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第29話 「お前が、宝の番人だな!」


「ジルノ様と出会ったのは、私がまだ7つの頃・・・



忘れもしない、あれは年の始まりの日。

当時の王宮では新たな年を祝う催しがあり、私は両親と共に王都まで来ていた。

宮殿には国中から名だたる貴族が集まって来ていて・・・家の格が高くないシュターリカ家の両親は忙しそうにしていたのを覚えている。


「せっかくのお祝いだから、お前は自由に遊んでいなさい」


とは言われたものの・・・私はすぐに飽きてしまった。

贅を尽くした王宮の催しとはいっても、子供にとっては退屈なもの。

見知らぬ大勢の大人達が楽しそうに過ごす宮殿には早くも嫌気が差して、私は外に飛び出していた。


広い庭園に出ると、まるでそこには季節などないかのように、色とりどりの花が咲いていた。

シュターリカの家にも庭園はあったけれど、規模が全然違っていて・・・私はたちまち夢中になった。

特別花に詳しいわけではないけれど、見た事のない花を見つけては駆け寄って、恐る恐る触れてみたり匂いを嗅いだりもした。


やがて歩き疲れてしまった私は、庭園の片隅に椅子を見つけて、そこに座り込んでいた。

目の前の花壇には、私が知っている数少ない花・・・私の名前の由来であるバイオラの花が、綺麗な紫色に咲き誇っていて。

しばらくその花壇を眺めていると・・・紫色の花をかき分けて、一人の男の子が現れた。


「お前が、宝の番人だな!」


それがジルノ様と私の出会いだった。

髪と仕立ての良い服のあちこちに、葉っぱや枝の欠片を纏わりつかせながら・・・ジルノ様は私の前まで来ると、得意げな笑みを浮かべた。

対する私は、突然現れた男の子が何を言っているのかもわからず・・・首を傾げるばかり。


「さぁ試練の内容を言ってみろ!どんな難関でもこの俺が攻略してやるぞ!」

「・・・?」

「・・・?」


私が首を傾げた角度に何らかの意図を感じたのか、ジルノ様は同じように首を傾げた。

大きな鳶色の2つの瞳がすぐ目の前に・・・興味深く私の瞳を覗き込んできて・・・


「ジルノ・・・置いていかないでください」


その時だ、ジルノ様の後ろの方からもう1人・・・長い金色の髪の女の子が歩いてきた。

まるでお姫様のように愛らしいドレスの裾を、歩きにくそうにたくし上げながら・・・後に本物のお姫様だと知る事になるのだけど。


「ふふん、見ろローゼリア、宝の番人だ・・・俺の言った通りこっちが正解だったぞ」

「宝の番人?・・・貴女がそうなの?」

「・・・違う」


わけがわからないまま、私は首を振って否定すると、女の子・・・ローゼリア王女は、手に持っていたくしゃくしゃの紙を広げて見せた。

それはどこかの地図のようであり・・・一点に×印が付いていた。

宝の番人と言っていたから、おそらくは宝の地図なんだろう。


「やっぱり違うじゃない」

「・・・じゃあ、どこだって言うんだ?」

「そ・・・それは・・・あっちとか」

「あっちはさっき調べただろ」


ああでもないこうでもない言い出した2人を他所に私は地図を覗き込んだ。

・・・どこか覚えがある、しかも最近だ・・・順番に記憶を思い出していって・・・


「あ・・・ここ、宮殿の・・・!」

「お前、これがどこかわかるのか?!」

「はい・・・けほっ、けほっ・・・」


私が場所を口にするなり、ジルノ様が勢いよく両肩を掴んで揺さぶってきて、ちょっとむせてしまった。

けれど、これがきっかけになって私も2人の宝探しを手伝う事になった。

この日はジルノ様のお誕生日でもあり、両親が彼の為に王宮のどこかにプレゼントを隠したのだとか。


地図に描かれていたのは宮殿の一角・・・そこには宝箱が隠されていて、蓋を開けるとまた別の試練・・・2つの謎かけが入っていた。

私達は3人で知恵を出し合ってこの謎を解き、次の地図と鍵を手に入れたのだけど・・・


「あれ・・・この地図の場所って・・・」


その地図の場所とは、さっき私が座っていた庭園だった。

別に何もなかったはず・・・不思議に思いながらも、私達はもう一度庭園に戻ると・・・そこにあったのは。


「「「あっ」」」


思わず声を揃えてしまった私達が見つけたのは、椅子だと思って私が座っていた箱だった。

鍵を使って箱を開けると、中にはジルノ様のお父様が用意したペンと、お母様が用意した焼き菓子の包み。

そこから甘い香りが広がって・・・宝探しにすっかり夢中になって忘れていた空腹を、私達は仲良く思い出した。



・・・あの時の焼き菓子はとても美味しかったのだけど、実はね・・・」


懐かしみながら語っていたバイオラ先輩だけど、ここでふいに言葉を切った。

私の反応を見るように、先輩はちょっと間をあけてから言葉を続けた。


「ジルノ様の苦手だった木苺が入っていて・・・うふふ・・・それに気付いた時には既にたくさん食べた後だったのよ」


ああ・・・『空腹は最高の調味料』っていうやつだ。

ジルノ母はかなりの策士だね。


「その年の終わり頃ね、主家であるシュタードラー公爵家にお仕えするのが、うちのシュターリカ家の習わしなのだけど・・・私も公爵家に召し抱えられる時が来たの・・・そこで主従として再会したのがジルノ様だったのよ」

「あ・・・そんな繋がりが・・・」

「以来私はジルノ様にお仕えする従者として、自分の勤めを果たしているわ」


と、そこでバイオラ先輩の表情が引き締まった。

学園で見た時の・・・彼女は従者としてジルノに接しているという事か。


・・・その割には今、昔の事を話していたバイオラ先輩はすごく楽しそうに見えたんだけど。


「ジルノ様はね・・・口では立場だとか色々言ってはいるけれど、あの時の事を忘れられないのよ」

「あ・・・それで・・・ローゼリア様を、生徒会に?」

「そう、またあの時のように3人で知恵を出し合ったり、課題に挑んだり・・・そういう生徒会にしたいと思っているの」

「・・・」


ジルノがしつこく勧誘してくるのにも、ちゃんと理由があったのか。

こんな話を聞かされると、私も複雑な心境になる。


「ごめんなさい、ナデシコさんに言うような話じゃなかったわね」

「い、いえ・・・」


ローゼリア様の方はどう思っているんだろう。

別段ジルノの事を嫌っているようにも見えないし・・・なんで断るのかの理由は聞いていない。

ひょっとして・・・何か誤解があったりしないかな。


「ナデシコさん、今日はありがとう・・・なんだか私ばかり話してしまってごめんなさいね」

「いえ・・・先輩の、お話・・・聞けて、良かったです」

「もし次があったら、今度はナデシコさんの話を聞かせてね」

「え・・・あ・・・は、はい・・・」


先輩には申し訳ないけれど・・・出来ればそれは遠慮したい。

そのまま私はバイオラ先輩と別れて学生寮への帰路に着いた。


ローゼリア様、なんで生徒会が嫌なんだろう・・・聞いてみようかな。

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