AnotherSid×売れない男は異世界で夢を見る track.01:男は異世界で夢を続ける
「なるほどここは<ヴァルナヴァル帝国>の首都の外れって事か」
「はい、私はすぐにでもこの国を出なければならなくて…」
商業ギルドを出てサックの案内で訪れた酒場は賑やかだ、鍔騎の印象は中世ヨーロッパを近代的にしたという印象だった。
温すぎてまずい灰汁と苦みが強すぎる上に水で薄めているか割っているのか、はっきりって不味いビールもどきを飲み、生臭の残る味の薄い肉串と固い黒パンにすっぱいザワークラフトというのだろうかそれと申し訳ない程度の塩が振られた茹でた芋は固いしゴリゴリ言う…生ぽい…とにかく全部不味い…サックは完食しビールもどきを飲む、早食いのようだと思えば周囲の客達もそんな感じだ、どうみても未成年だがこの国は水と酒は同じような価格らしい上、酒を飲む年齢制限もない上、子どもでも働かされる上、至る国で戦争が起きているとの事だった。
「でもあてがないんだろう?」
「はい……でも出ないといけないんです」
「……なあ、俺もその旅に連れて行ってくれないかい?」
「そんな、危険です」
「いやぁ、ここにいてもなんか危ないだろうし、自分の食い扶持はなんとかする、君の邪魔はしないから同行させて欲しい」
鍔騎の提案に慌てて首を振るサック、鍔騎のサックへの印象は死に場所を捜しに行くそんな雰囲気だった。
事情はあるのだろう、死にたがる者を止めるような高尚な人間でもない事を自身は理解している、そしてこの世界で最初に会えた多分善人であるサックとそうそうに別れればまた独りでこの世界に放り出される、なんとか彼にしがみ……いや、彼に付いて行こうと決めた。
「……頼む、俺には君が必要なんだ」
「え、あ、ちょ…」
傍からみれば少年に縋るおっさん……に焦るサック、少し静かになる周囲、分りましたと慌ててサックは鍔騎から渡された2万アロで会計を済ませ、近場の安宿に向かい話の続きはそこで行う事にした。
「私ははあてのない旅をします、ですが…夢があって」
「なんだ!教えてくれ!俺にも夢があるんだ!」
「は、はい…手製の図鑑を埋めていくと言う夢です」
「図鑑かー動物?植物?鉱石?」
「全部です、私が気になった物全部を描いて埋めていくんです」
場末の素泊まり2名で4,000アロの宿、壁が薄いく埃ぽくてお世辞にも綺麗ではないそんな2人用の2階の部屋に腰を降ろし今後の話し…夢をサックが語り鍔騎は笑顔を浮かべた。
「それはいい!余計に俺も付いて行きたくなった!俺の夢は歌!音楽を…沢山人に聴いて貰ってそれ食っていく!事だ」
「そうですか、鍔騎さんのその黒い箱は神器ですか?吟遊詩人の神器なら楽器ですよね?神殿や教会に仕えないないんですか?」
「じんぎ?いやこれはベースという楽器だよ」
「そうなんですね、神器持ちは数える程いませんし……明日の朝には馬車でこの街を出て……」
「出て?」
「どこに行けば良いかと…どこもかしこも小さな小競り合いや戦争が起きていますし、帝国を出て冒険者か傭兵にでもなろうか思っていて」
「なるほど…俺は戦うというのは出来ないし、比較的争いが少なく冒険者になれそうな場所…傭兵よりかは冒険者の方が良いと思う、サック、君は温かい所が好きか?寒い所が好きか?」
「温かい方が…」
「じゃ、南はどうだ?明日南の地方の事を教えてくれ」
「…分かりました、鍔騎さん…私は……実は…」
「いや、いいんだ。訊かないさ、誰にでも言い難い事はあるだろう?」
「はい…」
鍔騎はサックを見て笑顔を浮かべる、南に向かい金を稼ぐ為に冒険者になるという事は決まり、明日は馬車に乗って出る、まずはそれだけ決まったのだ、固くて薄いベッドに横になり2名は取り留めのない話しをしてゆっくりと眠りに就いた…。
「ガブリエル=カサブランカ!貴様を追放処分とする!」
「へーへー承知しましたー」
真夜中の野営地で薄汚れた少年を怒鳴り散らす腹が出た上官は顔を茹でタコのように真っ赤にし唾を飛ばす、とにかく周囲は巻き込まれない様に距離を置いた。
「敵を殺そうとした同胞の邪魔をしたと報告があった、これで何度目だ!」
「さあ?覚えてませーん、んな事」
「このぉ!いますぐ出て行け!貴様への今回の褒賞はない!荷物を纏めて出て行け!」
その褒賞を目の前の腹が出た上官やそいつらが横取りするのだろう、その敵と言うのは敵国の民だ兵ではない、そんな彼らを嬲ろうとした奴らの邪魔をしただけだ、上官の後ろでヘラヘラと笑い蔑んでいるのはガブリエルを目の敵にしている奴らであり、ガブリエルが邪魔した同胞とは言いたくない連中だった。
国家法で一応無抵抗な敵国の民に無体な事はしてならないとある、そんな物はあるだけで何の意味もない、戦場の中には慈悲等ありはしない、ガブリエルが手柄でも立てて首都に戻られると困るから体の良い厄介払いだろう、戦場のどんな振りな場所でもガブリエルは必ず還ってくる、付いた2つ名は《帰還の鷹》……厭だ…家族もいないし戦場を追い出されても痛くも痒くも無い、ガブリエルはそのまま踵を返して野営地を去っていく、自分の荷物等も無い支給品だけしかないだから身1つで戦場を出る事が出来る。
「あいつは死んだ事にしろ!中枢には戻さん!」
怒り心頭の上官と笑う兵士の少年達…この戦場の柱ともいうべき兵を、自分達の不祥事がバレない様にする為に追い出した…果たして無事に彼らは戦場から帰還出来るのだろうか……。
「あー冒険者でもすっか、この戦乱なら紛れ込めるしなーま、海の方に行くか…」
See you next…




