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第02話 「あれがゲートだ」


「貴女が、田中撫子さんですね?」

「あ、はい・・・そうですけど・・・」


それは私が中学3年になったあたりの頃。

家で私の帰りを待っていた見知らぬお客さん・・・それは外務省の人だった。


「異世界の・・・学校に・・・留学?」

「はい、全国の中学3年生を対象にした抽選の結果、貴女が選ばれました」


それは、すごく現実味のない話。


この日本の東京と、異世界のフレスルージュ王国が、突如発生した異空間ゲートによって繋がった。

それが約20年前の事。

当時は色々とニュースになったり、事件も混乱もあったらしい。


けれど時は流れ・・・

ゲートを通じて両国は国交を持つようになった。色々な人の努力もあって、関係は極めて良好。

厳正な審査と人数制限があるものの、異世界への観光旅行も成り立つようになっていた。

そんな中で今回新たに立ち上がったのが、フレスルージュ王国との交換留学だ。


まずはお試しとして1名・・・国によってその抽選が行われ、私が選ばれたのだという。


「良いじゃない、貴重な体験よ、行ってらっしゃい」

「お母さん?!」


一緒に話を聞いたお母さんは即賛成した。

最初は不安そうな顔をしていたのに、留学費用を全て国が持ってくれると聞いた瞬間、態度が180度変わったのだ。


「撫子も田舎の学校は嫌だって言ってたでしょ」

「それは、東京の学校に行きたいって話で・・・」

「ゲートは東京にあるんだから実質東京よ」


そんな無茶苦茶な・・・

でも実際東京にあるゲートを通って徒歩10分程度の距離らしいから、東京の学校と言えなくも・・・いやいや。


「ホラ、やっぱり地元の友達と同じ学校が良いな・・・なんて・・・」

「アンタ友達なんていないじゃない」

「う・・・」


母は全てを見透かしているかのようだった・・・私に友達がいないなんて言った事ないのに・・・

まぁ・・・家に一度も連れてきた事ないからね。

結局、留学が嫌ならアルバイトで学費を負担する事を条件にされて・・・コミュ障の私にアルバイトなど出来るはずもなく。


異世界留学の話は決まり、新年度の4月になった・・・異世界の学校も日本と同じ時期に入学するらしい。


「おおぅ・・・これが新幹線」


小中と地元から離れた事のなかった私にとって初の新幹線に乗って、私は東京の地に向かった。

もちろん交通費も国が出してくれている・・・普通席だったけど。

地元ローカルの烏帽子を被ったわんこの電車も嫌いじゃないけど、新幹線ともなると一気に都会を感じる、なんかかっこいい。


残念ながら、私には東京観光の時間は与えられなかった・・・東京のホテルは高いからって・・・お母さんのケチ。

新幹線で東京駅に到着したら、そのまま駅で外務省の人と落ち合う事になっていた。

しかも待ち合わせ場所は駅の改札口ではなく、降りたホームでそのまま待っているように言われている。


なにがなんでも私に自由行動をさせないつもりか・・・なんて思っていたけれど。

実際に東京駅に来てみると、それは嫌がらせでも何でもなかった。


「田中撫子さんですね、外務省の藤田と申します」

「あ・・・よ、よろし・・・」

「私の後ろに着いてきてください、決してはぐれないように」


挨拶もそこそこに、藤田と名乗った黒服の男性が駅構内を進んでいく。

言われるままその後ろをついていくんだけど・・・ここが東京かぁ。

もう昼間だというのに、大勢の人達が行き交っている・・・そして駅の中も広い。

地元の大型商業施設と変わらないくらいなんじゃないかな、しかも入り組んでる・・・こんな所に一人で放り出されたら迷子間違いなしだ。


まるで迷路のような駅の構内を、藤田さんは迷う素振りもなく歩いていく。

その背中を見失わないように着いていくのも大変だ、紛らわしい事に道行く人も黒いスーツの人が多かった。

なんで皆黒いスーツを着てるんだろう、もっと他の色のスーツを着ても良いと思うんだけど・・・


そんな事を考えていると、前方からこれまた黒スーツの集団がやってきた。

ホント紛らわしい・・・藤田さんを見失わないようにしないと・・・そう思った瞬間、前を行く藤田さんの足が止まった。

私がはぐれないように気を使ってくれている・・・わけじゃない、なんか黒服の集団に頭を下げてる?


「お疲れ様です」


知り合い? 同じ外務省の人だったりするのかな?


「・・・」


しかし藤田さん挨拶を無視するかのように黒服達は無言で通り過ぎていく。

うわ・・・なんか感じ悪い。

他人事ではあるけれど腹が立つ・・・今と同じようにクラスの子に無視された中学時代を思い出してしまったよ。


嫌な記憶をフィードバックさせながら黒服達の姿を目で追っていると・・・その中に異質な存在を見つけてしまった。

黒服達の集団のちょうど真ん中あたりに、キラキラとした男性が。

いや、本当にキラキラなんだよ、キラキラの王子様ってくらいに。

サラサラの金髪に整った顔立ち、ほっそりしてるけど身長は高くて・・・何より存在感がすごい。


「なにあれ・・・どっかのアイドル? ハリウッドスター?」


ちょっと日本人って感じがしない、外国人・・・それもカリスマ性のあるご職業に違いない。

洋画とか詳しくないから全くわかんないけれど、ハリウッドにならいてもおかしくなさそう。

あ、そっか・・・周りの黒服はボディーガードか何かだ! うん、そうに違いない。


と、私が自分の推理に納得していると・・・藤田さんが教えてくれた。


「彼は君と同じ留学生だよ」

「留学生?・・・たしか1人だけのはずなんじゃ・・・」

「そう・・・だから厳密には『逆』と言うべきか」


逆・・・その言葉の意味は考えるまでもなかった。

私は異世界との交換留学生だ・・・交換と言うからには、逆に・・・


「彼は『向こう』からの留学生だ、君と交換で日本に留学に来た・・・異世界人だよ」

「あれが・・・異世界人・・・」


あの溢れ出る存在感は異世界の存在感ってことか・・・へぇ~。

じゃあ、あのアイドルみたいな整った顔が異世界にはゴロゴロいると・・・あれ・・・ちょっと嫌な予感が。


「まさ・・・まさか・・・」


私、ああいうキラキラの集団の中で・・・高校生活を・・・


「彼は特別だよ、向こうはこっちと違って無作為に選んでないから・・・だからああしてしっかり警護が付いている」

「そ、そうなんです・・・ね」


向こうはちゃんと国の代表みたいなのを送り込んできているのか。

・・・なら、こっちも私なんかを留学させてる場合ではないのでは?


「ちゃんと国家間で話がついているから、君は何も心配しなくていい」

「はぁ・・・そうですか」


まるで私の考えている事を読んだかのように・・・わかりやすく顔に出てたんだろうか。

それきり藤田さんは口を開く事もなく、無言のまま迷路のような駅を歩いて行った。

人と喋るのが苦手な私としては、黙って着いていくだけで良いのは助かる。


「見えてきた、あれがゲートだ」


気が付けば迷路のような駅の出口に辿り着いたらしい。

丸の内・・・なんか聞き覚えがある都会っぽい地名だ・・・と書かれた文字版を横目に大きな出入口を抜けると、そこは西洋の街を思わせる駅前の広場。

その中央に、場違いなほど前衛的なデザインの『門』が佇んでいた。


「こ、これが異空間ゲート・・・」


『門』の周りには警官ではなく自衛官が取り囲む厳重な警備体制。

現代アートのデザイナーがデザインしたんだろうか、極彩色で幾何学模様が描かれた『門』のデザインは明らかに周囲に浮いているんだけど・・・それよりも何よりも。


「・・・でっか」


異空間ゲートは私が思っていたのより数段でかかった。

その大きさたるや、乗用車どころか、さっき私が乗ってきた新幹線を突っ込めるくらいだ。

てっきり人が数人通れるくらいのサイズだと思ってたよ。


「お疲れ様です」

「「お疲れ様です!」」

「・・・お、お、おつかれ・・・さまです・・・」


先程の黒服集団と違って、自衛隊の人達には無視される事はなかった。

むしろ駅まで届きそうなくらいの大きな声にビビりながら藤田さんについていく。

『門』に近付くと、その内側の空間が水面のように揺らいでいるのがわかった・・・ちょっと怖い。

でも、この向こうに異世界が・・・


「ゲートを通る前に、手荷物検査を受けてもらいます」

「あ・・・」


手荷物検査・・・すっかり忘れていた。

『門』の近くにある仮設テントに連れていかれた私は、そこで背負っていたリュックの中身を空けられてしまった。

異世界に持ち込める物に関して結構厳しい規定があるらしい。

スマートフォンなどの電子機器はもちろんのこと、日本のお金の入ったお財布も持ち込めない。


正直スマートフォンは別にどうでもいい。

私は何もしてないのに学校のパソコンを壊してしまった過去を持つくらいに機械オンチなのだ。

・・・それよりもリュックの中身の『アレ』を見られてしまうのが恥ずかしかった。


「異世界に持ち込めない物に関しては後日、お家の方に届けさせていただきます」

「・・・はい」


係のお姉さんはにっこりと笑顔を浮かべていたけど・・・この人にも見られてしまったのかな。

念のためリュックの中身を確認すると『アレ』はしっかり入っていた、異世界に持ち込むのはOKらしい。


荷物検査を終えて再び『門』の前に戻ると、藤田さんが待っていた。


「では、これからゲートを通って異世界に向かいます」

「・・・ごくり」

「ゲートを通る際に軽い眩暈のようなものがありますが、決して立ち止まらないように」

「は、はい」


異空間ゲートはもう目の前にあった、もう後戻りはできない。

この向こうには異世界、フレスルージュ王国が待っている。


波打つようにゆらゆらと揺れるその空間に、私は足を踏み出した___


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