閑話 支援物資の要請
長久保からの報告書に目を通した藤田は、訝しんだ。
長らく不登校だったエルフ族の要人を学園に登校させ、生徒会に掛け合って特別役員に就任。
撫子が異世界に来て、僅か2週間程度の間に成し遂げた事である。
・・・何かの間違いではないのか?
藤田の記憶の中にある、あのおどおどとした少女の姿からは、どちらも想像がつかない。
しかし報告書には、エルフ族の件で学園から発行された感謝状が同封されており・・・謝礼金まで支払われていた。
決して少なくない金額だ・・・学園側も長らく頭を悩ませていた問題だったらしい。
ちなみに長久保の独断で、既にその中からごく一部を『お小遣い』として撫子に与えたとある。
藤田の立場からしてみれば、そこはあまりよろしくなかったが・・・わざわざ問題にする程の金額でもないあたりは長久保の要領の良さだ。
もちろんその分だけ藤田の手間は増えるのだが、今回は小言くらいで済ませてやろう。
『あくまでも田中撫子個人への謝礼金であり、今後の彼女の支援の為に使われたし』
・・・長久保はその言葉と共に、日本からの支援物資の要望も送って来ていた。
生活必需品とは違い、本来であれば必須とは見做されないジュースや菓子類といった、いかにも子供が好きそうな物がリストアップされている。
中でも異彩を放ったのは、特定の銘柄まで指定された菓子メーカーの商品だった。
「キノコの山・・・最近の女子高生はそんなものが人気なのか」
そういえば、手荷物検査の時の女性担当官からも何か聞いたような気がする。
『今の子はタケノコではないのね』・・・たしかそんな事を言っていた。
藤田にはどちらも似たような物だと思うのだが・・・世の中ではそれらの取り扱いで争いが起こるらしい。
まぁいいだろう・・・内容に偏りは感じるが、金額的には充分予算の範囲内だ。
ちょうどこちらから撫子に送る物があるので、菓子類も同梱させるように指示しておこう。
しかし・・・藤田の懸念はまだ終わりそうにない。
報告書には、『近々音楽の授業が始まる』とも書かれていた。
音楽の授業・・・それが異世界の話さえでなければ、こうも気を揉む必要もないのだが・・・
あちら側の楽器は、こちらの物とは勝手が違う・・・撫子には扱えない可能性が充分に考えられた。
例の物が間に合うと良いのだが・・・今は彼らの仕事に期待するしかない。
外務省フレスルージュ局・・・藤田のデスクには、学生向け楽器の定番とも言える『それ』の仕様書が届けられていた。
添えられたサンプルの写真を見る限りは、昔と変わらぬ馴染み深い形・・・藤田も子供の頃に使ったものだ。
10年20年と時が経って、人類の技術が進歩しても・・・変わらない形というのはあるらしい。
日本が世界に誇る大手楽器メーカーYAMAWA。
彼らにとっても初の試みだっただろう異世界仕様の『それ』は・・・しかして期日通りに出荷されたのだった。




