あなたは異世界に行ったら何をします?~永久に続く君へ~
「アンタなんか生むんじゃなかった!」
いつも母はそう言って彼を家から追い出す、おなかが空いたいつもお腹を空かせていた。
「ほら、これ持って、いい!9時まで戻って来ないでよ!」
そう言って安普請のアパートのドアを乱暴に締める、今はまだ夕方5時…後4時間もこの小さな少年…近重 永久は放り投げられた菓子パンを拾いいつもの公園へと向かった。
夕暮れの公園は物寂しい、錆びたブランコと砂場には誰かが置いていった遊び道具たち、褪せた某物の遊具とジャングルジム、ブランコに座り永久は菓子パンの封を開け食べ始める、これを食べてしまってはもう今日の食事はお終いだ、小さな痩せた手でゆっくりとパンを食べる、それだけでは足りない。
「もっと食べたいな…」
公園の時計はまだ5時30分前、ブランコで身体を揺らす…お腹は空く…水飲み場で水を飲み永久は公園で暫く遊び暗くなって公園を出た。
とぼとぼ歩く永久の周辺にはゆらゆらと黒い影がいくつも揺らめく、永久はそれをすり抜けて歩く何も起こらない、黒い影はいつもそこに在る。
幼い永久にそれが何かも教えてくれる誰かもいない、彼は孤独な少年だった。
「おなか…すいた…」
1度でいいからお腹いっぱい菓子パンを食べたい、それが彼の夢だった。
たった9歳の少年が抱く夢、腕や足は痣があり服を脱げば傷だらけの小さな少年、服は碌に買い与えられず母親はいつも疎まし気に永久を無視したり追い出す。
永久はただ言われた通りの事をする…いつの間にかいつもと違う道に入り込んでしまったようだ、永久は戻ろうかと…思うと白い蛾が永久の横を通り過ぎその先の灯りのある場所へと向かっていく、永久もそれに誘われるように足を向けた。
「『おしごとしょうかいちゅう?ろうにゃくなんにょとわずいせかいじんしゅぞくうちゅうじんもといませんおいもわかきもきょうみがあればしょうかいします よろずなんでもどう』?』
「はい、どんな者でも出来るお仕事を紹介しています、こんばんわ」
「あ、えと…ごめんなさい」
「どうしてあやまるんですか?何か貴方は悪い事をしたんですか?」
「かってに入ったから…」
「ここは店ですから、勝手に入っていいんですよ」
白い蛾に引き寄せられた古い2階建ての家の入口引き戸の脇には木の看板に何故かひらがなで分り易く書いてあり、永久が読み上げているといつの間にか指先に白い蛾を乗せた男が立っていた。
永久は勝手にカバンを読むために敷地に踏み入れた事を謝るが、店主だろうか国籍も年齢も不明な男は特に気にした様子もない。
「さあ、どうぞ。私はこの店の店主です。オーナー、店長、支配人、店主好きなように呼んで下さい」
「あ、あ…」
「どうかしましたか?」
「僕でも出来るおしごとありますか?」
「勿論、この看板に嘘偽りはありません、貴方に出来る仕事を紹介しましょう」
そう言って店主は永久を店の中に招く、永久は長い足の店主の後をちょこちょこ着いていった…。
「どうぞ掛けて下さい、それと食事をどうぞ」
「おかねないです」
「なくても良いですよ、貴方は仕事を捜しに来たのですから食事のついでに面接しますからどうそ」
2階に上がればすぐめの前がキッチンカウンターとテーブルと椅子、テーブルの上には湯気の立つ良い匂いの食事が置かれていて店主がどうぞと言い永久は貪るように食べ始めた。
「おかわりもありますよ、どうです」
「たべる」
敬語を使う事も忘れ箸を握り食べていく、ぼろぼろと食べこぼす姿を店主は気にもしない、食べ残しのご飯粒が付いた茶碗にご飯をよそってくれる、炊き立ての白いご飯とワカメとネギの味噌汁、生姜焼きに添えられた千切りキャベツとマヨネーズに小鉢は餡掛けの揚げ出し豆腐とデザートの綺麗に切った果物を食べ冷たい良い香りのするお茶を飲み干して人心地着いた。
「おなかいっぱい」
「そうですね、では貴方に仕事をお願いします」
「はい」
永久は姿勢を正す、どこかちぐはぐな話し方で店主の話しに耳を傾けた。
「貴方に頼みたいのは子どもがいて不自然ではない場所にある物を調べてくる事です」
「?」
「このリストをあげます。このリストに載った物を調べて教えて下さい。それとこの小さな巾着を、これは時間停止無限収納袋です、広げて中に物を入れて出す時は出したい物を思って出して下さい。これは貴方しか使えない物です、他の人が触っても何の意味もない小さな布袋です。首に下げて持っているといいでしょう」
「はい」
店主が出して来たのは紙と古い褪せた首から下げられる紐が付いた小さな袋、説明を受ければ不思議な物があるなぁと永久は思って受け取り首から下げた。
「その袋の中には前払い金の100万が入っています、お金は小銭で入っていますから自由に使って下さい」
「はい」
「それと、どこにも行く場所が無ければいつでも此処に来ると良いですよ、ここが必要な者が必要な時に招かれる場所ですから。食事を福利厚生の一環として出します」
「ふくりこーせー?」
「はい、オマケですよ。さ、もう遅い戻ると良いですよ。仕事はいつでもいいですから、パンも入っています。お腹が空いたら食べて下さい、無くなったら追加します」
「はい、ありがとございます」
「バイトに手厚いのがうちのモットーですよ、ではおやすみなさい」
永久が首を傾げながら、受け取っておけば良いと店主が言いこくりと頷いて店を出て家に向かう、暗い夜道だがお腹が一杯で足取りは軽かった…。
家に戻れば母親はいないのか家のドアは空かない、扉の前に座り首にかけた収納袋を開いてリストを出して眺める。
「『あかのじどうかんのダルマをしらべる』『だいさんこうえんのぴんくのカバのゆうぐをしらべる』
『あさのだいちこうえんのあさがおをしらべる』」
永久は読み上げてこくりと頷き収納袋に紙をしまい膝を抱え母親が戻るのを待つ、お腹は一杯だ美味しかったまた食べたいなと思いながら永久はじっと静かに母親を待った…。