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断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました  作者: 志麻友紀
断罪エンドを回避したはずなのに今度は王妃になれと言われました
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第二話 おつかれでご苦労様な裏事情 その2




 さて、国境で王太后は放り出されることなく、マルタ王女の一行は王都エーヴへと到着した。

 旅の疲れもあるだろうと一日の休息をへて、その翌日の午後、王女と王の対面の式が午後に行われることとなった。


 夜会ではないのは十歳の王女のお歳を考えてのことだ。「夜明けまで騒がなければならないと考えているのが今どきの貴族です。しかも、子供達まで、それに付き合わせて、だから健全な発育を損なうんです」とは、王の美しい参謀の意見であった。ロシュフォールとしても子供の姿のまま、夜会で椅子に座っていつまでもつまらなく過ごした記憶があるからうなずいた。


 宮殿の大広間には先に王女一行が入った。黒く緩く波をうつ髪に黒い瞳のマルタ王女は愛らしく、薔薇色のドレスがよく似合っていた。

 そして、その横に立つパオラ王太后は高く結い上げた髪に大粒の真珠の装飾を巻き付け、首飾りはこれまた大粒のダイヤモンドを使ったもの。白金の地に金糸の模様を織り込んだドレスにも、ところどころ宝石がちりばめられてギラギラと輝いている。


「まったく、あれが王女の付き添いか?自分が輿入れする姫君のような姿じゃないか?」


 大広間の横には王の控え室があり、牛の目と呼ばれる魔法の隠し窓から、広間の様子が見てとれた。ロシュフォールはそれをのぞいてあきれた声をあげる。


「では、花嫁を取り替えなさいますか?」

「恐ろしいことを言わないでくれ。俺にあんな年増の花婿になれと?」


 王太后は結構な年齢であるはずなのに、容色があまり衰えたように見えない。美容に血道をあげていたのは有名な話であるし、幽閉されていた離宮でも、朝、昼、晩のお召し替えの習慣は変わらず、いつでもそのまま夜会に出られるような姿だったとか。


「そのお言葉は、お歳を召した御婦人には失礼ですよ」

「真に貴婦人たるお方には、俺は敬意を払うさ。年甲斐もなく孔雀みたいに着飾って、厚化粧のババアにお美しいですね?と言えというのか?」

「そこはあいまいに笑ってごまかすのですよ。真実を告げるのは時に残酷です」

「お前もたいがい、口が悪いぞ」


 そんな軽口をたたき合いながら、二人は大広間へと向かう。




   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇




 王が現れることを知らせる声が響いて、大広間の両開きの扉が儀典用の制服を着た衛兵の手によって、うやうやしく開かれる。


 現れた黄金の太陽のような姿に、大人になった彼の姿を、それなりに見慣れたはずの貴族達の口からも感嘆のため息がもれる。


 肩ほどの長さの獅子のたてがみのような金色の巻き毛。これほどの純粋な金色の髪はない、さらには同じく金の瞳。金獅子たるものが代々玉座に座ってきた王家であるが、先王も先々代の王も金茶であり、先に玉座を狙って反乱をおこしたギイ将軍は赤銅色の毛並みであった。彼が武の実力がありながら、玉座から一番遠いと言われたのもこの理由があった。

 そして、妾腹であり伯爵夫人の地位を王から与えられたとはいえ、元々の母の身分は高くないロシュフォールが玉座に座れたのもこの色があったからだ。


 さらには今の王は十歳の子供の姿ではなく、堂々たる青年の姿だ。秀でた額に通った鼻筋に、薄くもなく厚すぎることもない情熱的な口付けをしそうな唇。いかにも獅子族らしい、広い肩幅に厚い胸板、長い脚とまったく理想の男神の像のようであった。


 そして、赤いマントをひるがえす長身の王の横に寄り添うような、銀の月……とすっかりそれが呼び名となった、銀狐の参謀のほっそりした姿があった。

 青みがかった銀の長い髪。氷のような切れ長で大きな蒼の瞳。人形のように整った白い面は、本日もぴくりとも動かない。


 しかし、笑顔などなくとも、誰もが美しいと認める圧倒的な美が、この銀の百合……とこれも王の参謀の呼び名の一つだ……にはあった。たとえ、その白い顔の半分が繊細な白のレースの眼帯に覆われていようとも。いや、その不完全さこそが、見る者をどこか倒錯的な気分にさせる。


 宝石も豪奢なドレスも、この凜とした姿を前にして、なんの意味ももたなかった。


 王太后は初め、己の宿敵ともいえる若き王こそを挑むような目で見ていたが、すぐにその黄金の太陽の横にいる銀月に気付いた瞬間、彼女の瞳には嫉妬のどす黒い炎が宿った。

 いかなる美容術や化粧法を駆使しようとも、そこには彼女が持つことの出来ないたぐいの気高い美しさと、取りもどすことの出来ない若さがあったからだ。


 後にロシュフォールが「あの女がレティシアを見たとたん蒼白になってぶるぶる震え出したんで、こっちが逆に毒気を抜かれて無難に挨拶が出来た」と語ったぐらいだ。


 関係ない周りの貴婦人達が青ざめるような、王太后の視線を受けながら、レティシアはいつものごとく冷静であった。

 着飾った王太后よりも、その横に立つ王女と、その後ろにいる王女より少し年上だろう少女を見た。黒の巻き毛に黒い瞳の黒狐である王女も珍しいが、後ろの少女は、レティシアの銀とは違う、髪はまっ白で瞳の色は赤の白狐とは、これもまた対照的な取り合わせだ。


 レティシアの視線に気付いた少女は、その赤い瞳で真っ直ぐこちらを見た。

 その少女がレティシアにはなにより、強い印象に残った。


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