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第34話 「・・・ピアニカ?」


初回からトラブルに見舞われた音楽の授業も、なんとか無事に終わり。

その後、特に何事も無く放課後を迎えた私は学生寮への帰路についた。

今日はローゼリア様も一緒だ。


「ローゼリア様、ごきげんよう」

「ええ、ごきげんよう」


その道中・・・と言っても寮まではごく短い距離なんだけど。

そのごく短い区間の間にも何回か、女生徒達が挨拶して来た。

人見知りな私はその都度、ローゼリア様の後ろに隠れて彼女達をやり過ごす。


王女様に話しかけるなんて畏れ多い・・・始めのうちはそんな風に思って距離を置いていた生徒達が大半だったけれど。

誰にでも分け隔てなく接するローゼリア様を見て、少しずつその認識が変わってきているんだ。

本当に凄い人だなって思う・・・なんで私なんかがその隣を歩いているのか・・・寮で同室だからか。


「ナデシコさんも、ごきげんよう」

「ふえっ?!ご、ごご・・・」


そのうちの1人が、後ろに隠れていた私の方に回り込んで挨拶してきた。

突然の事に気が動転してしまった私が返事も返せないうちに、その女生徒は走り去っていってしまった。

こうならないように、上手く気配を殺していたつもりなんだけど・・・なんだか申し訳ない気分だ。


「ふふっ・・・ナデシコは相変わらず人見知りなのね」

「う・・・ごめんなさい・・・」


皆との距離感を払拭してきているローゼリア様とは違って、私のこれは・・・さすがに・・・

小中合わせて9年かけて、すっかり身体に沁み込んだ習性みたいなものなので・・・どうにもならないんじゃないかな。


「でも不思議ね・・・ジルノの時はあんなに・・・」

「あ、あの時は・・・その・・・な、なんというかっ」


無我夢中でそれどころじゃなかったと言うか・・・今思うと、我ながらびっくりするくらいで。

バイオラ先輩が近くにいたから?・・・でも最初は先輩の存在にに気付いてなかったような。


「ジルノの事を怖がる生徒も少なくないと聞いたわ・・・ナデシコは怖くなかったの?」

「・・・怖かったです、なんか・・・大きいし」


うん、普通に怖いよ。

ひょいって持ち上げられちゃったしね、ひょいって。


「ふふっ・・・」

「な、なんですか・・・急に・・・」

「・・・ごめんなさい、なんでもないの」


なぜか急に笑い出したローゼリア様・・・ひょっとして、私からかわれてる?

果たして、これは怒るべき所なのか・・・でもなんか楽しそうだし・・・ちょっと判断に困っていると。

寮の入り口付近に、見知った人影・・・長久保さんだ。


長久保さんが・・・大きなダンボールが乗った台車を引いている。

何かの仕事中かな・・・邪魔するのも悪いので、そのまま通り過ぎようとすると・・・


「あ、撫子ちゃん!ちょうどいい所に」

「へ?」

「悪いんだけどさ・・・ちょっと手伝って貰えないかな?」


・・・なぜか私が呼び止められた。


長久保さんと大きな荷物の組み合わせと言えば・・・ローゼリア様の家具を部屋に運んだ時の事が思い出される。

あの時は重そうな家具を1人で部屋まで運んでくれて・・・大変そうだったなぁ。

その時に比べれば、今回はダンボールひとつ・・・別に私が手伝うまでもないようにも見えるんだけど。


「失礼・・・貴方、事務員の方でしたかしら?」

「うぇっ?!ローゼリア王女殿下?!」


ローゼリア様も同じ事を思ったらしく、長久保さんに詰め寄っていった。


「わざわざ女生徒の手を借りないといけないような業務には見えないのですけど?」

「え・・・いや、これには事情がありましてですね・・・」

「事情?いったいどんなご事情なのでしょう?・・・ナデシコの代わりに私が手伝って差し上げましょうか?」

「そ、そんな滅相もない!」


やり手の外務省の職員も、王女様の前では見る影もない。

全身に冷や汗をダラダラと流して、助けを求めるような目でこちらをチラチラと見て来る。

なんだか、かわいそうに思えてきた。


「ろ、ローゼリア様・・・私は大丈夫ですから・・・」

「けどナデシコ・・・この人、何か怪しいわ」

「うえっ?!」


まるで汚いものを見るような目で長久保さんを睨みつけながら、ローゼリア様は私の手を引いて彼から距離を取った。

そして電撃の魔法を放つ姿勢に・・・完全に不審者に対する構えだ。

さすがに長久保さんも身の危険を感じたらしく、必死に弁解を試みる。


「じ、実はこれ日本から届いた荷物でして・・・」

「・・・ニホン国から?」

「え、ええ・・・日本人の彼女なら、この中身に詳しいんじゃないか?・・・って思った次第であります!」

「・・・本当に?」

「ホントホント!・・・信じてくださいよ~」


訝しむローゼリア様に、長久保さんはオーバーアクションを交えながら説得を続ける。

必死な彼には申し訳ないんだけど・・・なんかコントを見ている気分だ。

一見ふざけているようにも見えるんだけど、ローゼリア様も徐々に彼の会話のペースに引き込まれて・・・


「・・・どうか、この通りっ! 神様王女様お願いします!」

「うーん・・・仕方ないわね・・・今回だけは不問にします」

「おおっ、ありがとうございますっ!」


ついに折れてしまった。

これが外務省の交渉術なのか・・・すごい、とても私には真似できる気がしない。


「・・・それでナデシコは、本当に良いのね?」

「は、はい・・・ええと中身にも、興味・・・ありますし・・・」

「じゃあ先に部屋に帰ってるわ」


まだ不審そうにチラチラと振り返りながら、寮に入って行ったローゼリア様を見送ると・・・


「はあぁぁ・・・助かったぁ」


緊張が切れたのか、長久保さんがその場でへたり込んだ。


「だ、大丈夫・・・ですか?」

「ん、大丈夫大丈夫・・・ありがと」


その後、長久保さんを手伝ってダンボールを事務室に運び入れた。

ダンボールは見た目よりも軽くて・・・やっぱり1人でも運べそうな気がする。


「よし、じゃあお待ちかねの開封の儀といきますか・・・せっかくだからナデシコちゃんどうぞ」

「え・・・あ、はい・・・」


カッターナイフを受け取って、ダンボールの継ぎ目に沿って刃を当てる。

その間、妙に長久保さんが笑顔なのが気になるけど・・・ええと、中身は・・・


「・・・あっ!」

「ふっふっふ」


ダンボールの中の思わぬ光景に、私が驚きの声を上げるのを見て・・・長久保さんは得意げに腕を組んだ。

まさか・・・こんな・・・ちょっと信じられない。

ダンボールの半分ほどを占める量で入っていたのは・・・もう日本に帰るまで手に入らないと思っていた・・・


「『キノコの山』・・・イチゴ味もある!・・・けど、なんで・・・」

「学園生活をがんばってる撫子ちゃんに、本国からのご褒美だってさ、よかったね」

「う、うん・・・」


これは嬉しい・・・嬉しいけど、なんで私がキノコ派だってわかったのかな。

あ、荷物検査で見られたからか・・・ってことは、あのお姉さんに感謝だ。

残り半分はなんだろう・・・雑誌っぽいものも入ってるけど・・・


「あ、この辺の雑誌は俺の私物ね!」


私が雑誌に手を伸ばした瞬間、長久保さんがそれらをまとめて持ってった。

一冊だけチラリと見えたのは、バイクの本・・・かな?

水着姿のお姉さんが大きなバイクに乗っている写真が掲載されて・・・


「ば、バイク・・・好き、なんですね」

「え・・・ま、まぁね・・・さすがにこっちじゃ乗れないんだけど・・・あ、これは撫子ちゃんの分だ」

「・・・?」


雑誌の束の中から一冊渡された・・・ちょっと見覚えのない雑誌だ、なんだろう。

ページをめくってみると洋服だったり雑貨だったり・・・なんか色々な物が掲載されてる。


「これは・・・いったい」

「その中から好きな物をひとつ選んで、番号をハガキに書いて送ると・・・なんと、それが貰えちゃうんだ」

「え・・・抽選で?」

「いいや、確定で・・・世の中にはそういう選べるギフトがあるんだよ・・・そいつは外務省製だけど」


そうなんだ・・・へぇ~。

お出掛け用の私服とか欲しかったけど・・・すごい、色々載ってる。


「締め切りとかないからゆっくり考えると良いよ、ハガキが書けたら事務室に入れといて・・・届くまで時間はかかると思うけど」

「あ、ありがとう・・・ございます」


他には・・・事務用品とかは長久保さんが使うやつだろうね。

あとなんか大きくて平べったい箱が・・・『A-37P』とだけ印字されてる・・・なんだこれ。


「長久保さん・・・これ・・・」

「?・・・ああ、それはたぶん・・・ま、ちょっと開けてみて貰って良い?」

「あ・・・はい」


開けちゃって良いのか・・・まぁ、開けないとわからな・・・あ、説明書っぽいものが。

ええと・・・YAMAWA 鍵盤楽器 A-37P 鍵盤・・・楽器?!

YAMAWAと言えば有名な楽器メーカーだ、ピアノ教室とかもやってた気がする。


って事は楽器?・・・説明書の下には楽器のケースが入っていて、本体はケースの中らしい。

軽く説明書を開くと・・・なんかすごく見覚えのある楽器の写真が目に入ってきた。

平べったい本体にピアノのように並んだ白黒の鍵盤、端っこにはマウスピースがついてて、ホース状のパーツにも付け替えが可能・・・こ、これって・・・


「・・・ピアニカ?」


少し形状が違う部分もあるけれど・・・概ね私が知っているそれと同じ物だ。

小学校から使ってきた馴染みのある楽器、ピアニカ・・・またの名を鍵盤ハーモニカともいう。


「うん、YAMAWAの最新型・・・遅くなっちゃったけど、文科省から音楽の授業で使うようにってさ」

「あ・・・そうなんだ」

「新型だから、ちょっと勝手が違うらしいけど・・・そこは慣れるまでがんばって」

「ふむふむ・・・」


笛の件があったからこれは助かる・・・音楽は苦手だったけど、ピアニカだけは人並みに弾けるんだ。

リコーダーやピアノと違って、片手だけで弾けるというのがすごく使いやすくてね・・・なので私は基本的に片手持ちスタイルだ。

うん、ちゃんと裏側に持つ所とベルトが付いてる・・・少し縦に大きくなっているけど、重さは変わらない感じだ。


「あ・・・騒音の問題があるから、遅い時間に寮では使わないように、いいね?」

「はーい」


かくして、私はひと月分ほどの『キノコの山』と、笛に代わる自分用の楽器を手に入れたのだった。


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