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第13話 「こ、こかっ・・・?!」


それは、昼休みの時間の出来事だった。


王立学園の生徒が昼食を食べる場所は、基本的には学園敷地内にある食堂に限られる。

一応街まで食べに行くという選択肢もあるにはあるけれど・・・休み時間的には少し厳しい。

なので大半の生徒は昼休みになると、食堂へと足を向ける事になるのだ。


もちろん私もローゼリア様と一緒に食堂へ向かう。

相変わらず周囲の視線に晒されながら、歩く事しばし・・・

入学式を行った講堂とは校舎を挟んで反対側に、その食堂はあった。


閉じられた空間だった学生寮内の食堂とは対照的に、こちらは開放的な建物。

学生による混雑を緩和させる為なのか、外からの出入口は4ヶ所もあって、テーブルは屋外にも多数置かれている。

中でも庭園に面した一角は人気がありそうだ。


「こ、この席で・・・私、待ってますから・・・お先に」

「ありがとう、行ってくるわね」


適当に空いている2名席を見つけて席を確保。私がお留守番で、ローゼリア様に行ってもらう事にした。

ここでの食事はビュッフェ形式と言うんだっけ? 中央の大きなテーブルに料理がたくさん置かれていて、食べる分だけ自由に取ってくる形式。

食欲旺盛な学生達が群がるので、さながら戦場のような有様だった・・・が、ローゼリア様が近付くとまるで波が引くように生徒達が道を譲っていく・・・さすが王女様。


そんな光景を遠くから見守っていると、食堂の隅っこの方に水色の髪の女の子を見つけた。

アクアちゃん・・・あんな端っこの席で、1人黙々と・・・小柄な割に結構な量を1人で・・・1・・・人?

そういえば・・・アクアちゃんが他の誰かと一緒にいる所は見た覚えが・・・ない。


「お待たせ・・・ナデシコの分も貰って来たから、食べましょう」

「あっ、ありがとう、ございます・・・」


アクアちゃんの食べっぷりを観察していたら、ローゼリア様が戻ってきた。

しかも、私の分まで取って来てくれて・・・おかげで例の戦場には飛び込まなくて済みそうだ。

取って来てくれたお皿の上には多彩な料理が少しずつ・・・綺麗によそってあって、ローゼリア様の盛り付けセンスも感じられた。


「食べ物の好みとかわからないから、色々取ってきたけれど・・・もし苦手なものがあったらごめんなさい」

「い、いえいえ、とんでもない!」


これでも好き嫌いは少ない方だ、ゲテモノ系以外ならなんでも食べられる・・・はず。

ただ異世界という点で、一抹の不安がないわけじゃないけど・・・見た感じ、変な食べ物は見当たらなかった。

知らない食べ物もあるにはあるけど・・・野菜は野菜、魚は魚、肉は肉という見た目をしている。


「ち、ちなみに、これは・・・何の肉なんですか?」

「バッフターロという家畜の肉よ」

「ばふ・・・たろ?」


念のために聞いてみたら、知らない生き物の名前が出てきた・・・さすがに警戒してしまう。

バッフターロ・・・家畜という事だから・・・そんな変な物じゃないか。


「ニホン国の牛・・・という生物に近いらしいわ」

「そうなんだ・・・ん」


牛と言われて安心した・・・うん、たしかに牛肉っぽい味・・・美味しい。

野菜類は気にならないし、パンやパスタは普通に見た目通りだ。


「バッフターロは羽根の付け根の部分が美味しくて・・・私の好物なの」

「は・・・羽根?」


牛みたいな味なのに、羽根が生えてるのか、バッフターロ・・・いったいどんな生き物なんだ。

他にも知らない食材がいくつかあったけど・・・そのうち実物を見る事もあるんだろうか。

見てみたいような・・・知るのが怖いような。


ふとアクアちゃんのいた席を見ると、既に食べ終えたらしく、綺麗に片付けられたテーブルが見えるだけだった。

けれど・・・私の中でその疑惑は大きく膨らんでいた。


アクアちゃんには・・・友達がいない?


私と同じ、人見知りで他人と話すのが苦手なタイプ・・・そう考えると、これまでの事にも説明がつく。

だとしたら・・・私がするべき事は・・・


(大丈夫だよ・・・アクアちゃん)


心の中に使命感のようなものが沸き上がって来るのを感じながら、私は最後に残したデザートのプリンに手を付けた。

スプーンの上でプルプルと震える黄色い物体はまごう事なきプリンだ、他の何物でもない。


パク…


「なにこれ美味しい!」

「でしょう? これも私の好物なの! ナデシコのキノコにも負けていないと思うわ」


確かにこのプリンは弾力があって・・・それでいて味も濃厚で・・・すごく美味しい。

けれど『キノコの山』と比べられると・・・うーん・・・まぁ、引き分けなら・・・良いかな。


「お、同じくらい・・・おいしい、です・・・」

「そうね、同じくらい美味しいわ・・・コカトリスの卵のプリン」

「こ、こかっ・・・?!」


さらっと、とんでもない食材が出てきた。

今たしかに、コカトリスって・・・聞こえた・・・ような。

それ、魔物じゃないのかな・・・学校の昼食のメニューで出てきて良いやつかな・・・でも、美味しい。


(お母さん、私・・・異世界でコカトリスの卵、食べたよ)


美味しいデザートの前では、理性のなんと無力な事か。

これがコカトリスと知っても、私のスプーンは止まる事はなかった・・・完食。



こうして、異世界で口にした食べ物の代表格として・・・コカトリスの卵が私の記憶に深く刻まれる事になったのだった。

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