あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid〜お猿の星の少年王〜
夕方5時を知らせる音楽が公園の流れていく、この音嫌いだと思いながら鉄棒で1人遊ぶ少年、影が伸びるのを眺めながら片足前掛け回りを行う、半ズボンの膝小僧に貼られたバンソーコーはやんちゃに遊ぶ元気な子どもの証拠だ。
「………」
もう公園には誰もいない、まだ夕暮れ外は明るいが大体みんな帰ってしまうか塾や習い事に向かう、家にも帰りたくない、塾も習い事もない小学4年生の少年、松榮 唯苳は公園で遊び続けた。
「かえりたくねー」
夜7時過ぎもう辺りは暗い帰りたくないと言いながらリコーダーを差した黒い古いランドセルを背負って家に向かう、巨大な夜の団地の公園かた不気味な気配を放つ団地の唯蕗の家に向かう、5階建ての古い団地の4階、昔の建物らしくエレベーターは無い、お腹がぐうぐうと鳴るが家に戻っても値引きされた菓子パンか安売りのカップ麺があればマシな方だった。
ランドセルから家の鍵を出す、周囲は夕食の良い匂いが漂う、カレーや煮物や焼き肉の匂い、唯蕗は誰もいない家に入り灯りを付ければゴミ袋が目に入りゴミが散らかる部屋のテーブルを見る。
「ばっかじゃねーの」
いつもは小銭が置かれているテーブルに今日は置き手紙ありそれを読んでくしゃくしゃに丸めてゴミに埋もれた床に放る、手紙の内容は『借金で夜逃げするから、お前はしせつに行け』と平仮名交じりの汚い文字。
「交番に行けばいいんだろ」
どうせいつかはこうなると思っていた、酒飲んでギャンブルに行き碌に金を入れない父親と夜に仕事に行って朝帰ってくる母親、負けると殴る父親もスマホばかろ弄って家事もしない母親、2人とも唯苳は大嫌いだった。
この環境から目を逸らす担任も、恵まれた環境で憐れむクラスメイトも、様子を見にくるだけ来て帰っていく役所も唯蕗は全てが嫌いだった、親がいなくなってせいせいする、交番に親に捨てられたとでも言えば保護してくれるだろう。
「はらへった」
この家に食う物なんかない、ゴミばかりしかない…。
なんとなく背負ったランドセル、もう夜も深い時間交番までもうすぐ…。
「え?え…なに!?」
交番が見えて来た所で道路に空いていた穴に気付かずガクンと身体が倒れ添うになった状態で穴に落ちていく、宇宙のような穴は唯苳を呑み込み満足したかのように消えて行った。
「なんだよ!これ!わ、わ、わ」
宇宙のよな空間を叫びながら滑り落ちていく、パニックのまま光が見えてそのまま滑り落ちた。
「なんだよ!いってーあんなとこのあななんかあって……ってここどこ?」
落ちた場所は見知らぬ森の中、空はクリーム色をしていて2つの大きな星が浮かんでいる。
「いって!夢じゃないのかよ」
夢でも見てるのかと柔らかいほっぺを思い切りつねって痛いと声を出す、周囲は木、土、草、花…だらけ日本じゃないのは分る。
「なんだ、これ、もしかしてあれかイセカイテンセイだ!クラスのヤツらが言ってたやつ!……読んだ事も見た事もないけど」
家にテレビはないし図書館も行かない、クラスメイトはいつもゲームやアニメや漫画の話しか塾や習い事の話しばかりだった。
唯蕗は外で遊んでいる方が好きだ、木登りも出来る……が小学4年生の少年出来る事やれる事は少ない。
「森だー家は帰れなくてもいいけど、ここどこだよ」
地面に胡坐を掻いた腹の音が鳴るのを無視する、いきなりこんな良く知らない世界に来ても死ぬだけだ。
「餓死で死ぬのかー」
両親から虐待されて育って来た彼には死は身近な物だ、腹が減り続ければ餓えて死ぬのだ、日本で死ぬか良く分らない場所で死ぬかだ。
そう思っているとガザガザと良く茂った草の陰から動く音、人っぽくはないから動物だろう、クマとか犬とかだったら食われて死んでしまうんだろうなーと思って見ていると出て来たのは…。
『もき?』
「サル?変ないろのサルだ!」
『もきー』
『きき』
「増えた!こっちも変ないろ!」
『ききぃ!』
2匹のサル、唯苳の腰位の高さの尾が細くて長い丸い薄いオレンジ色のサルと尾の無い薄い翠色の2頭身サル、子どもがいい加減に描いた絵を大人が修正したような生き物だった。
「サル……なんだよ、あっちいけ。食べ物なんかない、っしっし」
学校の遠足で言った動物園のサル山を思い出す、臭かったから手を振って追い払う。
オレンジサルと翠サルは顔を見合わせて、何処かへ去って行ってしまった。
「変なサル」
唯蕗はランドセルを枕に地面に寝ころぶ、どうでもいいやとふて寝する事にしたがまたガサガサ音がするから振り向くとオレンジサルと翠サルが小さな両手に果物と木の実を持ち葉っぱを敷いて唯苳の前に置く。
『もき』
『きぃ』
「なに?くれんの?」
『もき!』
『きき』
「……なにいってるかわかんねーでもありがと」
果物はサクランボのような桜色の茎が吐いた物と木の実は殻が割れて中の白い実が見えている、サクランボの様な果物を食べると少しの酸味と甘みで美味しい。
「うま!こんなの初めて食った!」
『もきき』
『ききき』
サルたちは唯苳が美味しいと言えば嬉しそうに身体を跳ねている、木の実も殻を取って食べるとほのかな塩味と甘みで美味しかった。
「うま、えと…ありがと」
『もき』
『きき』
食べ終わって礼を言うと、オレンジサルが唯苳の手を引き何処かへ案内してくれようとしている、翠サルはランドセルを持って行こうと誘っている。
「どっか連れて行ってくれんの?」
『もき』
『ききき』
「いってもいいけど」
果物と木の実くれたしと草を掻き分けてオレンジサルの手に引かれるがまま行くと細く長い川が流れていて、オレンジサルと翠サルが川に顔を突っ込んで水をゴクゴクと飲んでいるので唯苳も真似をして手で川の水を掬ってゴクゴクと飲むと冷えていて美味しい。
「つめた」
翠のサルが素手で魚を掴まえて落ちている木の棒を拾って魚の口に刺して仕留める、鮮やかな手つきに唯苳は素直に拍手する、オレンジサルも首を傾げて手を叩いてまた手を引かれて奥へと進んだ…。
「すげ、サルがいっぱいいる」
そうして進んだ先には、サルの集落、色とりどりの様々な大きさのサルがいた。
『もききき』
『きーき』
オレンジサルと翠サルが鳴くとサル達が一斉にやって来て唯苳を囲む、唯苳はなんだよと言いながらも1番大きなサルで唯苳と同じ位の大きさなので特に怖いとも思わない。
よくみると長い葉と棒と蔦を使ってテントのような家のような物がいくつもある、サル達の家なのだろう、他のサル達も唯苳に果物や木の実を渡してくれる、歓迎してくれているようだ。
『うき……』
そのサル達の中で白い毛の痩せたサル、腰が曲がっていてどうやら年寄りのサルが唯苳の元へよたよた他のサルに支えらえて来る。
「おじいちゃん?おばあちゃんのサルか?大丈夫かよ」
『……うき…』
唯苳を上から下まで見て頭を下げてサル達に支えられ何処かへ行ってしまう、唯苳は首を傾げたがサル達はぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「へんなの」
翠のサルが跳ねて先程獲った魚を唯苳に渡す、オレンジサルと翠サルは鋭い歯でばりばりと魚を食べていく。
「このまま食えない、焼きたい、火ねぇの?」
魚は好きだし食べたい、けれどこのまま食えないから火が欲しいと言うと周囲のサル達は首を傾げ、唯苳はランドセルから社会科の教科書を出して、原始人が焚火をしている絵を見せた。
「これ、これで焼きたい」
一斉にサル達が群がりイラストを真剣に見つめる、皆が枝を集めてイラストの様にし赤い色のサルが指を枝に向ければ火が点いた。
「すげ!これ魔法じゃん!」
『ぎぎ』
「すっげーこれで焼けばいいじゃん」
唯苳が焚火の側に魚を刺した木の枝を差す、それを見た翠サルが他のサルも連れて何処かへ行く。
焚火を興味深く見ているサル、怯えてい家に戻るサルと様々だった。
翠サル達が大量に魚を枝に刺して戻って来て焚火の側で刺していく、他にも焚火を作って魚を焼いていった。
「塩とかないけど食べよ」
良い感じに焼けたので食べてみる……焼いた味のない魚という感想、内臓もとってないから腹を食べて苦い所にあたって吐き出した。
「にが……食べる?」
『まき?』
「いいよ、やる」
隣で指を咥えていた薄い紫色のサルに渡すと、嬉しそうにバリバリと内臓も骨も食べて満足そうにしていた。
「風呂とかないもんなーいいや」
サル達は焼いた魚に夢中で食べている、もう疲れたし寝たいなーと思っていると薄紫のサルが葉っぱの家の1つを指して唯苳を連れて行ってくれる。
「なんかひろい、ねていい?」
『まっき!』
「わかんねーけどありがと」
中は広くて涼しい、葉の毛布?もあり唯苳はランドセルを置いて寝る事にした。
本当に夢で目が覚めたら日本のあのゴミの家かもしれない、それはやだなここで良いと思いながらすぅと眠りに就いた…。
……なんかここに来た松榮 唯苳…またね、『もき!』『きき!』……
『うきー…うき?……うきぃ…』
see you……