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第37話 「か、間接・・・になるでしょ」


「・・・どうせそんな事だろうと思ったわ、ナデシコだし」

「あ、アクアちゃん・・・酷い」

「ま、そもそもこの私を差し置いてラブレターをもらうとか、あり得ないわよね」


まぁそれは確かに・・・アクアちゃんと私なら、どう考えてもアクアちゃんの方がかわいい。

私が男子でもアクアちゃんを選ぶよ・・・あ、でもちょっと性格がきつ・・・


「ナデシコ・・・今何か失礼な事考えなかった?」


ブンブン…


首を振って否定する・・・アクアちゃんってば勘が鋭い。


結局あの時、校舎裏にはピアニカを持って来てはいなかったので、ペイター君には後日・・・今度の休日に改めてピアニカを見せる約束をした。

ペイター君はピアニカが気になってしょうがないらしく、一度じっくりと観察したいのだとか・・・あの様子だと説明書も持っていった方が良いかも知れない。

・・・ローゼリア様といい、こっちの人には日本の楽器がそんなにすごく見えるのかな。


「そういえば・・・アクアちゃんも・・・仰々しいって」

「ナデシコの楽器の事? この上なく仰々しいと思うわよ」

「こ、この上なく・・・」


なんか前よりもランクが上がってる。

私のピアニカも異世界にさえ来なければ、こんな風に言われなかったのにね・・・不憫な子だ。


ケースからピアニカを取り出して眺めてみる・・・まだ新品なのでツヤツヤの水色ボディだ。

普通のピアニカと比べたら大きいとは思うけど、仰々しいと言う程には・・・見えないなぁ。

せっかくだから少しだけ練習していこう・・・ミーレドレ、ミミミ。


「・・・なにそれ、ニホン国の曲?」

「え、ええと・・・メリーさんの羊っていう・・・羊って、わかる?・・・家畜・・・なんだけど」


日本ではそれなりに有名な曲も、異世界では誰も知らないか。

アクアちゃんは羊さえも知らないようで、私の説明にも首を傾げるばかり。


「ヒツジ? 知らないけど・・・家畜って事はバッフターロみたいなの?」

「毛がね・・・こう・・・もこもこ、してて・・・」

「・・・ナデシコの髪みたいに?」

「う・・・」


そんな事を言いながら、アクアちゃんは私の髪をもふってきた。

ああ、でもそう言われると・・・当たらずとも遠からず・・・かなぁ。

いやいや私の髪の毛なんかと比べてたら羊に悪いよ。


「もっと・・・もっと、もこもこって・・・こう、全身が・・・ふわふわで」

「・・・全身?ふわふわ?」


イマイチ想像がつかないらしい。

まぁ、私もバッフターロという生物がどんな姿してるのか想像もつかないから・・・お互い様か。


「そういえばナデシコ・・・もしあそこで告白されてたら、どうするつもりだったの?」

「え・・・それは、さすがに・・・断るけど」

「・・・けど?」

「出来れば・・・その、傷付け・・・たくないなって・・・」

「・・・」


とはいえ、どう言って断れば良いのか・・・うーん。

今考えても、なかなか良い断り方が思いつかない・・・やっぱり私には恋愛は難しいよ。

いくら首を捻っても良い知恵は出て来ない・・・しかしアクアちゃんはそこで何を思ったのか、突然・・・


「ナデシコ・・・私も行って良い?」

「行く、って・・・どこに?」

「だから・・・今度の、お休みの日の・・・」


アクアちゃんもピアニカの事が気になったのかな?

それなら今ここで貸しても良いんだけど・・・まぁいっか。


「え・・・まぁ良いけど」


特に気にする事もなく、アクアちゃんの同行が決定した。



そして迎えた休日___



ペイター君に連れられて、私達が辿り着いたのは・・・


「おう、坊ちゃん!今日も来たのか・・・って、そっちの2人は・・・坊ちゃんの恋人か?」

「ち、違うよ!が、学園のクラスメイト!」

「ああ、ご学友ってやつか、悪い悪いガハハッ」


煉瓦造りの建物の中で私達を待っていたのは、ガハハッ・・・と豪快に笑う髭もじゃの男性。

明らかな大人な割に、その身長は低く・・・私達低身長3人組と比べても変わらない程。

しかし横方向にはだいぶ太く、がっしりした身体は強靭な筋肉が付いている・・・この特徴は、エルフ族と並んで有名な、あの・・・


「アクアちゃん・・・この人って・・・」

「ええ・・・ドワーフ族よ」


あ・・・やっぱり。

エルフがいるなら、ドワーフもいるって事だよね。

熱せられた空気といい、漂ってくる鉄の臭いといい・・・『ドワーフの鍛冶屋』という言葉がしっくりくる、ここはそんな場所だった。

よく見回すとドワーフは彼1人ではなく、この鍛冶屋の中に何人もいるようだ。


「じゃあ、いつもの工房を借りるよ」

「おう、あそこは坊ちゃん専用だ、ごゆっくりどうぞ!」


ドワーフと一言言葉を交わすと、そのままペイター君は鍛冶屋の奥の方へ進んでいく。

私達もこんな場所に置いて行かれては困るので、慌ててその後を追った。

金属の槌を振るう音があちこちから鳴り響く中・・・ドワーフから『坊ちゃん専用』と呼ばれた部屋に辿り着いた。


「さ、入って」

「お、おじゃましま・・・?!」


工房・・・たしかペイター君はそう言っていたけど・・・ちょっと印象が違う。

広めな部屋の中に大きな作業机、その上には何かの図面らしきものが散らばっている。

壁の棚には多種多彩な宝石類、鉱石類、薬品類が種類ごとに並べられていて、使用者の几帳面さが伺えた。


工房らしく工具類もたくさんあるにはあるけれど・・・

私としては、アトリエと呼んだ方がしっくりする感じだ。


「ぺ、ペイター君・・・ここは・・・」

「見ての通り、ドワーフ族の工房だよ・・・ここは僕用に貸して貰ってるんだ」

「そ、そうなんだ・・・」


ペイター君の実家が地方の山岳地帯を納める領主で・・・ここのドワーフ達はその山岳出身なのだとか。


「水晶石、風晶石、光晶石・・・どれもなかなかの物が揃ってるじゃない」


棚を眺めていたアクアちゃんが感心したように呟いた。

基本的に辛辣な彼女が褒めるという事は、それだけ良い物が揃っているのだろう。


「ま、まぁね・・・入学する前から集めていたから、それなりには揃ってるよ」


あ、褒められて照れてる。

日本人の私には何が何だかわからないんだけど・・・どれも綺麗な石にしか見えない。

なんとなく魔法っぽさを感じる名前だけど、鉱石なのか、宝石なのか・・・


「それじゃ、さっそくだけど・・・楽器を見せてもらえるかな」

「あ・・・」


そうだった、別にドワーフ工房の見学に来たわけじゃない。

本来の目的を思い出した私は、ケースを開けてピアニカを取り出した。

作業机の上に置いたら・・・あとはペイター君にお任せだ。


「・・・これが、ニホン国の楽器か・・・」


ペイター君は小さな虫眼鏡のような物を取り出すと、色々な角度からピアニカを観察し出した。


「ひ、弾いて、みても・・・良」

「それはダメ!絶対にダメ!」


私のその言葉を、アクアちゃんがすごい勢いで遮ってきた。


「あ・・・アクアちゃん?・・・ど、どうして・・・」

「どうしてってね・・・ナデシコ、わからないの?」

「・・・えっ?」


なんでアクアちゃんがそんなにムキになるのか、本当にわからなくて。

ただ困惑していると・・・アクアちゃんの様子が・・・


「・・・だって・・・ほら・・・もう、わかりなさいよ!」

「そ、そう言われても・・・」

「だ、だから・・・その・・・」


いやだって・・・わからないものはわからない。

アクアちゃんは頬を赤らめ、もじもじと両手の指を所在なさげに弄びながら・・・なんか上目遣いにチラチラと。


(うわ、かわいい・・・)


自分で美少女とか口にするだけあって、アクアちゃんは普通にしててもかわいいんだけど。

今のアクアちゃんは、それに輪をかけたかわいさ・・・『あざとさ』とでも言うんだろうか。

きっと私が男子だったら一発で恋に落ちてしまう・・・そんな魔性の魅力を発していた。


けれど・・・いったい何を言いたいのか。

はっきり言ってくれないと、どうしようもない。


「わからない・・・わからないよ・・・アクアちゃん」

「ああもう!・・・か、間接・・・になるでしょ」


なんか最後の方でごにょごにょと・・・声が小さくなってよく聞こえない。

関節炎?・・・いや、そうじゃない。

かんせつ・・・かんせつ・・・かん・・・あっ!


「あ、ああ・・・」


まったく、これっぽっちも意識してなかったけど・・・そ、そうか、そういう事か。

じゃあ、前にアクアちゃんにピアニカを貸そうとした時も・・・気にしてくれてたんだ。


「ご、ごめん・・・アクアちゃん」


私ってば・・・何も気付かずに・・・なんだか申し訳ない。


「ふぅ・・・ようやく、わかってくれたみたいね」

「う、うん・・・弾くのは、なしで・・・」

「わ、わかってるよ!それくらい当たり前だろ」


ペイター君はわかってたんだ・・・じゃあ私だけか・・・ごめんよう。

気を取り直して、作業再開・・・ペイター君は鍵盤の上のあたりにある小さな隙間・・・従来式のピアニカにはない本体部分のスリットから中を覗きこもうと必死になっている。

たしかに上手い事すればそこから見えそうだけど・・・そういえばピアニカの中身ってどうなってるんだろう。


「あ・・・説明書・・・」


ここにきてようやく説明書をケースに入れてきてたのを私は思い出した。

普通に最初から、これを見せた方が早かったんじゃ・・・慌ててケースから取り出して、ペイター君に差し出した。


「・・・これは?!」


食い入るように説明書を読みふける・・・たぶんだけど、こんなに真剣にピアニカの説明書を読んだ人は人類史上初めてだろう。

説明文や挿絵、解説漫画に至るまで何一つ見逃すまいと必死に読みふけるペイター君。

しかしある時点で、ページをめくるその手が止まった。


「こ、これ・・・開くぞ!」


そう言って彼が見せてきたページに書かれていたのは・・・メンテナンスの説明の頁。

鍵盤の上の分厚く飛び出した部分・・・その水色のプラスチック製カバーの『外し方』が、そこには書いてあった。

外れるんだ・・・って事は、カバーの中にある本体機構が見れるって事?!


「い、いいか?開けても?」

「う、うん・・・」

「・・・壊さないでよ?」


ペイター君は緊張した手つきで、説明書道りにカバー用のネジを外すと・・・

パカッっと、意外なほどあっさりカバーが外れて・・・謎に満ちたその中身が私たちの前に晒された。


「?!」


そして私は、これまでアクアちゃんが何度も『仰々しい』と言ってきた・・・その意味を一瞬で理解したのだった。



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