あなたは異世界に行ったら何をしますAnotherSid~虚ろな眼で見る世界はみにくい~
みにくいあひるの子の絵本…嫌いだったなぁ、そう呟きながら見上げる灰と血の空、ここ《アーズノース》は今世界大戦真っ只中だった。
「おい、コトー剣に付与、毒」
「………」
コトーと呼ばれ視線を向ければ馴染の顔の少年、無言で彼の持つ剣に手を触れ血に濡れた剣に
毒を付与する。
あちらこちらから聞こえる悲鳴と喧騒も聞き飽きた、所謂異世界召喚で召喚されたコトーこと古刀 夜長は付与した青年の背を見送り、次から次へとやってくる無茶な付与をしろと言う兵士達の命令に淡々と応えた。
「もっと楽にヤレル付与はねえのか!役立たず!」
「そうだ、こんなまどろっこしい付与じゃ大勢敵をころせねぇ!」
「勇者様と聖女様を見習え!ただ飯ぐらいがよ!」
「そうだ!賢者様と魔物遣い様はたった1日で国を2つ落として下さった!」
「あー、待った待った。彼はオマケ召喚なんだから絡まない絡まない」
「そうよー大したスキルもないんだしぃいじめたらかわいそー」
「これは賢者様、魔物遣い様」
「いいって堅苦しいの無し無しってば」
「そーそ、ウチらは救世主ってやつだし異世界救っちゃってるだけだしぃ」
そう言いながらやって来たのは3名の男女、内2名の男女の服装は日本の服、もう1人は男の側にピタリと寄り添う美女でこの世界の衣装に身を包んでいた。
「……」
「この辺の魔物と兵士は片付きました」
「食事にしませんか?」
「勇者様!聖女様!」
賢者と魔物遣いの男女の後ろに同じ日本人の男女が続き兵士達が羨望の眼差しを向ける、夜長の元に同じ大学の顔見知りの勇者として召喚された青年が行く。
「古刀君、悪いけれどこの剣に回復の付与を頼む。けが人が多い」
「私だけで治療は難しくて…前線に行くほどに怪我が…私の腕輪にも魔力増大を」
「ことーくんは付与しかできないしーちゃっちゃとやってよ、この子達にもぉ身体強化ぁ?っていうのー」
「俺の杖にも頼むよ、攻撃範囲を広くする付与と早く発動するやつね」
「私の宝飾品には結界強度の付与をお願い致します」
「……」
夜長は言われるがまま言われた物を付与していく、夜長の職は付与師ありとあらゆる物に魔法効果を付与出来る…が元々この世界のこの国が世界大戦に勝利する為に召喚を行ったのは、勇者、聖女、魔物遣い・賢者という4名…たまたま大学構内を歩いていた4人の側にした夜長も巻き込まれて召喚される形となったので兵士たちもこの国の民も夜長を軽んじていた。
「さ、食事の支度が整いました」
兵士の1人が呼びに来る、彼らと共に食事が用意されたテントへと向かった。
「皆さんのお陰で我が国の勝利が近いです、勝利し帝国を落とした際には帝国が有する転移石にて皆様を元の世界へ戻します」
「俺はこの世界に残るよー戻っても就活就職とかやりたくないしね、彼女もいるし」
「あたしもーこの子達とこの世界で暮らすわー帰っても仕事とかぁーいやだし、ご飯も美味しいから」
「俺は……まだ決めかねているよ…この世界も戦争しているとは言え生活水準も高いし、戦争が終わってもその後の事があるから」
「わ、私は保育士になりたい…お父さんとお母さんに会いたいから帰ります…」
テントに並んだのはとても野営地だとは思えない程のご馳走、長いテーブルには赤いテーブルクロスが敷かれ上等なワインと湯気立つスープ、柔らかいパンとステーキに果物のソルベ、空間魔法で城から運んだ物を食べながら、彼らを召喚した国の魔法士兼宰相という男が必ず返すからと念を押すが、賢者と魔物遣いは《アーズノース》で生きると言い勇者は決めかねている、聖女は帰りたいと言い夜長は…何も言わない。
「付与師殿、貴方は如何です?」
「僕はどちらでも良いです、戦争が終わった後の事は分からないです…死ぬかもしれませんし」
「いっちばん戦場から離れた場所にいるのにぃ?」
「分からないだろう?確かに死ぬ可能性はある」
宰相が夜長にも尋ねる、魔物遣いが見下した表情を浮べ勇者が夜長の言葉に頷いた。
夜長は出された食事を肉以外を少量口にする、戦争の真っただ中こんなに豪勢な食事……彼らはこれに違和感を持たないのか、今日はもう行軍を行なわないというので自由時間を与えられる、風呂に入りたいという希望も毎日叶えられ皆が身綺麗だ、彼らとその周囲にいる者達だけは…。
「古刀君、今夜も食べないのか?食べないと力が入らないだろ?」
勇者が面倒見の良い風でステーキの追加を貰い食べていく、夜長は首を緩く振り風呂は後で入ると先に自室のテントへと向かった。
「こんばんわ、夜長君。お腹空いているでしょう?」
「不動さん!」
「今日も良く頑張ったね、さ、ご飯を食べて。お風呂もあるから」
「はい」
テント…端に追いやられたボロい小さなテントに入れば…そこには優しく笑う、夜長と同じ年齢の日本人らしい少年が豪華な部屋の椅子に座り寛いでいた。
テーブルの上には出来立ての弁当、トンカツ弁当に味噌汁とよく冷えた苺が並び夜長のお腹が鳴った。
「あ…」
「さ、早く食べて。出来立てだからね」
「はい、いただきます!」
夜長の元へ不動という青年が訪れるようになったのはこの世界に召喚されてからすぐの事、異界を渡っているという青年は召喚の気配を感じてこの世界を訪れたと言う。
毎夜夜長の元へ訪れ食事を提供してくれる、更に渡された収納袋は時間停止が施され必要な物が全て入っている、彼らには言う気もない。
「美味しいです」
「良かった、もうすぐこの世界大戦が終わりそうだね。そうしたら一緒に行こう」
「はい…でも怖いです…死ぬかもしれない…」
「死なないよ、僕の力が君を守る。綺麗に終わらせなくても良いんだ、世界が終わったと認めれば終わりだからね」
「はい…」
「ごめんね、もう行かないと気づかれてしまう」
「明日も来てくれますか?」
「もちろん、またこの中にお菓子や本を入れておくから食べてね、携帯は…繋がりにくいけれどちゃんと見ているから。おやすみ、夜長君」
「はい、いつもありがとうございます。不動さん…」
夜長の頭に不動が手を乗せ撫でる、不安そうな顔の夜長に名残惜しそうな表情を浮べ姿を消す不動…彼がいるから夜長はこの狂った世界でも正気を保っていられるのは彼のお陰だった…。
何処も彼処も古刀 夜長:付与師×神眼鑑定の目には歪に視える、真実も嘘もみにくい…。
それではまたあいましょう…古刀 夜長でした…