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あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~  作者: 深楽朱夜
あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid
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あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid~絶望するには十分な世界にて~

「きょうすけーおかえりー」

「きょう~おかえり~」

『わふ!』

「ただいま!ミツキ!ナズナ!ラッキー!粘土と草と木の実拾って来たからたべよう」

ボロい丸太小屋に草で編んだ篭の中に草や木の実、片手には泥の塊を持って男は痩せた子ども達と痩せた小柄な犬が駆け寄ってくるのをしゃがんで胸で受け止めた。

10歳位少年と5歳位の少年、薄汚れた茶色い犬が彼のこの世界での自分の命よりも尊い家族だった。

「さ、準備するからミツキは木の実の殻を割って、草をナズナは洗って」

「はい!」

「はーい」

外で水魔法で木桶に水を入れ、ミツキは小石で平らな岩に置いた木の実の殻を小石で叩きナズナは草を洗って、犬のラッキーはその周辺をふんふん守っているつもりなのか動き回っている。

「魔法があって良かった、どうせなアイテムボックスとか生活魔法とか金が稼げるスキルとかあればよかったんだけどなー」

男はそうぼやきながらいつも焚火を行う石を囲っている場所で火魔法で火を熾し、1つしかない鍋を鉄の棒に吊るし水を入れて草と干し肉を煮て行く。

「卵とか牛乳とか…ミツキ達の成長に必要なのに…村にも行商人そんな物はないし街に行けば若い男は問答無用で徴兵、身寄りのない子どもは孤児院という名の国を挙げての人身売買組織で売られてしまう…」

だからこうして自給自足の生活を丘の上の朽ち掛けの小屋で送っている。

男…彼の名は茉理(まつり) 響丞(きょうすけ)ある日突然、この異世界に来た日本人だった…。


今を遡る事1年前…

「いやあ、呑んだ呑んだ…先輩に吞まされたよー」

会社の飲み会の帰り千鳥足で家に向かう響丞、スーツにビジネスカバン…至って有り触れた中小企業勤めの彼は酒豪の先輩に付き合い大量に酒を飲み、家に帰る途中で…何時の間にか異世界に来てしまっていた。

「え、ええ、え…どこここ」

何かを擦り抜けた様な落ちた様な感覚があったが良く分らない、目の前の光景で酔いが一気に覚めてしまいそして誰かとぶつかる。

「あ、すみま……ドロボー!!!」

ぶつかって来た大柄な男にカバンを奪われ、追いかける誰も見向きもしてくれないし助けようともしてくれない、元陸上部のインターハイ出場の経験の響丞の脚力で泥棒を追う、周囲の景色を見ている暇はないと焦って追い角を泥棒が曲がった所で響丞も曲がるが急に目の前が真っ暗になり後ろから何かで殴られ倒れてしまった。


「う……ここは…」

「だいじょうぶ?」

「?」

目をゆっくり開けると目の前には響丞を心配している子ども達2人、どちらも日本人ではないし大きい子どもはプラチナの髪に濃い赤い瞳、小さい子の方は銀色の髪に灰色と青を混ぜ込んだ瞳、殴られた頭でそうかここは日本じゃない異世界なのかと身体を起こそうとするが腕を後ろ手に縛られていた為強引に身体の反動で身体を起こす、少し先のテーブルには響丞のカバンが置かれ上着やベルト等も剝ぎ取られて置かれていた。

「これは…不味い…不味すぎる、そうだ君達は?兄弟かな?」

「売られた…兄弟じゃない」

「ん」

優し気に子ども達に尋ね情報を得ようとする、扉からはだれかいそうな気配はないテーブルにナイフがあったのでそれを手足を縛られていない大きい方の子どもに頼み取って貰う、子どもだから逃げないと踏んで縛っていないのか…縄を切ってくれるように頼めば躊躇っている、逃げるのを助ければ彼らもタダでは済まないだろう。

「ごめんね不安にさせて、君達の事もなんとか助けてみせる」

「うん」

響丞の真摯な声に子どもは覚悟を決めてナイフを取ってきてくれ、慣れない手つきで縄を切ってくれ、響丞は一旦ナイフをテーブルに置き、状況を確認した。

異世界に来てどうやら人攫いにあったようだ、ここは治安が相当悪い、ここにいれば間違いなく奴隷か何かで売られてしまう、おそらく殺す事に躊躇いがない場所、命が軽い世界だ。

とにかく子ども2人を連れて此処から逃げる為に必要な事を探る、部屋は窓はない出口は扉が1つ灯りは蝋燭だけ。

「ねえ、僕を連れてきた人達は何処にいるか分かる?ここにいるのは何人かな?」

「上にいる、3人だよ。夜はいつもおんなの人がいる」

「……そう」

男達は上、今は女性と一緒によろしくやっているようだなら今が出るチャンスなのかもしれない……。

タイミングを見誤れば、脱出のチャンスは無いだろう…と思考しているとどかどかと大きな足音を立てて顔を赤らんだ腹の出た薄汚い大男、響丞の荷物を奪った泥棒が片手に焼き鏝をもち扉を蹴破るように入ってくるので、後ろ手に縛られ身体を起こしている状態で、子ども達を背に庇った。

「うぃー若い男は高く売れる…もうお前の買い手は決まった、喜べそっち趣味の旦那だへへ、可愛がってもらえよーおめーみてぇなのは兵士でいっても慰み者にされるしなーへへ旦那に可愛がってもらったほうがいいだろ?なぁ」

「……」

「そうだ、これ付けないとなぁ奴隷だってな旦那は心臓の辺りがご希望だ、酒で手元は狂ったら…わりぃなぁ」

下卑た男のいやらしい顔、片手には熱した焼き鏝…これをどう回避するか……。

「逃げようとしてんのかぁ?おめーみたいな顔なんべんも見て来たぞーこれやったらどいつもこいつも大人しくなる」

「……」

「へへ」

大男が迫ってくる、テーブルの上にあるナイフに視線を向けぎりぎりまで大男が迫って来た所で勢いよく走り大男が「おお」と声を上げている先にナイフを持ち……男の足の甲を刺し苦しむ男を避けカバンと上着を回収し小さい子を抱え、大きい子どもに走るように言い扉の外へと出る。

「にげたぞおおおおお!!!!!くそおおお!いてぇ!!」

大男が叫び上からドタドタ降りてくる音、とにかく逃げるしかないと出口を捜せば大きな子どもがあっちと教えてくれ向かえば先回りして来た男達2名に先回りされ、後ろも大男が足を引きずってくる。

「しかたねぇ、値は落ちるが足の健をきっちまえ!!!!」

「なっ!どうにか……どうにか…異世界に来たんだったら特典!魔法!とにかく魔法!」

足の健なんか切られてしまったらもうお終いだ、前を阻む男達は剣やナイフを装備している、ヤケクソ

に叫ぶとごおと風と共に炎が男達に向かって行った。

「うぎゃああああ!!!」

「あ、あつい水!」

「な、魔法使いか!?」

焼かれた男達を見て大男がたじろぐ、人が焼ける匂いがしないそういう魔法なのかと冷静に響丞は大男の方を見て一芝居打つ事にした。

「そうだ!」

「ひぃぃ、お許しを!!どうか!魔法使い様とは知らず」

大男が顔を青褪め平伏する、目の前で仲間達が事切れているのにも関わらずガタガタ身体を震わせているので、響丞は人を殺した事よりもこの後の事を考えなければならないと冷静に考える。

「許さない、ああなりたくなかったら金を出せ」

「はいぃぃいぃ!」

大男が懐の革袋を震える手で差し出す、剣やナイフをも奪い子ども達の手を引き建物を後にした…。


それから約1年…早かった、この世界は魔法使いはかなり重要というか体の良い使い倒しの消耗品、戦争に有利に運ぶ駒程度だが一般市民よりかは位と価値が高いとされ響丞はその魔法をなんとか使いこなせるようにし、町や村を転々とし今はこうして小屋に隠れて住む様に生活をしていた。

大きな子どもと小さな子供には名前が無く、焼き印がそれぞれ腕にされていてそれを見た時響丞は泣いた…この子達の父親になろうと名前をミツキとナズナと付けて今では2人はは笑顔の可愛らしい子どもとして響丞の大切な家族として共に過ごしている。

旅の途中で1匹で彷徨っていた痩せた小さな犬と出逢い、ミツキとナズナが一緒に連れていくと言うので響丞がラッキーと名付け家族の一員として過ごしていた。


「不便だなぁ…今更だけどね」

葉っぱと干し肉のスープに木の実の殻を割って煎った物と、香りの良い木の葉のお茶それでも美味しいというミツキ達、ラッキーには柔らかくした干し肉と茹でた葉……。

貧しいが訪れた町や村は皆そんな様な物だ、あくどい商売や貴族連中以外は皆痩せ細っているから家族を売ったりして僅かな金で生活したり、傭兵や兵士や冒険者になる、冒険者に響丞はなりたがったがなるにも金が必要で鑑定を受ける必要があり、魔法使いと分ると問答無用で国の保護(徴兵)されると言うので諦めた。

粘土が豊富に採れるので皿やコップや生活用品を作ったり森で収穫した物を村に降り僅かな金で売り、村で物々交換や買い物をする日々、日本の知識でなんとかと思うが…物が無さ過ぎる…皆その日暮らしだ。

「はぁ……育ち盛りなのに…ごめん、みんな」

藁を敷いた寝床の上で眠るミツキ達を眺め泣きそうになる、良い子達だラッキーも家族だからお腹一杯食べて欲しい…。

日本にいた頃、家族は幼い頃に事故で亡くし親戚中をたらい回しされて辛い思いをした記憶がある、ミツキもナズナはもっと辛いだろう、聞けば2人とも家族に口減らしで売られて故郷の場所も分からないらしい、このまま響丞と一緒に生きていきたいと言う2人の父親として生きて行こうと決めて1年だ。

ミツキ達の腕から覗く焼き印は小さくて細い身体に痛々しい、消してやりたいがどうする事も出来ない、回復魔法なんて都合の良い物はない、薬は高く市民は買う事など出来ない。

「皿や雑貨の他に粘土で売れそうな物を作っていかなきゃ…」

大して器用でもないし料理も独り暮らしで碌にした事など無い、なんとか浅い知識でなんとか生きている、神がいるならば恨み事を叫びたいと同時に彼らに会わせてくれてありがとうと礼が言いたい、どん底にも等しい生活だが確かに幸せなのだ…。


「良かった今日は粘土とミカンみたいな果物も獲れた…」

朝、いつも採取は響丞が行いミツキ達には留守番をして貰っている危ないが森も危険だ、この辺に人は来ないそう思っていた……自分達に用がなければ…。

「ミツキ!?ナズナ!ラッキー!?」

丘の上のボロ小屋、扉が開いていたので荷物を放り走り出す、決して響丞以外が来ても開けるなと伝えている、約束は守る子達だ小屋の中に入れば……響丞は絶望しか出来ない状況が目の前に広がっていた。

「ミツキ!ナズナ!?しっか……」

狭い小屋荒らされ物が散らばりその中の血の海の中に倒れていた、ミツキとナズナとラッキー、ミツキがナズナを庇う様に抱えていたミツキの腕は…事切れた後もしっかりナズナを抱え、ラッキーは口から血の泡を吹いていた。

ミツキとナズナは剣か何かで斬り殺され、ラッキーは蹴りか踏まれたしたのだろう、いや、そんな事はどうでもいい、どうして殺されたのか殺される必要があったのか…。

「こいつが魔法使いか?」

「ええ、そうですよ」

「あんたは…」

「へへ、どうもどうも」

「どうしてこの子達を?」

「ああん、魔法使いを売れば100万セロだ!こいつが魔法使いがいるっていうからこんな場所まで来たんだよ」

「ガキもうりゃ金になるんだが、暴れるからやっちまった」

「犬のうるせーしよぉ」

「さっさとコイツの口封じて連れてくぞ」

盗賊のような出で立ちの薄汚れた男達がにやにやぞろぞろと小屋の周辺から現れ、その後ろにへらへらした顔の村の馴染の行商人が現れた、100万セロは1家族が1年遊んで暮らせる額、国も必死だ、人権など無いんだ。

行商人が響丞を魔法使いだと情報を売ったんだろう、それもどうでも良いこいつらは今油断している、この世界の魔法使いは魔法を使うのに詠唱と杖がいる、だから口を塞いで響丞を連れて行こう近づいてくる男達、ミツキ達を両腕に抱え涙を流す響丞は一言口を開いた。

「燃えろ」

『ぎゃあああああああ!!!!!』

「な、なぜだぁぁあぁあ!!!!」

盗賊共が一斉に燃え、行商人絶叫しながら燃えていく、ミツキ達を生きて人質にしておけば響丞は抵抗しなかっただろう、小屋も燃えていく欠片1つ残さず、何も残さない、価値もない…。

「ごめん…ごめんなさい!僕と出逢わなければこんな事にならなかったのに!どうしてどうしてぇ!」

響丞の慟哭が灰色の空に響き渡る、3名の遺体を腕に地面に膝を着いて身体を丸めて泣き続けた、細くて軽くて小さい3名、こんなにも軽い…これが彼らの命の重み…軽い軽すぎた…。


いつまでそうしていたのだろう、背後の小屋と盗賊達はとうに灰になり風に流され焼け跡しか残されていない、ミツキ達の身体は冷たく血も固まっていた、もうこのまま死んでもいい。

「僕も逝くよ」

「そりゃできねーな、おにーさん」

「誰?」

「通りすがりの異界人」

「日本人…?」

頭上に聞こえる軽い声に響丞は顔を上げる、そこには1年前まで馴染のあった革靴に安物のスーツに派手なシャツ、サングラスの堅気には見えない若い男が立っていた。

「ま、元日本人。いやー良い絶望を感じて来たらいいねぇ!おにーさん良い感じに絶望してんじゃん最高!」

「何が最高だ!子どもが死んでいるんだ!」

「そりゃ、死ぬっしょ。こんな地獄みたいな世界じゃあっさり死ぬ死ぬ」

「そうだよ…こんな世界と僕のせいで死んだんだ…」

「蘇生出来るけどどーする?」

「は?」

「出来るよん、やったげようか?ちょーと俺の頼み聞いてくれれば」

「……それは本当にミツキ達なの?蘇生させたら同じ魂なの?」

「ん?ああ、そうねー間違いなく同じ人間なんだけど、ま、そりゃ疑うよねー蘇生よか面倒だけど時間逆行する?」

「過去に戻るって事が出来る?」

「まあ、俺しか戻れないからー殺される時に戻って助ければいいっしょ」

「ほ、本当に!?」

「出来る出来る」

「な、なんでもするよ!だから助けて!」

「おけおけおけよん、そんじゃ……あーらら神様からメッセージ来ちゃったー『死者蘇生も時間逆行も認めない』ってーどうしよっか」

「神様?神?神なんかいるの世界」

「いるねぇ、《アルドノルバ》の神様」

「……どうして許してくれない?どうして?平和に暮らしたいだけなのに…」

「そりゃ、禁術だしーそうだ、神様殺しに行く?殺せば逆行し放題」

「コロス」

「おけ、んじゃ《神の庭》へレッツゴーあ、俺、柳生(やぎゅう) 鷹耶(たかや)

「僕は茉理 響丞」

柳生 鷹耶と名乗る男が背中から白い翼を1枚出し、響丞は3名を抱えたまま景色が揺らいだ。


着いた先は白い空間、大きな地球儀の様な球体がゆっくりと自転し丸い1人用のテーブルと椅子、椅子には髪が床まで届く白い男がこちらに背を向け座っていた。

「どうもー神様ー殺しに来ましたー」

「……どうして僕はこの世界に来たんですか?」

「お前が来たのは私の世界に羽虫が紛れ込んだ程度、些末な事だ。そして神を殺す事など不可能と言いたい所だがお前はそれが出来る……か…私の世界に羽虫共が集ってくる不愉快という気分を味わっているこういう物か、そしてその汚物までここに持ち込み無礼」

鷹耶がへらりと手を振り、響丞はどうしてこの世界に自分が来たのかと訊ねればそんな回答が返ってくる上にミツキ達の亡骸を汚物扱いし響丞は怒り狂えなかった、平静と冷静が怒りを呑み込んでいった。

「ね、ねえ、僕は…どうしてずっと冷静でいるの?おかしいんだ悲しくて辛くて怒りが込み上げてくるのに…」

「ん?そりゃおにーさんのスキルに並列思考があるからじゃん」

「え?」

「ああ、異世界転移特典てやーつ、スキルやら魔法やら、不老不死とかモリモリ」

「え…何それ…異世界だからステータスとか見たかったけど出なかった」

「《神の庭》を通過若しくは正規の召喚をされていないからだ、失せよ」

「いやいや、殺すってマジぶっ殺だってーね、おにーさん」

日本で得たファンタジー知識(?)を最初の頃駆使して、色々やってみた物の出来たのは水魔法と火魔法のみ、《アルドノルバ》の神も教えてくれるが鷹耶は殺す気満々だった。

「待って、不老不死ってこの子達が大きくなってお嫁さんとか連れてきて子どもが出来ても僕はそのままって事?」

「そ、このまま。スキルとかで側だけなら進めたり戻ったり出来るからいいじゃん」

「よくないよ!……って怒ったり驚いたりしても冷静になってしまう…」

「ま、そんなんはこいつ倒した後に考えればいいじゃん」

「……倒すと言うのならば受けて立つ、死者蘇生または時間逆行は認めない」

「僕役に立たないよ」

「問題なし、俺がやるから、頑張っちゃいますか」

そうして響丞が困惑したまま神が立ち上がり、鷹耶が剣を出し翼を幾重も出して神対鷹耶の戦いが始まった…。


「かたーいつよ」

「ええ…」

「神殺し…異界の神は我より弱かったという訳か」

「それはどうかな」

神の攻撃を翼で全て防ぐ、鷹耶の攻撃は複数の剣を操り隙間なく仕掛けていく物だが全て眼前で結界が剣を阻む、響丞はオロオロとしている。

「ね、鷹耶!僕の魔法とかスキルで役に立ちそうな物はない!?」

「えーと、あるのはスキルが並列思考と危機察知、魔法は火、水魔法で不老不死てとこー後は読めない」

「そんな、大したことない……のかな?」

「羽虫だと言っている、この《神の庭》に来た事が奇蹟。貴様を退けそこの異界人には戻って貰う」

「なら、どうしてあんな地獄のような場所に!」

「私は神たる管理者、人による地獄など些末過ぎる。人は有象無象の虫無限に湧き出る物」

「なっ!よくも!」

「あーめんど、ちょいたんま、ボス呼ぶわ。もしもーしボス、オレオレ、ちょっと来てー疲れたーんじゃ、頼みます。今からボス来るからボスとやって」

「……」

「ええ…」

イマイチやる気の出ない鷹耶、防御と防御、互いに得意な物が同じというのは相性が悪い、鷹耶は早々にスマートフォンで誰かに通話を掛けて少し待つ事にする、神も険しい顔をして助っ人が来るのを待った…。


「すみません、遅くなりました」

「おそーいボス、じゃ、ちゃちゃっとやっちゃってー」

「次元を超え此処迄来るか…神か…悪魔か…魔王か」

「通りすがりの只の日本人です」

《神の庭》の次元が裂けて現れたのは20歳程の、気の弱そうな青年、神の表情が変わる。

「初めまして不動(ふどう) (さえ)と言います、鷹耶さんの代わりに貴方と戦います」

「ボスーよろー」

「はい、そちらの子達の為に早く倒します、そのままだと可哀想ですから急ぎます」

「あ…僕に出来る事はない?手を貸す…せめて一矢報いたい!この世界は残酷だ、誰も彼も虚しく命が消えていく、ほんの1握りの者達だけが恵まれている、努力なん何もしていないのに!命は平等な筈、僕は自分の欲望で願いで神を殺してこの子達ともう1度会う!」

「分かりました、茉理さんの魔法針魔法を出現させ、神を縫い留めて下さい」

「わ、分かった」

「へぇ」

穏やかな不動の声、鷹耶の面白がる声。何処までも自愛に満ちた不動の声に目を閉じ針で神を縫い留めるイメージを固め、そしてゆっくりと口を開く。

「針魔法発動」

「その魔法は防げる」

「スキル威力増大発動」

神の頭上に縫い針が幾つも出現するが、結界で弾こうとした瞬間不動のスキル発動により巨大化された針が神の全身貫きその場に縫い留められ口にも針が貫通し喋る事は出来ない。

「これ…僕が…」

「はい、では茉理さん神殺しをどうぞ」

「どうやって」

「ほい、これ、これで心臓を刺せば終わり」

ポカンとする響丞にどうぞと笑顔を浮かべる不動、鷹耶から差し出された剣を受け取り不動にミツキ達を託してそして剣を突き立てた。

「鎖魔法発動」

不動が口を開き剣と神の四肢に鎖が絡みつき、そして『《アルドノルバ》の神完全沈黙』と天から声が降る、響丞は一筋の涙を零す、何の意味の涙なのかは分からないがこれでまた会える。

「でも、時間を戻したら神もまた蘇るの?」

「いえ、ここはありとあらゆる状態異常を無効にする空間です、時間逆行しても此処に変化はありません。世界を殺すには世界殺しと神殺しを行う必要がありますが、今回行ったのは神殺しのみ、《アルドノルバ》は生き続けています。さ、時間を戻しに行きましょう、すぐに会えますよ」


「きょうすけー!」

「きょう~」

『わふ!』

「みんなみんな!ミツキ、ナズナ、ラッキー!!」

鷹耶がすぐに時間逆行で盗賊に襲われる前の時間まで戻り、響丞と不動2人でその時を待つ、ザァァア…景色が流れていくそして流れが止まったその時、いつものミツキとナズナとラッキーの声、響丞は泣きながら3名を抱き締めた。

「どうしたのー」

「?」

『わふ?』

「うん…うん…いいの…いいんだ…ありがとう…僕、何でもします。ありがとう」

「ではお願いがあります」

「そうそう、俺らの世界に来ませんかってスカウト」

「優しい世界を創りたいんです、力を貸してくれませんか?こども達も一緒に」

最初の約束通り響丞は深い感謝をし、何でもすると言えば不動と鷹耶が手を差し伸べてくる…響丞は涙を零し笑ってその手を取った。

「はい、僕にも優しい世界を創る手伝いをさせて下さい」

そうして不動の導きにより、人にとって地獄の世界は地獄のまま、神は死に世界は生き続ける、響丞達はこの世界を棄て新しい世界へと旅立った…。


    ではまたお会いしましょう、茉理 響丞でした…みなさん急な異世界転移にご用心…。


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