あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid〜種撒く少年の遥かな旅〜
「四島君、また教科書忘れたの?」
「……」
「黙ってたら分からないわ」
クラスメイトのクスクスとした声、教師の困った声、俯いた生徒、怖い…学校も同級生も先生も…嫌だ…。
「四島君?」
「せんせー授業はじまるよー」
「そうね、四島君お家の方に連絡しますよ。忘れ物が多いわ、宿題も…」
「……」
隠されているし、破かれたりしている、それを見て見ぬ振りをしている若い教師、クラスメイトがいじめで教科書やせっかくやった宿題もプリントを破かれたり……背後で見下し嘲笑うクラスメイト達、教師は肩を竦めいる。
「長野君に教科書を見せて貰ってね、席に着いて。授業を始めます」
「……はぃ」
小さな声で返事をする、後ろの席の隣の長野は勿論教科書等見せてくれない、席に座り俯く。
ノートを出さなきゃと思い机の中に手を入れると、ピリ…と指に奔る痛みに確認すると両指が切れて血が流れていた。
「……」
周囲のクラスメイトの笑い声、机の中には剥き出しの刃物が仕込まれているのだろう……この日自分の指から流れる血を見て四頭 万理の何かの糸がぷつりと切れてしまった。
教師の授業の声、クラスメイト達の嘲笑する視線とひそひそ声、徐に真後ろのロッカーに手を伸ばしランドセルを持って教室を飛び出した。
ばくばくする心臓を無視して急いで下駄箱に向かい靴を履き替えて、誰もいない校庭を横目に閉まっている校門をよじ登ってとにかく走った、指が痛いランドセルにも血が付いている、とにかく走って家にも帰りたくない、怒られるしきっといじめを受けている事を知ったら相手の親に金を要求する上に、自分達が殴ったり蹴ったりしたケガもクラスメイトがやった事にするだろう…それも嫌だった。
だから走る…そうして足元に穴が空き吸い込まれてしまった…。
宇宙の様な空間を滑るように落ちて行く、びっくりしすぎて声も出ない、何が起こっているんだろう…そう思っていると光が差した先、宇宙空間を抜けて白い場所へと出た。
「ようこそ、初めまして…私は《アツェナート》の神……」
柔らかい地面に着地すれば目の前にとても綺麗な、男性か女性か分からない綺麗な服を着た人物がこちらを見て驚いていた。
「これは……」
「……」
「……すみません、申し訳ありません。お話をさせて頂いてもいいでしょうか?私は《アツェナート》の神です」
「……はぃ…」
少し考えてからその人物は謝罪し椅子に座るように促す、そのテーブルの先には地球儀に似た巨大な球体が置かれていた。
「私はある目的の為に異世界人を召喚する事にしました…貴方の様な幼い子が来るとは…」
「……」
「すみません、怒っている訳ではないのです。長年に渡り召喚の魔法を構築し完成したので、貴方をいますぐ元の世界に帰せないのです。目的を達成した暁には特典を渡し元の世界に来た時と同じ時間軸で戻れる所まで設定したのです…」
「……ぃぃです」
「はい?」
「帰れなくてもいいです…」
「………」
《アツェナート》の神は幼過ぎる小さな少年になんとか分り易く状況を説明しようとする、泣かれたりしたら面倒だとも思いながら先ずは目的を達成しない限りは元の世界、日本には帰れない事を言えば小さな声で帰れなくても良いと言う少年、《アツェナート》の神は少し悩みそして決断を下す。
「そうですか、分りました。貴方に使命を託したい、このまま此処にいて貰っても構いませんが…召喚魔法の再構築に数百年掛かります、《アツェナート》は日々発展していますから」
「……やる…」
「1度始めてしまえば降りる事はできません」
「はぃ…」
「……では、説明と貴方のステータスを見て行きましょう」
「はぃ」
《アツェナート》の神は悩みながらも、この小さな少年に計画を託す事にした…。
「私が始めようとしているのは《種を蒔く》という事です、種を人々に託し蒔いて育てて貰う事です。《アツェナート》の民は勤勉に世界の発展に努め、運命は豊かになりましたが自然が擦り減った為調和を保つ為に、祈りや願い感情を糧に育つ種を貴方に蒔いて貰いたい。何故異界人にそれを託すのか、この計画は数百年に渡る計画を1人に託す為です、私が用意した列車の管理者責任者マスターとして《ツェナ》を走らせる者達と共に遙かな計画を遂行する為に異界人を呼び肉体の時を止め種を蒔いて貰う事が使命です」
「はい…」
不安げに万理がズボンの裾を握る、やると言ったんだ、難しい事だとしてもやらないと神様は困ってしまうし、日本に帰りたいとも思わない。
「勿論、使命が終われば幸運、健康、長寿、富を授け元の世界へ……いえ、それは使命が終わった際の貴方に尋ねます」
「はい」
「始りの駅から世界を一周し始まりの駅に戻ってくるのに数百年を有します、線路は《ツェナ》が造りますが駅は構築するのに数日掛かります、その間貴方は列車を降り人々に種を蒔き彼らは種を植え育てます。様々な植物へと種は変わります。悪い心感情を持つ者が植えれば毒性のある植物に変化しますがそれもまた《アツェナート》を育むでしょう」
その為に本来は20代の交渉術や人の悪意を感じ取り上手く事を運ぶ大人を喚ぶつもりだったが、彼に託す事にしたのだ、種を託す者は万理に全て一任する。
「貴方の身の安全快適な空間は責任を持って提供します、では次にステータスの確認をします。ステータスオープンと口にしてください」
「…ステータスオープン?」
《アツェナート》の神は万理にステータスを出す様に伝え、目の前に表示されるステータスに万理は首を傾げ神はそのステータスに驚いた。
四頭 万理 : 不老不死 肉体年齢 9歳 (※現在表示・使用不可有り)
所持魔法
水魔法 土魔法 緑魔法 石魔法 浄化魔法 破壊魔法 消失魔法 再生魔法(生物不可)
自爆魔法(発動後自己修復)
スキル
状態異常無効 無限収納(時間停止×生物可) ステータス隠蔽 身体強化 自己修復
固有スキル
現在非表示
所持金
0(円orロギ)
善行ポイント
10,000pt(現在使用不可)
「一体何を考えているのか…貴方が本来召喚される筈の世界を調べます、それと危険な魔法は使用できない様にします。これらの魔法は危険過ぎます」
「はぃ」
こんな幼い子供が持つ魔法ではない物が幾つもある、それに既に不老不死…。
「貴方は使命を終わっても不老不死、つまりは永遠に老いる事もありませんし死ぬ事もありません、これに関してはこちらでも調べます、魔法はイメージが肝心です、発動する場合はイメージして使ってみて下さい。貴方が魔法を使う時が来ないよう、安全を保証するつもりです、何か危険が迫った時は部下や私に助けを求めてください」
「わかりました…」
「では、私からは授ける物を、その容れ物を開けて下さい」
そう言われて地面に置かれたボロボロのランドセルを開け、神が指を指す入っていた教科書や筆箱が呑み込まれ暗い闇が覗く。
「その中は時間停止無限収納です、貴方の収納空間を使っても構いませんが周囲が驚くでしょう、中に手を入れて欲しい物を思いながら出して下さい、その中に種が入った小袋が無限に入っています。それと資金として100万ロギ入っています、自由に使って下さい。足りなくなった場合は部下と相談をするように。それとこれはマスター証です、肌身離さず身に着けているように」
「はぃ…」
白い穴を開けて首から下げられるようにした複雑な彫刻を施されたカードを受け取り、くびから下げればひんやりと冷たさが伝わる。
「では、送ります」
「ありがとうございます」
「…次に会うのは貴方が使命を終わらせ始りの駅に戻って来た時です、長い旅楽しみながら使命を遂げて下さい。見守っています、行ってらっしゃい」
「いってきます」
ランドセルを背負い万理が深く頭を下げる、神は彼を地上へと転移させる、彼の遙かな旅は今始まった…。
着いた先は人の海、その先にどうやら《ツェナ》が在るらしい、全く姿形も見えない兎に角前に行かないと、ランドセルを前にし小さな声で進もうとするが中々周囲は万理に気付かない。
「30分後に《ツェナ》は発車します、幸運なお客様はお早めに乗車ください」
先で車掌の声が聞こえる、万理が慌ててしまうそう思っていれば大きな温かい手が万理の手を引いて列車の前まで連れて行ってくれた。
「すごい…」
「列車見れて良かったですね」
「あ…のります」
「そうですか、貴方も幸運なお客様ですね。私もですアドシェッド・ヴァイカルです。小さな商会を営んでいる商人です」
「四頭 万理です」
「万里さんですか、互いに良い旅を」
「チケットを拝見します、中の案内に従いお進みください」
青灰色の長い髪を束ねた紫紺の瞳のスーツ姿の端整な青年がニコリと微笑み先に懐から黒いカードを出して《ツェナ》に乗り込む、万理は《ツェナ》の銀色の長い車体嵌め込まれた窓からは乗客達のワクワクした表情が伺える、万理は首から下げたカードを大きな制服を纏った2足歩行のバリトンボイスの熊の車掌に見せる。
「お待ちしておりました、どうぞ中へ」
チケットを確認し恭しく頭を下げる車掌、ぺこりと頭を下げて万理は奥へと進むと制服を着た2足歩行の全く同じ顔のウサギの従業員に案内され先頭車両へ向かうと動物の従業員と人の従業員に熱い歓迎を受けた。
『ようこそマスター《ツェナ》へ!』
「ぁ…ぇと…」
先頭車両はふかふかの緋色の絨毯にゆったりとした座席がいくつか用意され、正面の壁の先が運転室、その両脇には扉があり余りの贅沢な造りと従業員達からの歓迎に委縮してします。
「ようこそ、マスター私がこの《ツェナ》の運転手の1人、デビンと申します。もう間もなく列車は発車致します、お好きな席でお寛ぎ下さい、茶とケーキをお持ちしましょう。出発後部屋の案内等致します、次の駅は8時間後に到着予定です、お休みになるのも使命を果たすのもマスターの自由でございます」
「はい、よろしくおねがいします」
従業員達の奥から現れたの白い制服にクリーム色のセキセイインコの様な運転手のデビンが丁寧な動作で頭を下げ、この後の予定を教えてくれ、万理は1番前の左の端の席に座り隣にランドセルを置けば、すぐさまワゴンが運ばれてくる。
「私はパーサーのセフと申します、お飲み物とケーキをお持ちしました、ミルク、紅茶、ジュースがありますがどれにしますか?」
「ミルク…」
「承知しました、温かいのと冷たいのどちらが良いですか?本日のケーキは木の実のケーキでございます」
「あたたかいの、ありがとうございます」
ワゴンに載せたポットから温かいミルクをマグカップに並々注ぎ、宙に浮かぶ板に乗せてホイップクリームを添えたケーキとフォークも置いてくれる。
「おいしい」
「ごゆっくりお過ごしください、お代わりはそこのベルで及び下さい」
「はぃ」
そう言って壁に掛けられた呼び鈴を兎のセフが示し、万理は頷いた。
窓の外は《ツェナ》を見送る大勢の人々、おやつを食べたら列車の案内を受けて種を受け取ってくれる人達を捜そうと決める。
『只今より《ツェナ》が発車致します』
ゆっくりと座り心地の良い椅子が揺れ、デビンのアナウンスと共に万理は遙かな旅へと出る、不安と緊張とほんの少しのドキドキとワクワクが万理の心を締めた…。
またね…四頭 万理でした…
to be continued…




