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013. クラス委員

 朝と夕方には教室でホームルームというものを行う。出席をとったり、ニクマルから連絡事項を聞くだけなのだが、今朝は委員会について話をされた。


「この学校では生徒の自主性を育てるために、委員会という組織を作り、学校の運営に関わらせている。活動内容は校内の施設の管理だったり、各行事の準備だ」


 運営と言われると大袈裟なものに聞こえるが、孤児院でも畑や食事の手伝いをサクラ達がしていたので、きっと同じようなものだろうと解釈することにした。


「夕方のホームルームで各委員を決めるからそのつもりでいろ」


 どんな仕事があるのか、畑や動物の世話をする委員があったらいいななどとぼんやり想像を巡らせていたら、突然名前を呼ばれた。


「アスマ・ノウゼンとサクラ・ツキユキ、お前ら二人にはクラス委員をやってもらうからそのつもりでいろ」


 突然そんなことを言われても、クラス委員がどんな存在なのか、初めて聞く言葉に首をひねってしまう。もう少し具体的に説明がほしい。


「先生、クラス委員ってどんなことをするんですか?」

「要はこのクラスの雑用係だな。授業や行事の準備をしたり、まとめ役をしたりといったところだ」


 アスマとサクラが選ばれたということは、男子と女子それぞれから選んだのかもしれない。サクラはただでさえ他の女子に睨まれているというのに、クラスのまとめ役なんてそんな大役を務められるだろうか。


「なぜ我々が選ばれたのでしょうか」


 アスマも気乗りしないのか、手を上げて質問した。


「体力測定の結果だ。返事はどうした」

「はい」


 やれと言われたらやるしかないので、サクラとアスマの返事が揃った。前の方に座っている女子達がひそひそと囁き始めた。きっとサクラが指名された事が不満なのだろう。しかし指名されたものは仕方がない。

 それにしても雑用はともかくまとめ役に体力が関係するのだろうか。


「それじゃあこのまま授業を始めるぞ。俺の授業は初めてだな。一時間目は教室で行うが、二時間目は演習場を使用する。次回の授業からは演習場に直接集合だ。どの演習場を使用するかは、前日クラス委員に伝える」


 さっそく仕事ができたらしい。演習場はいくつもあるので間違わないように気をつけなければならない。


「魔術の実技は危険が伴う授業だ。絶対に俺が言ったこと以外はするなよ」


 ニクマルの担当教科は魔術基礎で、この授業では実技を教えてくれるらしい。まずはどんな魔術が使えるか、それぞれ手を挙げさせられた。

 魔術の基礎となる火・水・風・土・防御壁の五つの内、防御壁を使える者はほとんどいなかった。サクラは弱いながらもなんとか発動できる。

 それから幻影魔術と雷魔術についても説明を受けた。


「幻影術は複雑な魔術で二年から、雷魔術は特殊で危険な魔術だから習うのは三年生に上がってからだ」


 一年生の間は基礎を徹底して教えてもらうことになるらしい。


「魔術はその性質によって向き不向きが出てくるが、基礎の五つに関しては、どんな奴でも練習すれば威力が弱くとも使えるようになる。まずはこの一年で五つすべてを使えるようになれ」


 まずは自分の体に流れる魔力を感じることから始まった。これは初歩の初歩なのでみんな問題なくできた。次は体のすみずみまで魔力が行き渡るよう配分する。これも基本中の基本だが、昔、この配分を毎日欠かさず行えば魔力量が上がると教えられ、サクラは日々こつこつと練習してきたため、問題なく合格をもらえた。


「ツキユキはなかなか筋がいいな」


 目で見て分かるものなのか、思いがけずニクマルに褒められた。


「誰かに習ったのか?」

「昔、防衛軍の人に会ったときに教えてもらいました」

「それは貴重な体験をしたな」

「はい」

「ああ、ノウゼンも悪くない」


 褒められたはずなのに、後ろを振り返るとアスマはサクラを睨んできた。これはライバル宣言だろうか。もちろん負けるつもりはない。

 アスマに続きコデマリも褒められ、ウキ、ホズミは苦戦している。三十分経ってもできない者は放課後に居残りを命じられた。


「次は呪文について説明する」


 魔術を使うには呪文が必要である。練習すれば省略もできるが、その分不安定になるため、養成学校では無詠唱は教えないらしい。


「いいか、お前らみたいなひよっこが無詠唱を使おうなんて思うなよ。魔術が暴発したらお前らだけじゃない、周りにも被害が及ぶんだからな」


 サクラは無詠唱を練習したことはなかった。孤児院にある魔術の書には基本しか書かれていなかったため、やり方が分からなかったこともあるが、昔、魔術を教えてくれた騎士に、無詠唱は危険なので絶対に一人で練習しないことと注意されたからだ。


 しかし養成学校でも教えてもらえないのであれば、卒業してから練習をするしかないのだろうか。せっかく三年間も学習するのにもったいない気もするが、それだけ危険な代物なのだろう。


 教室での授業ではあったが、あっという間に一時間目が終わり、二時間目は演習場へ移動となった。授業と授業の間の休憩は十分しかないため、移動はせわしない。


「二時間目は、防御壁を練習する。呪文は頭に入っているな、バリエラ!」


 ニクマルが唱えると、きれいな弧を描く防御壁が現れた。防御壁は魔力を調整すれば、厚みも強度も変えることができる。


「一時間目に教えた、魔力をコントロールする感覚を忘れるな。呪文に自分の魔力を乗せるんだ」


 すぐさま生徒達が真似をする。しかし成功したのは四分の一程度だ。


「時間いっぱい練習しろ。できない奴はできるまで。できた奴は何度も繰り返し、体にその感覚を覚えさせろ」


 一時間ずっと防御壁の練習をして、終わる頃には誰もがくたくただった。


「魔導士科に入学できたくらいだ、お前らの魔力は並の者より高い。一、二時間くらいであれば魔術を使い続けても問題ないだろう。だが消費しすぎて魔力が無くなれば人は死ぬ。その境目を見誤るな。本日の授業はこれまでとする」


 休む間もないとはこのことだ。また早足で教室に戻ると次の授業は歴史だった。この国の成り立ちについて学ぶらしい。その知識が何の役に立つのかは分からないが、学んでみなければその答えも出ないので、サクラは淡々と授業を進める教師の話に集中した。






 放課後になり委員会を決める時間となった。クラス委員に指名されたサクラとアスマはさっそく前に出てこの場を仕切るように指示された。


 アスマが委員会を読み上げていき、立候補したい者が手を挙げる。サクラはそれを黒板に書いていく役だ。


「運動委員をやりたい奴は挙手しろ」


 手が上がらない。


「文化委員」


 上がらない。


「植物委員」


 上がらない。


「おい、これじゃ何も決まらないじゃないか。立候補をしないなら適当に割り振っていくぞ」


 さすがはアスマ、横暴である。


「いや、委員会の名前だけ言われたって、どんな仕事なのか分からないんだから、立候補のしようがねえよ」

「運動委員は運動に関する仕事なんだろうとなか、植物委員は植物の世話かなって想像はつくけどさあ」

「文化委員とかまったく分かんないって」


 男子の一人が言い返すと、他の者達からも同じような声が上がった。


「ニクマル先生、説明をお願いできますか」


 アスマに請われて、教室の端に座っていたニクマルが解説を始めた。


「運動委員は、外倉庫の整理や年に一度ある運動会の準備をする。文化委員は秋の収穫祭の準備、植物委員は校内の花壇や畑の管理、飼育委員は動物の世話だ」


 その他の委員についても次々説明されたが、思った以上にいろいろと生徒に管理を任せているようだ。


「じゃあ、あらためて聞くぞ。運動委員をやりたい奴」

「はえーよ!」

「説明が終わったばっかりじゃねえか、考える時間もくれよ」


 抗議の声は丸っと無視してアスマは決を取っていった。立候補は早い者勝ちである。ホズミは図書委員、ウキは飼育委員に手を挙げていた。


 また委員会によって集まる頻度が違ってくるらしい。ニクマルの説明によると、クラス委員はその中でも活動の幅が広く、毎日仕事があるそうだ。ちなみに今日はこの後、授業の時間割を書き出して教室内に貼り出すよう、さっそく言い渡された。


「これからがんばろうね、アスマくん」

「こんな成績に関係のないことやってられるか」


 先行きに不安しかない。


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