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第03話 「こ、殺さないで・・・」


異空間ゲートに飛び込んだ私の目の前に現れた最初の光景は、西洋風の甲冑に身を包んだ兵士達だった。


うわ・・・すごい、本物だ・・・使い込まれた鎧には細かい傷がいくつもついており、決してコスプレ衣装では出せないリアリティを醸し出している。

その手に持った長い槍には、フレスルージュ王国の国旗なのかな? 剣をあしらった紋章の描かれた深紅の旗が風を受けて目一杯にはためいていた。

・・・なんと言うか、一発で異世界に来たとわかるファンタジー感。


などと感動していると、兵士達は私の行く手を遮るように槍を交差させながらにじり寄ってきた。


「ぇ・・・な、なに・・・」


その迫力に押されて立ち竦んでいると、私の背後から黒いスーツ・・・藤田さんが前に出た。


「日本国外務省所属、藤田譲二です」


藤田さんはそう名乗りながら、スーツの内ポケットから手のひらサイズの何かを取り出して兵士達の方に掲げる。

それを見た兵士達はあっさりと槍を下げて道を開けてくれた・・・そればかりか。


「「異世界よりの客人!歓迎いたします!フレスルージュ王国へようこそ!」」


声を揃えた一糸乱れぬ斉唱で歓迎してくれた。

そして、きびきびとした動きで左右に整列・・・兵士による花道が作られる。

まるで何かのアトラクションみたいだ。


「驚きましたか?」

「え・・・あ、はい・・・」

「彼らはこちら側の警備隊です、最近は観光客を受け入れていますので、少し芝居掛かっていますが」


ああ、観光客向けのパフォーマンスなんだ・・・きっとそれ用の訓練とかしてきてるんだろうな。

力いっぱい歓迎の意思を示してくれている彼らに、お礼の一つも言いたい所だけど・・・


「あ・・・あ・・・あり・・・あり・・・あり」


いざ伝えようとすると緊張してしまって・・・それに間近で見る鉄仮面の威圧感・・・怖い。

ペコペコと頭を下げながら花道を抜けていくのが今の私には精一杯だった、ごめんなさい。


ここで改めて周囲を見渡すと、こちら側の『門』は広い庭園の中にあるようだ。

刈り揃えられた壁のような生垣と大きな池、綺麗に区切られた花壇・・・なんだか・・・地元の植物園に似ていた。

特に池の向こうにお城が見える光景なんかがそれっぽくて、一瞬地元に帰されたのかと錯覚したくらいだ。


生垣で区切られた庭園は、ちょっとした迷路のようで、右も左もわからない私は藤田さんについて行くしかない。

入学式前日の今日は、私が通う事になる王立学園と、住まいとなる学生寮の案内を受ける予定だ。

どちらも『門』からは程近い距離にあるらしい。


庭園を進んでいくと、さっそく大きな建物が見えてきた・・・きっとあれが王立学園に違いない。

さすがは異世界、中世風の豪華な建物だ。

明日からここに通うのか・・・なんか外から見てるだけでもワクワクしてくる。


そんな私とは対照的に、藤田さんは表情を曇らせ立ち止まってしまった。


「?」

「・・・ここで現地駐在員と落ち合う予定なんだが・・・あいつ、どこで油を売っている」


校舎と思われる建物の前で、藤田さんは立ち止まって考え込んでしまった。

誰かと待ち合わせをしていたみたいだけど、その人が遅刻してる感じか。


「・・・申し訳ありません、少しこちらで待っていてもらえますか?」

「あ、は・・・」


私の返事を待たずに、藤田さんは駆け出して行ってしまった。

遅刻している誰かの行方に心当たりがあるんだろう。


「・・・」


藤田さんは道の彼方に・・・見えなくなってしまった。

この分だと結構時間が掛かりそうだ。


「・・・」


ぽつんと一人残された私に・・・目の前の建物がすごく興味を惹いてくる。

ロココ調?ゴシック調? ・・・異世界だから全然違うナニカ調なんだろうけど、こんな豪華な建物はうちの地元にはない。

下手したら日本中を探してもない、かも知れない。


「先に・・・見学してても・・・良い・・・かな」


ここは校舎の正面ではないらしく、玄関のような入り口はなかったけれど。

複数の校舎を繋ぐ連絡通路のようなものが近くに見える・・・そこからなら中に入れそうだ。


「少しだけ・・・少しだけ・・・」


そう呟きながら校舎の中へ・・・まだ入学式前とあって中は無人だ。

靴を脱ぐべきか迷ってけれど、連絡通路に靴の足跡がいくつも残っているのをみつけた・・・西洋式っぽい。


「うわぁ・・・」


校舎の中は思った以上に豪華だった。

所々に金細工で装飾された白い壁、天井には宗教画のような壁画、窓ガラスは一部がステンドグラス風になっている。

これで赤い絨毯でも敷いてあったら完全に宮殿だ。


廊下を進んでいくと、高そうな花瓶とか、彫刻とか、銅像が定期的に姿を見せる。

一流の物に触れさせる、みたいな教育方針なんだろうな・・・でも壊したりしたら大変な事になりそう。

そう思うと、目に映る何もかもが高級品に見えてくる・・・ひぇぇ・・・


すっかり怖くなった私は、ビクビクしながら廊下を進んでいく。

教室も覗いてみたいけど・・・ドアがもう・・・金色の蝶番からしてお高そうで・・・触れないよ。


「うん、戻ろう・・・」


そろそろ藤田さんも帰ってきてるかも知れないし・・・

私は180度踵を返して足を進め・・・


「そこにいるのは誰だ!」

「ふぇっ?!」


誰かに見つかった?! 宿直の先生とか?

私はとっさに逃げようとしたものの、腕を掴まれてしまった。

すごい力だ・・・振り払えない。


「どうした?」

「侵入者だ・・・見た所、子供のようだが・・・」

「ごごごご、ごめ・・・ごめんなさ・・・」


声を聞きつけて他にも人が集まってきた。

学校関係者・・・にしては体格の良すぎる方々・・・そして、抜き身の剣を持っている?!

こ、これが異世界のセキュリティ・・・ま、まずい。


「ひぇ・・・こ、殺さないで・・・」


あまりの事に力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまった。

腰が抜けるとはこういう事か。

もう逃げる事も何も、出来そうにない。


『交換留学生、不法侵入で現地警察に惨殺される』


明日のニュースの見出しが脳裏に浮かんだ。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」


泣きながら、壊れたオーディオ機器のように同じ言葉を繰り返す。

ああ、お母さん・・・私、こんな所で・・・先立つ不孝をお許しください・・・

鈍く光る剣を前に、私が死を覚悟したその時。


「騒がしいですわね、いったい何事ですか?!」


凛とした女性の声。


その圧倒的な存在感に、私を始め、その場にいた全員が振り返った。


キラキラと光る金色の髪は毛先の方でくるくるっと巻かれて・・・

青く光るその瞳はキリッと吊り上がり・・・

薔薇のように真っ赤なドレスをひるがえして堂々と歩く、その姿。


・・・悪役令嬢。


私の頭の中に、自然とその言葉が浮かんだのだった。

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