閑話 新しい風
「・・・バイオラ、アレは何だと思う?」
「・・・ああ、ジルノ様もアレが気になりますか」
そこは生徒会室。
生徒会長であるジルノを筆頭に、数名の生徒達が円卓を囲んで書類作業を行っていた。
新入生を迎えたばかりのこの時期は、彼らにとって忙しい時期でもあるのだ。
そして、ジルノとバイオラが2人してアレと呼んだ存在・・・は、部屋の入口の方に居た。
半開きとなった扉の隙間から・・・スッと出てきては、サッと引っ込む、黒い髪の生物。
どうやら遠目に様子を伺っているらしいが・・・不規則にチラチラと視界に入ってくるのが鬱陶しくもあった。
「最初にアレを見かけてから、だいぶ経つんだが・・・」
「もう少しで1時間になりますね、そろそろ迎え入れてあげたいのですが」
ジルノは訝しんだ。
ならなぜ1時間も放っておいたのか・・・もっと早く迎えに行ってやれば良いものを。
・・・それともアレは、ニホン国独自の風習か何かなのか?
ジルノの父であるシュタードラー公爵は保守的であり、近年のニホン国との関りを良く思っていない立場にある。
それ故にジルノは日本について詳しくはなかった。
だがそれはバイオラも同じはず・・・いや、そう言えば先日、彼女はナデシコと会ってきたと言っていた。
主であるジルノの側を離れての単独行動を彼女が取るのは珍しい。
しかし、今ナデシコが生徒会室に訪れているのは、その結果ではないのか?
それならば・・・ジルノはバイオラに問いかける。
「バイオラ、次に俺がすべき事は何だ?」
「このあたりで休憩時間になさってはいかがでしょうか・・・ちょうど良いお菓子のご用意があります」
「わかった、休憩にしよう・・・皆、手を止めてくれ」
ジルノの号令に従い、生徒達は各々の作業を中断した。
彼らの多くはシュタードラー公爵家に縁のある家の子弟で、将来的にもジルノにとって頼もしい部下達である。
円卓の上から書類は片付けられ、手際よくティータイムの準備がされていく。
卓上に皿が並べられ、バイオラが入手してきたという焼き菓子が振舞われる。
生徒会の人数に対しては少々量が多い気がするが、年若い生徒達を思えばちょうどいい量にも思えた。
そしてバイオラが手慣れた手つきで紅茶を淹れる頃・・・先程から入り口にいた生物に変化があった。
スッと扉の隙間から頭が出てきた所までは変わらない。
だが、そこからが違った・・・先程までと違ってなかなか引っ込まない。
じっとそのままの姿勢で、部屋の中を伺って・・・今度は身体も半分程入ってきた。
「ふふ・・・きっと我々が忙しそうにしていたので遠慮していたのでしょう、では迎えに行って参ります」
主に対して優雅に一礼をすると、バイオラはナデシコの元へと向かった。
それに気付いたのかナデシコはビクッと、離れた距離でもわかるくらいに震えたものの・・・今度こそ生徒会室の中にその足を踏み入れたのだった。
「なるほど・・・『奥ゆかしい大和撫子』か・・・」
生徒会の誰かに声もかけず、こちらの作業がひと段落着くのを、邪魔にならない位置で待っていたというのか。
従者であるバイオラと比べれば拙いものではあるが、そういった心遣いはジルノの好む所だった。
先日の食堂の件では、ニホン国の令嬢だという噂にも信じ難いものを感じていたが・・・こうして見るとまた違った印象を受ける。
相手が礼をもって接してくるならば、こちらも礼をもって応えるべし。
それがシュタードラー公爵家の家訓だ。
国による文化の違いもあるのだろう・・・偏見は捨てて、こちらも相応の礼を持って接しよう。
ナデシコのつたない喋りも、異国の文化・・・そう思って接すれば、不思議と苦に感じる事もなかった。
「あ、あの・・・わた、私・・・」
「見ての通り、今は休憩の時間だ・・・そう焦らずゆっくり話すと良い」
「あ・・・はい」
「うふふ・・・お茶と焼き菓子もあるわよ」
思わぬ歓待に戸惑いながらも、ナデシコはジルノの言う通りに、ゆっくりと話し始めた。
それはローゼリアを生徒会に迎え入れようとするジルノに向けた、1つの提案。
「ふ・・・面白い」
後に、この円卓に同席していた生徒は語る。
あれこそが、王立学園の生徒会に新しい風が吹いた瞬間だったと。




