デート相手がイケメン過ぎて困る
思い付き短編です。
年末に一気見した某アニメに触発されてカッとなってやった。今では公開している。
どうぞお楽しみください。
「あぁ、遅くなっちゃった……。鈴素さん、怒ってないといいけど……」
輪狭洲衛武は腕時計を見ながら、紙袋を揺らさないように早歩きで駅へと急ぐ。
「お茶だけでもご一緒していただけませんかっ!?」
「ごめんね。多分待ち合わせの相手がもう来るからさ」
「じゃ、じゃあその方が来るまでの間だけでもお話を……!」
「それくらいなら構わないよ。君の素敵な髪、どんな手入れをしているか聞いてみたかったんだ」
「ひゃわ……! わ、私行きつけの美容室の自家製シャンプーとコンディショナーを愛用してまして……!」
「へえ、どこにあるのかな? この近く?」
「ひゃい! 古橋駅の北口から徒歩一分です!」
「今度行ってみようかな」
「ぜ、是非!」
「あ……!」
その目に逆ナンされているイケメンの姿が見えた。
色白で整った顔立ち。
デニム地のジャケットに白いTシャツ。
長い足に張り付くようなタイトな黒いパンツ。
ラフなのにどこか気品のある姿は、女の子がすがりつくように迫るのも無理はない美しさがあった。
そんなイケメン・鈴素歩に、衛武は早歩きのまま近付く。
「鈴素さん! お待たせ!」
「やあ輪狭洲君。こんにちは」
「ごめんね、お待たせしちゃって……!」
「何、きちんと連絡はくれていたからね。じゃあ行こうか」
「……え、お、男……? しかもこんな普通な……」
目を丸くする女の子に、歩は微笑みかける。
「ありがとう。お陰で待っている間退屈しないで済んだよ」
「はわ……! こ、こちらこそ……!」
「美容室で会えたらいいね」
「きゃあ! ありがとうございますっ!」
ばね仕掛けの人形のように頭を下げた女の子は、スキップしながら駅へと駆けて行った。
「……相変わらずのイケメンだね……」
「劇団リリィ・カーニバルの花形男役として、日日是稽古だからね」
「そっか……。流石だね……」
衛武の声が少し曇ったのを感じた歩が、その顔をいたずらっぽい笑みを浮かべて覗き込む。
「それともデートなのだから、女らしい格好をして来てほしかったかな?」
「で、デート!?」
「男女がこうして二人で出かけているんだ。デートと言っても差し支えないだろう?」
「え、そ、それはそうかもだけど、いや、そうじゃなくて……」
「ん?」
意を決した衛武は、歩に紙袋を差し出した。
「おや、これは?」
「あの、前の飲み会の時に、『体型を保つために日頃の食事が味気ないから、飲み会の料理がより美味しく感じる』って言っていたじゃないか」
「ああ、そうだね。まあ君と飲める機会だからより美味しく感じた、というのもあるんだけど」
「ぐっ」
動揺を抑え、言葉を続ける衛武。
「だ、だから色々調べて作ってみたんだ。オイルを使わない、抹茶塩で味付けした豆腐サラダ」
「へえ」
「劇団で鈴素さんが頑張ってる分、オフでは少しでも羽根を伸ばしてもらえたらって思って……」
「成程。それで僕がオフでも稽古してる事で、複雑な気持ちになったのかな」
「ま、まぁ……」
「そうか。心配してくれてありがとう」
その言葉ににこっと微笑む歩。
「んぐっ」
「どうかしたのかい?」
「い、いや、何でもない……」
イケメンスマイルにやられたとは言えず、衛武は言葉を濁した。
「折角だからどこかでいただこう。公園にでも行くかな」
「あ、それならあそこのカフェでどうかな。店長さんに持ち込みの許可もらってるから」
「へえ、なかなか用意周到だね」
「鈴素さんにゆっくり食べてもらえたらって思って」
「嬉しいね。じゃあ行こうか」
「う、うぇっ!?」
突然手を引かれ、動揺が増す衛武。
だからこそ気づかなかった。
堂々とした様子の歩が、緩みそうになる表情を引き締めていた事に。
(全く……。これだから輪狭洲君の前で演技を辞められないんだ……。今日遅れたのだってこのサラダを作るためだったんだろう……。無自覚なのがまた……)
「ちょっ、鈴素さん! 手……! 手……!」
「親愛の証さ。まさか振り払いはしないだろうね?」
「は、はい……」
(皆は僕をイケメンだと騒ぐけれど、本当のイケメンというのは、見た目に左右されず心から他人のため行動できる輪狭洲君、君みたいな人の事を言うんだよ)
そうして二人は、心の中で同時にため息を吐く。
(はあ、イケメン過ぎて困る……)
読了ありがとうございます。
素直に好意を表現してるけど、フィルターでうまく伝わらない系じれじれ……。
大好きです!
恒例のお名前紹介。
鈴素歩……プリンス
輪狭洲衛武……プリンセス衛る
歩が衛武に嫁ぐと……?
楽しんでいただけたなら幸いです。