負の感情
夜、空の鏡は半分くらい雲に隠れているが、星々と比べると依然として輝いて大地を照らしている。夜空を映し、乱反射する鴨川は、輝きながらゆっくりと流れている。
静かな夜にあちこち小さな虫の鳴き声しか聞こえない夜に、木材に釘を叩き込む音がかなり鮮明だ。町離れた山の中、木しか見えない場所に、真っ白な服を着て頭に蝋燭を挿し、手に木槌を持って木に何かを打ち込んでいる人がいた。
「全部お前のせいだ、お前が悪いんだ。お前がいなければよかった!」
「呪いをやる、呪いをやる、呪いをやる!」
「なぜ私がこんな目に遭わなきゃ、お前さえ…お前さえ…!」
「私の不幸をお前にもお裾分けしてやる…、ありがたく受け取れ…」
若い女性の声。黒い髪が腰まで散らばっていて長い。木槌を打ち込みながら力を込めて声を出す。そして、その女性の体が僅かな白い光が放ち始めたが、彼女が気付かないまま、ずっと木槌を打ち込んでいる。すると、その光が夜空に舞い上がり、北の方向へ素早く移動し、空に淡い白い線を残しつつ、悠々と消えていった。そしてその時に、東の方向からも淡い白い光が飛んできて、女性の体に入った。
鴨川に沿って南の方向へ進むと、伏見を越えたところで、見渡す限り田んぼが目に入った。その一角に公園があり、街路灯のないところに人の影がぼんやりと見える。前部は見えなかったけど、木の下に何かを埋めている動きが分かる。
「あの子が悪い、生まれてくるべきじゃなかった」
「俺はこんなにも全部を捧げたのに、俺の人生も」
「なぜだ!なぜあいつを選んだんだ!あの子まで産むなんで…許さない…許さない…」
「裏切者には制裁が必要だ、制裁!制裁!」
わざと声を抑えて、何かを埋めながら話していた。それでも男だと分かった。そして、彼は跪いて両手を広げ、頭を真上に向け、自分でも聞こえないくらいの声で口を動かしていた。数分後、その男の体には僅かな白い光が放たれていて、そして、その光は男の体から空へ舞い上がり、八つの方向に飛び散った。男は気付かなくて、ただそこに動かず、口だけが動いている。
桂川を北西の方向へ沿って、山に入ったところに竹林がある。人が通れる場所に道があって、空から光が差し込んでいるので、その場所は明るいから。しかし、道から離れて空まで伸びる竹林は、雲を隠し光を遮るので、地面は暗くて誰も来ない。夜になると、月明かりがある日でも、このような場所では何も見えない。
近くの道に月明かりがあり、僅かな光が竹林の中に差し込み、人影がぼんやりと見えてきた。手に持った刀みたいなものを高く上げて斬り下ろすのが見えた。『ドンドンドン』と大きな音が竹林に響き渡っている。
「出世!出世!俺は絶対に出世する!俺の道を邪魔した奴らに呪いをかける!」
「ヒィヒィヒィ…、親友も恩師も、もう関係ないんだ。出世さえできれば、悪魔だって呼んでみせるわ!」
「今これは前菜だけだ、俺が出世の一歩を踏み出したら、人さえも供物にしてやる」
「金さえ手に入れたらどんな供物も用意できるんだ。だから俺の願いを聞き、答えたまえ!」
「さあ、さあ、さあ!持ってけ、持ってけ、持ってけ!アハハ!」
男の声を発する人影は、斬り下ろすテンポで狂ったように独り言を言っていた。動きも止まらないし、独り言も止まらない。男は狂っていて、そのまま続いている。そして、男の体から白い光が空へ舞い上がり、北の方向へ分けて飛んでいった。
山の境界線に沿って北東の方向へ進み、金閣寺を過ぎると、町の真ん中に山がある。山のそばにとある二階建ての建物の二階に、一人の女子高生がいて、試験の準備のために一生懸命に勉強している。うまくいかなかったかのように、ずっと自分の髪を引っ張って苦痛を与えている。
辛さ、疲れ、眠気、そして恐れの気持ちで、怖くて休むこともできない。次の試験にまた落ちたら何をされるのか分からないから、無理矢理に本を飲み込んでいるが、精神も体も既に限界に来ている。すると、女子高生は急に立ち上がり、本とノートをざっと掴んで力いっぱい地面に放り投げ、顔をベッドに埋めて横になった。
女子高生の体から白い光が舞い上がり、天井を突き抜けて空に浮かんだ。そして、他の家からも白い光が舞い上がった。それぞれの光は多数に分かれ、いろいろな方向へ飛び散って消えた。その中には、女子高生からの光の一つが女子高生の隣を通して落ちて消えた。
とある洞窟の中に、長い通路の照明のために蝋燭を挿した。その通路の先には、人の倍くらいの高さの鉄門が立ちふさがっていた。中に入ると、高さ六メートル、すこし長い部屋になっていた。五歩くらい進むと、天井までの柱が二本ずつ合計十本あり、その先に祭壇があった。
その祭壇の前には、一人が陰陽師の恰好をして座っている。外から黒いスーツを着た男が入ってきて、陰陽師に近付いてくる。
「どう?」
威厳ある男の声が陰陽師に話しかけた。
「まあ、俺がいなくても勝手に進んでるよ」
陰陽師が若い男の声で返事した。
「どうやらうまくいっているようだ」
「現代人はいろいろなことに追われているようです。少し押すと、雪玉が転がるようにどんどん大きくなり、暴走してしまう」
「これでいい、安倍晴明の結界に影響を与えるなら、我々の計画が成功すれば、これでいい」
「人々の負の感情は広がるネットとなり、この京都を、この安倍晴明の結界を覆う。そうは簡単に解除されません」
「まあ、念のためにここは任せておくぞ」
「了解しました」
話が終わると、黒いスーツを着た男は振り返って去っていった。




