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陰陽  作者: 弥六合
安倍晴明の結界
21/21

仕上げる

 恥ずかしがり屋のような月が、雲の後ろに隠し、時折ちらりと時に大地を見ている。微風が大地を巡り、緑の生き物たちがひそひそ話をするように騒めきを誘う。

 船岡山城の城外では、敵軍が集結を完了した。城内の騒ぎを聞き逃さないよう、指揮を執る武将は手を振り下ろした。すると、集結した少数の兵士たちが素早くて登城を始めた。


 藤森と竜児は、大きな木の陰に身を隠していた。藤森は木の枝に立ち、幹に寄りかかり、竜児は枝に腰を下ろし、目を閉じていた。彼女は藤森が作った、対魔法生物用の隠蔽術に意識を集中させていた。


「本当に気付いていないのようですね」

「魔法生物ですから、いとも簡単にも魔法に惑わされたのでしょう」

「こんなに効果があるなら、みちゃんに教えてあげればよかったのに」

「臨時に作った魔法です、テストをしないので、安易に教えるわけにはいきません」

「主は考えすぎだと思わよ」

「それに、閃きにはきっかけも必要ですから」


 竜児は目を閉じ、術を流し続けながら、枝に腰を掛けたまま藤森と会話していた。藤森は、周囲の城内兵士を観察している。


「相変わらず下しか見えないよね、城内の兵士も城外の兵士も同じだな」

「腐った体ですから仕方がありません」

「腐ったか、骨だけだと厄介かもね…」

「骨だけにも弱点はありますので、どっちもどっちです」


「主、城外の敵軍が登城完了し、城門を開けようとしています、そろそろ夜襲の時間です」


 二人の会話を遮るように、執事からの連絡が入った。


「用意はできましたか?」

「はい、祭壇に必要な物は全て用意してあります」

「では、話をした通りにやりましょう」

「はい」


 話が終わると同時に、城内の数箇所で騒乱が引き起こされた。騒乱に気づいた城内の兵士たちは、最も近い騒乱発生場所へ移動し始めた。その結果、城門付近の兵士が手薄になった。そこへ、城外から侵入した兵士たちが城門付近の兵士を一気に倒し、城門を開けた。

 城外の軍隊を指揮する武将が手を振ると、城外の軍隊は素早く城内へと侵入してきた。時を同じくして、藤森の式神が姿を消した。敵を見失った城内の兵士は、城門から侵入する新たな敵と、見失った敵との間で混乱した。城門から侵入した敵を防ぐために移動する者と、先ほどまで戦っていた敵を探す者とが入り乱れ、動きが取れずにいた。

 数分後、混乱が収まりかけた兵士たちが城門へ移動しようとした時、城外の軍隊はすでに侵入し、火を放ちながら戦っていた。さらに多くの城内兵士が本丸から出て、本丸の城門を守り始めた。

 士気を失った城内の兵士たちは、本丸の城門へと戻り、守備軍に編入されて守備を固めようとした。しかし、前線の崩壊が予想以上に早く、敵軍の数を減すことができなかったため、城門の守備軍をさらに増員するために城門を開けた。だが、城門を開いた瞬間、先ほど戻ってきた兵士たちが動揺し、本丸へ移動し始めた。そして、敵軍が城門の前に現れ、鬨の声を上げた。

 士気を失った兵士と防衛側の兵士が衝突し、陣形は乱れた。すると、再び城門から怒号が響き渡った。兵士たちとは異なる、華やかな鎧を見に着け、長槍を構えた指揮官が現れた。すると、兵士たちの動きは止まり、敵の方向へ向き直った。防衛軍の指揮官は槍を天高くへ掲げ、鬨の声を上げた。同じように、侵入軍の指揮官も叫び、自ら敵陣へ突撃した。

 両軍は城門の前で激しく入り乱れ、防衛軍は敵を城門前で食い止め、侵入軍は城門を突破しようと試みた。しばらく混戦が続いた後、両軍の指揮官が遂に顔を合わせ、槍と槍を激突させた。広範囲に衝撃波が走り、味方、敵の区別なく周囲の兵士たちを吹き飛ばした。両指揮官が槍を交える度に周囲の兵士たちも巻き込まれたため、二人の周囲には誰も近づけなかった。


 城門から少し離れた、先ほどとは異なる場所の木の上で、藤森は木の枝片手を添い立ち、竜児は相変わらず枝に腰を掛け、楽しげに足を揺らしていた。敵が城門付近に集結していたため、竜児は術を行使せず、楽しそうに城門での戦いを観戦していた。


「これくらい、みちゃんたちにもやり易いでしょう」

「これくらい、しなくても大丈夫と思うわよ」

「カスミを救出するために、仕方なくここまで付き合わないと」

「しかし、なぜこのようなことが起こったのだろうか?」

「それは、カスミに聞かなければなりません」

「そうね、ここの封印だけがこんなことを起こしたのも不思議だわ」

「ここまでは安倍晴明が言った通りのことです」

「でも、そこまで何でも分かっていたなら、最初から教えてそれを阻止すればよかったのでは?」

「そんな簡単なことではないから、先ずは安倍晴明が見られた未来は勝手に見えたのこと」

「完全に事の顛末を見たのじゃないか?」

「そう、一部始終だけです」


「主、カスミを保護いたしました」


 藤森と竜児の話している途中、執事が報告した。


「では、行きましょう。この件を仕上げましょう」

「はい」


 話が終わると、藤森は右手で竜児の肩に手を置き、二人は姿を消した。

 藤森と竜児の二人は、船岡山城の中央付近にある建物の中、祭壇の前に現れた。藤森は祭文を持ち上げ、読み始めた。竜児は一歩後ろに下がり、藤森の背後に控えていた。


「假道晴明封印結界、使閻羅王權限命之」

「眾游離魂魄歸天命、陰陽五行天地輪迴」

「鎮鴨川青龍座、鎮巨椋朱雀座」

「鎮山陰白虎座、鎮船岡玄武座」

「淨化萬眾迷離幽冥」


 すると、藤森は祭文を高く上げ、祭文を揺らしながら空へ燃え消えていった。同時に、外の空から無数の光柱が差し込み地面に届き、武将と兵士を囲んで浄化した。無数の光点へと変化し空へ舞い上がり、星になった。雲が消え、月と数えきれない星が船岡山を照らすと、破壊された建物が元に戻った。

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