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あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~  作者: 深楽朱夜
あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid

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あなたは異世界に行ったら何をします?~社畜の夢はパン屋さん〜

小さい頃からパン屋になりたかった…でも今は…。

「加倉井くん!頼んだ仕事はどうなっているんだ」

「すみません、部長…後1時間で出せます」

「全く!仕事の期限も守れないとは、君を信頼して任せているんだ!とにかくすぐ出してくれ」

「分かりました…」

デスクで怒鳴る禿げた腹の出た中年に怒鳴り散らされる加倉井(かくらい) (ほたる)33歳、彼は目の下に浮べた濃い隈が印象的な暗い男性だった。

部長という役職の上司に朝に押し付けられた本来なら今日中に終わるか終わらないかの仕事がまだなのかと苛立つ部長の顔は茹で上がっていた、周囲は気の毒そうな気配を出しつつ巻き込まれたら不味いと自信の仕事を片付けていく。

仕事は減らない、増え続ける、片付ける、出す、無駄にダメ出しを喰らい、どうでも良い箇所を直し書類を出す…そうして…今日も定時で帰れない、いつもの事だと諦めとにかく部長が気に入る様に仕事を片付けて行く他なかった…。


終電間際の電車に乗り込み疲れた身体で電車の座席に座る、明日も仕事だ…疲れる…どうせ明日も無茶な仕事を押し付けられ理不尽に怒鳴られる、はあと溜息を吐いて車内を見渡せば同じように疲れているサラリーマン達、皆同じかと最寄りの駅に着き重い足を動かし降りた。


「らっしゃいやせー」

馴染の商店街のコンビニでいつも栄養ドリンクと発泡酒と最近変えた電子タバコを購入する、やる気のない派手な髪色の青年、陳列も商品も碌に出ていない店内、少し前は綺麗に整頓され補充もされていた、あの中年のコンビニ店員は辞めてしまったのかと思いながら店を出る。

「店?こんなところに?」

少し歩けば住宅街人気は無く鎮まり返っている、その道を進めばぽつんと古い2階建ての家、入口引き戸の脇には木の看板で『なんでも買い取ります 異世界の物でも…万なんでも堂』と文句の骨董品屋だろうかが置かれていた。

「こんな店あったのか…流石にもう閉まっているよな」

「いえ、この店は24時間365日営業しています。いらっしゃいませ」

「わ」

灯りが点いているとは言えもう深夜0時を過ぎているので店はやっていないだろうと通りすぎようとすると背後から声を掛けられ、驚き声を上げてしまった。

「せっかくだから入りますか?」

「え、あー」

「押し売り等はしませんよ、此処は必要な物を仕入れて売る店でもありますから」

そう言うこの店の店主らしき男は薄く嗤う、良く見れば整った容姿に丸眼鏡、黒い手袋と派手な植物柄のシャツから覗く肌には植物のタトゥーが見える年齢不詳な外見、妖しさ満点だがどうせこういう店で買える物等ないだろう、こんな時間だが入ってみる事にした。


「……この本」

中は薄暗い照明で広く奥行きがある、オーナーは営業もせずにカウンターに入り座っている、蛍は適当に眺め帰るつもりだが本の棚にあったパンの本を手に取る。

海外のパン屋とパンを撮った写真集、字は無いが店主と客の笑顔がどのページにもある、良い本だと思い買って帰ろうと、他にもパン関係の本を手に取りカウンターに行く。

「4冊で3,200円ですね。これはオマケのお茶です湯に落とせばお茶が出来ますから寝る前にどうぞ花も食べられますから」

「どうも」

店主が紙袋に本を入れてくれ、小さな小瓶に入った乾燥させた蕾をくれて蛍は頭を下げて茶はカバンに、本は抱えて店を後にした。


「やっと着いた…あれ?まだ12時30分過ぎ?」

築40年以上の鉄筋のアパートの1階の端の部屋に着いて改めて腕時計を見れば時間が然程経っていない、てっきり2時過ぎ位かと思ったが…深く考えても仕方ない寝る時間が増えたとシャワーを浴びて、電気ポットで湯沸かして貰ったお茶を飲んで寝る事にした。

「黄色…綺麗だな、香りも良い…」

マグカップに乾燥した蕾を入れて少し待つと花開く、工芸茶のような物かと香りを嗅ぐと柑橘系の爽やかな香りと鼻を抜ける花の匂いにゆっくりと飲む。

美味しい…あっという間に飲み開いた花を食べると美味しい、濡れた甘みのある花口の中で溶けてしまう。

「このお茶だけ売ってくれると良いな…」

飲み終わり片づけて寝る支度をして、目を閉じる、不眠気味で寝つきの悪い蛍だったが良く眠れた。


子どもの頃パン屋になりたかった、朝から晩までそれこそ重労働で過酷だろうけれどパンを作るのが趣味の母親の影響で夢を描いた。

高校生に上がる前に父親が病気になり母親が仕事で家を空け、蛍が舵や食事の準備をしていた。

父親は蛍が高校を卒業する前に亡くなり、専門学校に行く夢を諦め就職した、母親は謝っていたが蛍はパンは家で趣味で作るからと言い、週末に良く母親とパンを焼いた、そんな母親も身体を壊しは蛍が20代半ばに差し掛かる頃に身体に無理が祟りこの世を去った。

蛍はそれからも仕事の合間でパンの講習や教室に行き、いつか…もしかしたらいつかと貯金をし夢を描いていた。

最近は仕事から帰って眠り、休日は泥の様に眠り家事を行えば終わる日々…これでいいのか…今の疲労している蛍には分からなかった…。


                     それではまたお会いしましょう 加倉井 蛍でした。

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