
「いつ見ても美味しそうな髪型ね・・・お姉ちゃんお腹が空いて来たわ」
「なら、さっさと食堂に行けば良いじゃない」
「それは、メイドリーちゃんの支度が済んだら・・・ね、一緒に行きましょう」
「・・・はぁ」
私の名前はメイドリー・モラーナ、商人上がりの新興貴族モラーナ家の次女だ。
一つ上の姉メイプルと共に王立学園に通っている。
実の姉がいるからと、学生寮を同室にしてくれたのは有り難いんだけど・・・これは鬱陶しくもあった。
「メイドリーちゃんは、ローゼリア様と同じクラスなんでしょう? 本人とお話はしたの?」
「う・・・」
・・・こんな具合に。
我が姉はマイペースというか、空気を読めないというか・・・無神経な事を平気で言ってくる。
・・・それが出来たら苦労しないってば。
「そ、そんな・・・私なんかが話して良いようなご身分じゃない、ですし」
「ええっ、それじゃあまだ一言も?!・・・もう入学してからだいぶ経つのに」
「・・・あ、挨拶くらいはしましたし」
ローゼリア様とは先日の放課後、ようやく帰りの挨拶が出来たばかり。
それでも粗相のないように事前に練習をして、一生懸命勇気を振り絞った成果だ、褒めて欲しい。
しかしこの姉は、激しく失望したような表情を浮かべて大きなため息を吐いた。
「はぁぁ・・・これだからこの子は」
「な・・・時間はまだあるし、今は様子を見てるだけだし」
「そうやって様子を見てるだけだと・・・一年なんてすぐに経っちゃうわよ?」
「う・・・」
まさに我が姉はその一年をマイペースにダラダラと過ごしてきた実績を持つ。
同じ血が流れている身としては、危機感を覚えるのに充分だった。
「メイドリーちゃん、いい? この時期に出来る仲良しグループに入りそびれると・・・もう仲良くなるチャンスはないの」
「え・・・」
「何をするにもそのグループで固まっちゃうんだから・・・後から入り込む隙なんて、ないの」
一瞬冗談かとも思ったけど、姉の目は真剣そのもの。
発する声にも妙な実感が込められていた・・・まさか・・・お姉ちゃん・・・
「今がギリギリのギリギリなの・・・ローゼリア様とお近付きになりたいなら・・・後回しはダメ」
「そんなこと言われても・・・私、ど、どうしたら・・・」
「よ~く見極めなさい・・・もう仲良しグループが出来てきているはず・・・ローゼリア様本人が無理でも、その誰かと仲良くなるの」
「・・・」
ローゼリア様を取り巻く人間関係、か・・・
婚約者である生徒会長ジルノ・・・は、近付きようがないし。
学年1位、運動も出来る優等生アクア・・・なんか人を寄せ付けない雰囲気で、怖いし。
エルフ族のフィーラ・・・エルフ族とか何を話せば良いのかわからないし。
これらに加えてもう1人・・・彼女は極めつけに異質な存在だ。
ニホン国からやってきたナデシコ・・・挨拶した時の印象としては、小動物のような大人しい性格。
ローゼリア様と肩を並べる程の高貴な存在だという噂には半信半疑だったけど、あの楽器は間違いなく4名器クラス、やばいし。
こうして考えると・・・とても私なんかが入り込めるような面子ではなかった。
「あ・・・無理かも」
「メイドリーちゃん、諦めちゃダメ・・・きっとチャンスはあるわ」
「で、でも・・・」
「自分を信じて、動くの・・・メイドリーちゃんは、私と違って出来る子なんだから」
そう言ってお姉ちゃんは私の手を握った。
・・・あんまり頼りになるような姉ではないけれど、なぜだろう・・・ちょっとだけ勇気が湧いて来る。
そして・・・思ったよりも早く、そのチャンスはやってきた。
体育祭に向けての練習が始まり・・・最初に2人1組のパートナーを決める所で・・・
「あ、アクアちゃん・・・」
「悪いんだけど・・・ここは勝ちにいきたいのよ」
・・・運動が苦手なナデシコが、あぶれた。
彼女が救いを求めるように周囲を見回すも・・・誰も動かない。
相手がローゼリア様と同格と思えば、それは無理もない・・・さすがに本人に声を掛けられさえすれば誰もが了承するだろうけど。
ここで自分から声を掛けに行く勇気を持つのは難しい・・・だけど。
(自分を信じて・・・動く・・・)
そうだ、私は出来る子・・・お姉ちゃん、私・・・やるよ。
胸の奥に湧き上がる勇気に後押しされて・・・私は、その一歩を踏み出した。
「あの・・・私で良ければ組みますけど」
「えっ・・・」
彼女は信じられないものを見るような顔で・・・私の差し出した手を取った。
「私はメイドリー・・・よろしくし」
「おおお、おねがしますっ!」
こうして私の体育祭が・・・私の戦いが始まったのだった。




