第91話 「それ・・・何?」
「・・・先に言っとくけど、手加減なんてしないわよ?」
「なら私も本気を出して良いのよね?」
「わ、私だって負けないし!」
「え・・・ちょ・・・みんな?!」
アクアちゃんとフィーラ、それにメイドリーまで・・・
私の目の前で険しい顔をした3人が睨み合って、ぶつかり合う視線がバチバチと火花を散らし・・・あつっ。
ま、魔力だこれ・・・3人が無意識に放った僅かな魔力が、ちょうど私のいるあたりでぶつかりあって火花を・・・あちち。
「じゃあ勝負の方法はナデシコに決めて貰うってことで・・・それでいいわよね?」
「ええ構わないわ」「ん」
「ふ・・・ふぇぇ・・・」
完全にやる気満々の3人・・・その視線が私へと集まった。
ど、どうしてこんな事に・・・
「ナデシコ、今日暇?」
「え・・・あ、うん」
・・・それは夏休みに入って5日目の事。
再び私の部屋を訊ねてきたアクアちゃんに、暇かと聞かれた私は正直に頷いた。
実際ローゼリア様が王宮に出掛けてしまうと、部屋に1人残される私は結構暇だったのだ。
成績を思えば勉強した方が良いんだろうけど・・・なかなか身が入らないというか、やる気が出ないというか・・・
「ならちょっと付き合いなさい」
・・・なので、アクアちゃんからの誘いを断る理由もなく。
2人で街まで出掛ける事になった・・・アクアちゃんの目当てはお洋服やアクセサリーのお店。
もう数日後に迫った『見送りの日』に備えての事らしい。
「うーん・・・」
いつになく真剣な面持ちで、アクアちゃんが2つの帽子の間で視線を巡らせる。
かたや薄緑色をした小振りのベレー帽。
もう片方はピンク色で、まんまるの本体に白いリボンがくるっと巻かれて、レースの白い蝶が踊っている。
「・・・どっちが良いと思う?」
「ど、どっちって・・・」
そんなこと言われても、私にファッションの良し悪しがわかるわけもなく。
アクアちゃんが2つの帽子を代わる代わる試着して見せてくれるんだけど、いちいち判断に困ってしまう。
緑の方は頭にちょこんと乗っかってる感じが可愛いし、ピンクのも可愛くてオシャレな感じがする。
そして、どちらの色もアクアちゃんの水色の髪によく合っていた。
「どっちも・・・アクアちゃんに似合ってるように、見えるんだけど・・・」
「それはそうでしょ、私だもの」
さも当然、といった感じでアクアちゃんが答える。
相変わらず自信がすごい・・・アクアちゃんくらい可愛く生まれると、自ずとこうなるんだろうか。
私なんか、この場に居るのすら落ち着かないんだけど。
「だからこそ、ナデシコに聞いてるのよ?・・・直感でいいから、どっち?」
「え・・・ええと・・・」
「そんな難しく考えなくて良いから・・・どっちよ?」
「じゃ、じゃあ・・・そっちの緑ので・・・」
今回のアクアちゃんはだいぶ積極的と言うか、なんか前のめりな感じがするから・・・ちょっと控え目な方が良いかなって。
・・・さすがにそれをそのまま本人には言えないけど。
「なるほど・・・うん、決まり!・・・次は服いくわよ!」
一度決断するとアクアちゃんは早かった。
今度はその帽子の色に合わせて、緑色系のお洋服からパパっと・・・迷いがない。
「こんなものね・・・どう?」
「か・・・かわいいです」
・・・語彙力がないのでそれしか言えない。
白いブラウスの上に帽子と同じ薄緑のケープ。
下は同じく薄緑のミニスカート、あとは素足に革のサンダル・・・日本と違って山の国であるフレスルージュはごつごつとした石の地面が多いので、ちょっと不安になる。
「あ、足・・・大丈夫?」
「歩くとき気を付けるし・・・これくらいは、ね」
アクアちゃん・・・そこまでして王子様を振り向かせたいのか。
自信満々のように見えて、その内心は結構必死なのかも知れない。
友達としては上手く行く事を祈るばかり。
「私の買い物にばかり付き合わせちゃったけど、ナデシコは良いの?」
「うん・・・特に必要な物とかないし・・・」
『門』を通ると一瞬で日本だし・・・準備も何もない。
両親へのお土産に、こっちのお菓子か何か買っていけば充分じゃないかな。
アクアちゃんの買い物がひと段落着いたので、私達は手頃なカフェで遅めの昼食を摂ることにした。
「あ、そうだ・・・これ」
ここで私が思い出したように取り出したのは、くるくるっと巻かれた羊皮紙っぽい紙の筒。
長久保さんに貰った見送り用の許可証だ・・・これがないと当日『門』の近くに行く事が許されないらしい。
買い物に気を取られて危うく渡しそびれる所だったよ。
「さすが親友、恩に着るわ」
いつの間にか親友にランクアップしたアクアちゃんがそれに手を伸ばした、ちょうどその時。
「ナデシコじゃない・・・アクアも一緒なのね」
声のした方を向くと・・・よく見覚えのある長い耳。
エルフ族のフィーラだ・・・って、あれ?
「フィーラ?森に帰ったんじゃ・・・」
「・・・いや、その・・・まだ心の準備が・・・」
てっきり他の生徒達のように故郷の森に帰省したとばかり思っていたんだけど・・・どうやらまだこっちに残っていたらしい。
つい思ったまま口にしちゃったけど・・・フィーラの事情を考えれば・・・帰りにくい気持ちもわかる。
こ、ここは話題を変えないと・・・そう思った矢先。
「・・・いいの?シィリオだっけ?妹が待ってるんでしょう?」
「そう・・・なんだけどね・・・そうすべきなんでしょうね・・・」
「あ、アクアちゃん・・・」
アクアちゃんによる容赦のない追い打ちがフィーラを苛む。
や、やめてあげようよ・・・フィーラ落ち込んじゃったじゃない。
するとそこへ・・・
「あ、ナデシコ」
「ふぁ・・・ナデシコちゃん?」
・・・と、また聞き覚えのある声が。
振り返れば、やっぱりと言うかそこにいたのはメイドリー・・・と、なんか眠そうな目をしたメイプル先輩。
たしか家が近かったし、姉妹でお出掛けといった感じかな。
せっかくなので同じテーブルで一緒に食べようってなったんだけど・・・
「ナデシコ、それ・・・何?」
「え・・・」
フィーラが目ざとく見つけたのは、テーブルの上に出しっぱになっていた許可証。
止める間もなく無造作にそれを掴み取ると、広げて中身を・・・
「『門』付近への・・・立ち入りの許可?」
「ええと・・・私が日本に帰る時の・・・」
「ちょっと、それ私のだからね!」
「?!」
私が説明をする間もなく、フィーラから許可証を奪い取るアクアちゃん。
そのまま許可証を大事そうに抱え込むと、威嚇するような目でフィーラを睨む。
わけもわからず首を傾げるフィーラ・・・と、そこで勘の鋭いメイドリーが。
「あ、わかった・・・ナデシコがニホンに帰る時の見送りの許可でしょう?」
「あ・・・うん」
「やっぱり・・・ナデシコ、私も見送りに行きたいんですけど」
「え」
まさか見送りに来てくれる友達がここにもいたなんて・・・その気持ちはすごく嬉しい。
嬉しいんだけど・・・そこで状況を理解したらしいフィーラが続いた。
「そう、ニホンに帰るのね・・・なら私も見送りに行くわ、いいでしょう?」
「いや・・・それが・・・その・・・」
長久保さんには1名分しか頼んでないし・・・今から追加をお願いするのはさすがに・・・
許可証が1人分しかない事を告げると、急に空気が張り詰めたものになった。
「渡さないわよ!・・・は、早い者勝ちなんだから」
「さすがにそれはズルいんじゃないかしら?・・・ねぇ?」
「え・・・いや私は・・・無理にとは・・・」
許可証を死守しようとするアクアちゃんに対して、フィーラは同意を求めるようにメイドリーの方を向いた。
けどメイドリーの方は、そこまででもなかったみたいで・・・急に話を振られて困惑した様子。
けれど・・・思わぬ所から味方が現れた。
「そうよズルいわ! メイドリーちゃんにも権利があるべきよ!」
「ちょっ・・・お姉ちゃん?!」
「もう、それがメイドリーちゃんの悪い癖よ・・・こういう時は引いちゃダメなの、見送りに行きたいんでしょう?」
「う・・・それはそうだけど・・・」
空気を読んでか読まなくてか・・・急に元気になったメイプル先輩がメイドリーの肩を掴みながら割り込んできた。
姉の説得でメイドリーの心が動く・・・それを見たフィーラは満足そうな笑みを浮かべ・・・
「ふふ・・・これで3対1ね、観念しなさいアクア」
「く・・・だ、だからって私が引き下がるとでも思っ・・・」
「もちろんそこは勝負で決めるのよね!・・・お姉ちゃんが審判役を買うわ」
「え・・・そんな・・・勝負って・・・け、けんかはやめ」
「わかったわよ!勝てばいいのよね、勝てば!・・・先に言っとくけど、手加減なんてしないわよ?」
心配する私を他所に、すっかりやる気になってしまった3人がバチバチと火花を散らす。
かくして、たった1枚の許可証を巡って勝負が行われる事に・・・
そして・・・その勝負の内容は・・・
「じゃあ勝負の方法はナデシコに決めて貰うってことで・・・それでいいわよね?」
「ええ構わないわ」「ん」
「ふ・・・ふぇぇ・・・」
・・・私に委ねられたのだった。
ど、どうしよう。




