第25話 「俺の元へ来い」
___休日が楽しければ楽しいほど、その後の平日が憂鬱になる。
それは、誰もが認めるこの世の真理なんじゃないだろうか?
皆と遊んだ楽しい休日が終わり・・・その翌日。
まさしく憂鬱極まりない平日の朝だ。
当然のように憂鬱な気分で目覚めた私が最初に目にしたのは・・・表情を曇らせ、溜息を吐くローゼリア様の姿だった。
「・・・はぁ」
ローゼリア様ですら、この真理には抗う事が出来ないという事か。
うんうん、昨日は楽しかった、だからこそ今日がつらい・・・ローゼリア様も同じ気持ちなんだ。
・・・そう思うと、気持ちが少し楽になった。
「ローゼリア様・・・が、がんばりましょう!」
「・・・ナデシコ?」
「わ、私も・・・い、一緒ですし!」
学校に行きたくない気持ちを込めて、ぎゅっとローゼリア様の手を握る。
同じ心を持つ仲間がいるって心強い・・・これでローゼリア様も少しは気が楽に・・・なると良いんだけど。
ローゼリア様はきょとんとした表情を浮かべていたけど・・・すぐにいつもの笑顔に戻った。
「・・・ありがとう、もしもの時はナデシコを頼らせてもらうわね」
「は、はい・・・私なんかで、良けれ・・・あれ?」
・・・もしもの時?
ちょっと大袈裟な気がするけど、私なんかが頼りになるなら嬉しい。
「そろそろ支度をしましょう、遅刻してしまうわ」
「は、はい!」
よし、がんばるぞ・・・気合いを入れ直して私達は支度を始めた。
不思議なもので、制服に着替えて朝食を食べる頃には『学園に行きたくない感』は綺麗さっぱりなくなっていた。
そして一歩学生寮の外に出れば、学園はもう目の前にある・・・もう休日は終わり、私の学園生活が再び始まったのだ。
「今日は筆記試験を行います」
「あ・・・」
筆記試験・・・担任のタチアナ先生は表情一つ変えることなく言い放った。
何とか朝からなけなしのやる気を盛り上げてきたのに、こんな・・・こんなのって・・・
重苦しい空気の中、答案用紙が配られる・・・もちろんマークシートなんかはない、ちゃんと答えを書かないといけないタイプだ。
サラサラ…トン、トン…
隣の方から、まるで何かのリズムを刻んでいるかのように、絶え間なくペンの音が聞こえてくる。
アクアちゃんがすごい速さで問題を解いているのだ。
いつものノートを取ってる時とは違う強い筆圧で・・・まるで周囲に見せつけるかのようだ。
あ、あの・・・ぜんぜん出来ない私が隣にいるんだけど・・・
隣でそんな事されてるとすごいプレッシャーを感じてしまう。
スラスラ…タタン!
まるで一つの曲の演奏を終えたかのように。
あるいは、パソコンのキーボードを打ち終えた人が最後にEnterキーを強く叩くかのように。
ひときわ強くペンの音を響かせて・・・アクアちゃんは答案を書き終えた。
「はい・・・出来ました」
颯爽と席を立って答案を提出するアクアちゃんは自信に満ち溢れていて・・・ちょっとかっこいい。
そこから少し間をおいてローゼリア様・・・さすがだなぁ。
ちなみに私はまだ半分も・・・これはまずい。
つい2人に気を取られてしまっていたけど、他人を気にしている場合じゃなかった。
残り時間は短く、一問一問に長考してる余裕は残されていない・・・もはや直感で答えを書いてでも答案を埋めないと。
『水を構成する元素を答えよ』・・・これはたしか水素で良いはず。
『火を構成する元素を答えよ』・・・ええと・・・酸素?
ダメだ、「ちょっと考えれば解けそう」って思うと、つい時間をかけてしまう。
直感で答えるというやつ・・・私には向いてないかも知れない。
『フレスルージュ王国の初代国王の名前は』・・・あっ、ミストラードさんって解ってるのにミストルティンって書いちゃった。
急いで書き直さないと・・・とりあえず、横棒引いて・・・下に書けばいいかな。
焦りがミスを生み出して、ミスが更なる焦りを招く・・・こういうの永久機関って言うんだっけ。
書き直しを終えて、次の問題へ・・・しかしそこで。
「はい、そこまで! 答案を回収します」
「あ・・・ああ・・・」
結局・・・私は全ての問題文を読む事すら出来ず。
決して少なくない空欄を残したまま、答案用紙は回収されていったのだった。
そして結果はもちろん・・・私の予想を裏切る事なく散々な点数で帰って来た。
「うぅ・・・放課後、補習だって・・・」
「ま、まぁ・・・しょうがないわね」
なおローゼリア様は学年3位、アクアちゃんに至っては学年1位を獲得していた。
エルフのフィーラですら上位に入る高得点・・・しかし本人はあんまり嬉しそうでもなく。
「ああ・・・その、昔に学んだ範囲内だったから・・・」
・・・なるほど。
彼女は昔授業に出てたから、その分の貯金があるのだ。
結局のところ、クラスで私だけが補習となって・・・放課後の教室に居残る事になった。
「ナデシコさんは留学生だから、仕方ない部分もあるとは思うわ・・・」
「は、はい・・・」
「でもね・・・基本的な元素くらいは覚えて貰えないと・・・次の段階に進めないの」
補習は私だけなので、自ずとタチアナ先生とのマンツーマン授業になるわけで・・・
どうやら私のダメっぷりは今後の授業にも影響が出るレベルらしく、教える側にも必死さを感じてしまった。
特に元素についての理解が致命的に足りないとかで、今日は集中的に教えてくれるらしい。
「酸素とか、まだ教えていないはずの元素の名前を知っているのは良いのだけど、内容の方がチグハグでは困るわ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まずは基本となる6元素・・・水素、熱素、風素、土素、光素、闇素・・・これらをしっっっかり覚えるまで、帰しません」
「ふ、ふぇぇ・・・」
・・・なんとか補習が終わり。
日が沈んで暗くなる学園校舎からとぼとぼと出てきた私は、前方・・・門の方に見知った人影を見つけた。
ローゼリア様・・・私の帰りを待っててくれたの? こんな時間まで・・・
「ろ・・・ろーぜ・・・」
私は嬉しくなって、彼女の元に駆け寄ろうとした・・・しかしその時、気付いてしまう。
ローゼリア様の他に誰かもう1人いる・・・ずいぶん背が高い、男性?・・・制服を着てるから、ここの生徒だろうか。
2人は向かい合っていて・・・ここで何か、立ち話をしている?
いったい何を話しているのか・・・別に興味があるわけでもないけど。
2人は私の進行方向上にいるわけで・・・門から出ないと私は帰れないわけで。
大事な話かも知れないから、お邪魔しないように・・・そっと通り過ぎよう。
そう思って、実際その通りに2人の傍を通り過ぎようとした時・・・私はとんでもない言葉を聞いてしまった。
「?!」
この距離だとわかる・・・ずいぶん顔立ちの整った男子生徒が、真剣な眼差しで、はっきりとした声で。
もう聞き間違いようもない。
「ローゼリア・・・俺の元へ来い」
確かに、間違いなく・・・男子生徒はローゼリア様に向かって、そう言ったのだった。




