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あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~  作者: 深楽朱夜
あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~
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8 ×××さんと燈火ちゃん

隠岐(おき) 燈火(とうか)17歳…描いた漫画が賞を受賞し、担当が付いて次の作品をと望まれメモを片手に近所の公園にいた。

「また逢いましたね、燈火ちゃん」

「×××さん!おはようございます!」

早朝、子供もいない静かな時間に燈火が唯一会うのは、年齢不詳更に言えば国籍不詳の男だけだった。

「はい、どうぞ」

「いつもありがとうございます」

「ついでなので」

ベンチに座り1人分スペースを空けて座るのがお決まりの形、燈火は幼稚園からの親友以外友人もいない、親も燈火に関心が無い、学校に行こうが朝誰かといようがどうでも良かった。

いつも男は缶コーヒーのブラックを此処で飲むついでに、燈火には紅茶を買ってくれていた。

「またネタ探しですか?」

「今日は普通の散歩です、もうネームも完成して担当さんからもOKが出ましたから!明日からペン入れです」

「それはそれは」

「なので少しここに来れなくなりそうだから、×××さんに会いたくて」

「それは照れますね、でも残念ですが私もこの世界を出る事になりまして」

「え?世界?」

「あー間違えましたこの国を出ます、弟が18歳になりましたから養育の義務が無くなりました」

「あ……そうなんですね…寂しくなるなー」

「そう言ってくれるのは燈火ちゃんだけですね」

「そんな…どこの国ですか?」

「遠い遠い場所です」

暗にもう会えないと言われているような物だ、益々燈火に寂しさが募る。

小学生の頃から漫画家になりたくて、ネットや本で描き方を学び何度も描いては送るのを繰り返しいつも努力賞止まりで落ち込んでいた時に出逢いこうして軽い世間話しをする間柄となり燈火の数少ない心の拠り所の1つだった。

「燈火ちゃんのおかげでつまらないこの生活を少し楽しめました」

オブラートに包まない言い方に燈火が笑う、彼のこういう言い方がとてもらしくて好きなのだ。

「燈火ちゃんにお別れにこれをあげます」

「これは鈴ですか?」

「魔除けの鈴…願いの鈴…想いの鈴…私が産まれた場所でそう言われています」

「この鈴鳴らないですね?」

「今はね、有事に鳴りますよ。御守りです」 

「……」

黒い親指程の鈴、振っても音は鳴らず中には何も入っていない気がする。

「もう、逢えないですか?」

「ええ、奇蹟か起らない限りは」

「でも、さようならを言いたくないです」

「なら、また」

「はい…僕の事忘れないでいてくれますか?」

「はい、燈火ちゃんは忘れていても良いですよ?私が覚えおきますから」

「忘れません、あ、そうだこれ!受け取って下さい!」

「大事な物じゃないですか?」

「だから持っていて下さい!」

燈火がいつも何処に行くにも必ず持ち歩くメモとボールペンを渡し互いに笑い合う、そして笑顔で別れた。

去って行く男の背中を燈火はいつまでも、いなくなるまで見ていた。


「あー明日は遊馬君のコンテストと僕の単行本の発売日ー緊張するなー」

あれから10年弱の月日が経ち、燈火はあの鈴に紐を通しいつでも首から下げていた。

「米助緊張するよー、売れなかったら打ちきりになるかもしれないし」

雑誌掲載の順位は悪くないが、単行本の売り上げも重要だ。

ハムスターの米助に何度も話し掛ける、幼馴染みで同居人の羽鳥野(はとりの) 遊馬(あすま)も明日の打ち合わせで不在だった。

チリン…そんな時鈴の音が聞こえ燈火が顔を上げシャツの中の鈴を取り出し、マジマジと見つめた。

鳴る筈のない鈴…『有事に鳴りますよ』その声が燈火の耳に蘇った。

「×××さん!どうか僕と遊馬君が上手く行きますように!」

鈴に願うが沈黙している、何にでもすがりたくなる、なってしまう…。


遊馬のコンテストも上手く行かず、燈火の漫画の売り上げも芳しくない、今日は遊馬のライブの日で燈火の連載が打ちきられるかどうかの会議が行われていた。

気が気じゃない、遊馬のライブにだって行きたかったが遊馬が家で待っていろと言ってくれこうしていた。

もう30になるもしこの連載が打ち切りになれば、アシスタントか原作ありきのコミカライズに路線を変更するつもりだった。

「米助ーはあ」

何か不安があれば米助に語り掛ける、ハムスターの米助は元気に健康的に回し車を回していた。

チリン…再び鳴らない筈の鈴の音が聞こえた、また鈴を取り出し見つめる。

「まただ…何かあるのかな?」

何かを教えようとしているのか、知らせようとしているのか、それとも警告しているのか……。

「逢いたいなあー僕の漫画読んで欲しいな…」

もう顔も思い出せない、友人とも言えない人…逢いたい気持ちと不安が入り交じった…。


「大河さんは色々な本を所有していますね」

「好きに読め」

「どうも………これ良いですか?」

「漫画を読むのか?」

「まあ…」

蒐集家がテントの図書スペースで大河から許可を貰い、本棚を眺めている、隅に置かれた漫画を手に取りソファに腰掛けた。

「あ、俺もその漫画好きだよ」

「僕もです、打ち切りになったけどファンも沢山いたんですよ」

「俺も後で読も」

詠斗と率に晴海も読書デーとして本を読んでいる、蒐集家は特に何も言わず笑って漫画を読み始めた。

チリン…と髪飾りの鈴が鳴り、もう1度遠い場所でチリンと鈴が鳴った音が聞こえた気がした…。

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