第27話 「小さいな・・・」
「ローゼリア・・・この生物は何だ?」
つい方言が出てしまった私の事を、意思疎通の出来ない謎の種族とでも判断したのか。
両腕を掴んだ私を一瞥した後、ジルノは再びローゼリア様に視線を戻した。
依然その両腕はピクリとも動かない・・・私とはかなり身長差があるので、まるでぶら下がってるような体勢だ。
「この子はナデシコ・・・ニホン国からの留学生です」
「ほう・・・これが噂の・・・どれ」
「ふぇ?!」
不意に身体が持ち上げられる・・・私が掴ったままの腕を上げたのだ。
ついさっきまで頭上にあったジルノの顔がすぐ近くに・・・さすがはローゼリア様の婚約者、気品を感じる顔立ちだ。
なんか真剣な眼差しで私を見つめてきて・・・こんな状況でさえなければ、ちょっとときめいてしまったかも知れない。
「小さいな・・・ニホン人は皆こうなのか?」
「な・・・」
人が気にしてる事を・・・こいつ、ちょっとイケメンだからって調子に乗って・・・
うわ、顔を近付けてきた・・・ローゼリア様の婚約者なのに、人前でこんな事していいの?!
とっさに地面につかない足をばたつかせるけど、それは何の効果も得られない。
「うぅ・・・はな、して・・・」
「それは・・・お前が手を放せば済むんだが」
「あっ・・・」
そうか。
掴んでいた手を離すと、私の身体は重力に従ってすとんと落ちた。
けれど、私は足をばたつかせていたので接地面との角度がずれていて。
しかもこの食堂はワックス清掃が行き届いていて、床がピカピカのツルツルだった。
「あわわっ?!」
危うく倒れそうになる私に、ジルノは素早く腰に手を回して抱き支えた。
おかげで転倒は免れたものの・・・なんかバレエのポーズみたいな形に・・・は、恥ずかしい。
「怪我はないか?」
「あ・・・は、はい・・・」
ジルノは真顔のまま、こっちの安否まで気遣ってきた。
くぅ・・・これがイケメンちからか・・・男子に免疫のない私としては、別の意味で危ういよ。
ここは距離を・・・距離を取らないと。
都合の良い事に、ジルノの両腕はもう壁から離れている・・・今だ。
「ローゼリア様、行きましょう」
「え・・・ナデシコ?」
私はローゼリア様の腕にしがみつくようにして、その手を引いた。
「待て、まだ話は終わっていない」
「くっ・・・!」
足が長いからか、それとも運動神経の差か・・・
ジルノはすぐに私を追い越して・・・前に回り込んできた。
RPGで逃げるのに失敗すると『敵に回り込まれてしまった』って出るけど、まさにこんな感じなんだろう。
「ち、近付かないで・・・」
油断すると距離を詰めてくるイケメンを相手に、私は精一杯前に手を伸ばしてイヤイヤのポーズを取る。
この距離が私のなんとかエリアだ、来るな・・・来るな。
「・・・ふー・・・ふー・・・」
「ふ・・・まるで猫だな」
「ジルノがからかうからよ・・・ナデシコは気が弱いの」
「これが『奥ゆかしい』というやつか・・・噂には聞いていたが」
「まぁ、知っててからかったの?」
あれ・・・なんかローゼリア様とジルノが、親しげに談笑してる?!
ローゼリア様には、さっきまでの拒絶していたような雰囲気はなくなっていて・・・ど、どういう事?
モラでハラな感じじゃなかったの?
「あ、あの・・・ローゼリア様?」
「ああ、紹介がまだだったわね・・・ナデシコ、彼はジルノ・・・私の幼馴染で婚約者よ」
ごく自然な感じで、ローゼリア様は婚約者を紹介してきた。
これといって不自然な様子もなく、別段嫌そうな感情は感じ取れない。
「え・・・でも、さっきは・・・」
「ああ、あれは勧誘がしつこくて・・・何度もお断りしているのだけど」
「かん・・・ゆう?」
一瞬何の事かわからず・・・私の脳裏に昔の武将みたいなのが浮かんだ。
いやそれ違うかんゆうだから・・・普通に考えて、勧誘・・・部活動かな、この学園にもあるんだろうか。
ジルノの雰囲気やローゼリア様が誘われるとなると・・・演劇部か、テニス部かも知れない。
そんな事を考えながらジルノの方を伺うと、私の予想とは違って・・・でもそれ以上に似合うものもないやつが出てきた。
「・・・生徒会だ、ローゼリアには副会長の席を用意している」
「ああ・・・」
うん・・・すごく、納得してしまった。
だって王女様だし・・・カリスマみたいなの出てるし。
「・・・ローゼリア様?」
「何度誘われても、お断りします、もう諦めてください」
すごく似合うと思うんだけど・・・本人はやりたくないらしい。
でもその気持ちは私にもわかった・・・昔クラス委員を押し付けられた事があってね。
皆無責任に「撫子ちゃんが向いてると思います」って言って・・・絶対向いてないのに・・・きっとローゼリア様もそういう気持ちなんだろう。
「そうはいかない、お前以上に相応しい者などいないのだからな」
うん・・・それはそれで間違いないんだろうな・・・なんなら生徒会長でもいいくらい。
でも、気持ち的にはローゼリア様に味方したい。
本人にやる気がないのに無理強いをしちゃいけないと思うよ。
「別に私でなくとも、しっかりやってくれる生徒はいると思います」
なんとか諦めさせたいローゼリア様と、決して諦めないジルノ・・・このまま放っておいたら昼休みが終わってしまいそうだ。
なおもローゼリア様を説得しようとジルノが口を開きかけたその時、思わぬ方向から声が掛かった。
「ジルノ様、少々目立ち過ぎです」
・・・たしかに、気付けば周囲に大勢の生徒達が集まって来ていた。
王女と婚約者が揉めているとあれば、注目が集まるのも当然かも知れない。
けれども、私が気になったのはその発言内容よりも人物の方・・・ジルノの背後からスッと現れた1人の女生徒。
少し雰囲気が違う気がするけど、彼女には見覚えがあった。
「なんだバイオラ、いたのか・・・」
「いたのか・・・じゃありませんよ・・・はぁ」
バイオラ・・・間違いない、この間の休日に出会った優しそうな先輩だ。
今回は制服を着ているせいか、心なしかピリッと引き締まった印象を感じる。
そして彼女はその印象の通りに・・・
「これ以上騒ぎになっては食堂から苦情が来てしまいます、ここは速やかにご退席を」
「・・・まぁ、お前が言うならそうしよう」
バイオラ先輩がきびきびと伝えると、ジルノは意外にもそれに従った・・・渋々といった表情ではあるけど。
やっぱり街であった時とは違う・・・なんかかっこいい。
「だがローゼリア、俺は諦めないぞ・・・お前が必要なんだ」
「そういう発言が目立つんです、少しは周りの目を意識してください」
「む・・・」
また誤解を招きそうな捨て台詞を残して、ジルノはバイオラ先輩に連行されるかのように去っていった。
「ふふっ・・・相変わらずね」
そんな2人を見てローゼリア様が表情を和らげる。
バイオラ先輩とも知り合いなんだろうか・・・そう思って見ているとローゼリア様は教えてくれた。
「バイオラとも幼馴染なのよ、彼女のシュターリカ家はシュタードラー公爵家の分家で、古くからの付き合いなの」
へぇ・・・そうなんだ。
2人の事を語るローゼリア様はなんだか楽しそう。
その後、だいぶ待たせてしまったアクアちゃん達に怒られつつも、なんとか私達は休み時間内にお昼を食べられたのだった。




