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あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~  作者: 深楽朱夜
あなたは異世界に行ったら何をします?~番外へん 開店中~
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6 傭兵ジラ

「父さん母さん…行くよ…本当は薬師になりたかった…」

まだ11歳を過ぎたばかりの少年は荷物を纏めて背負い覚悟を両親の墓に誓う、両親の身体は此処に無い、伝染病を患いこの村一帯の亡くなった人々は全て焼かれ、目の前にあるのは石を墓に見立てった物だった。

墓の周りには小さな白い花が連なって咲いているその花の名はジラという、この周辺では学ぶ場所も無く字を読めない者の方が多い為、木や植物などの名前を子に与える風習があった。

ジラの両親は薬師だった為字を識りジラにも教えてはいるが、風習に則り熱に効く薬草でもあり重宝されているジラの花の名を息子に贈った。

「もう行く…きっと帰っては来れないけれど、魂が廻るならまた父さんたちの子になりたい…さようなら」

枯れ葉色の髪を風が撫でて行く、見慣れた景色を目に焼き付けて彼は進む…。


「おーいジラー」

木の上で寝ているジラ17歳、ジラを呼ぶ青年の声に応える事もなく木と一体化してやり過ごそうとしていた。

「あ、いたいた。ジラー仕事だぞー降りて来いよー」

「ちっ」

面倒くさそうに舌打ちをしひらりと重さを感じさせない身軽さで地面に降り立つ、ジラを呼んでいた青年が少し驚いて笑う。

「仕事だ」

「ふぅん、今度はどこだ?」

「北だよ隊長が呼んでいる」

「そうか」

ジラが村を出た後に拾われた傭兵団120名程の傭兵が所属し、常に増え消えを繰り返し少しは名の知れた傭兵団だった。

「来たか、今回はとある小国の戦に参加し勝利…する事だ」

移動式の簡易体な木との布を組み合わせた天幕を捲ると、厳つい革の鎧を付けた顔に傷がある男が険しい顔をしている。

「はい」

ジラを呼びに来た青年の背筋が伸びるがジラは変わらず退屈そうに話しを聞く、11歳最初は荷物を運び雑用をこなし訓練しながら、13歳で剣を奮い戦場の後衛や盗賊退治等をこなしつつ今ではこの傭兵団の中でも指折りの剣士として活躍していた。

「隊長、何かあるのか?」

「ああ、この国と戦争を行っている…今回は俺達の敵にあたる国にとある噂があってな…」

「うわさ?情報じゃなくて?」

ジラは噂という言葉に眉を顰める、目の前の猛者共を纏める傭兵団団長は噂などに惑わされたりはしない。

「《テンランド》の傀儡国…何かの実験を行っている国…」

「なら、この仕事を受けなければいいでしょ?団長はいつもあやふやな物に自分は託せるが皆は託せないって言ってる」

「ジラ…今回は断れんのだ…」

「なら戦うさ、最後まで立っていた者が勝ちでしょ」

「そうだ」

ジラが笑う、団長も笑う、だが互いに分かっていた…悪い予感しかしない事を…。


「うう…じ、ジラ…」

「しゃべるな…肺に骨が刺さっている苦しむだけだ」

血と煙と錆びた匂い、数多の敵味方もない程混じり合った死体、舞い上がる土埃、これは戦場ではない、少なくともジラの知る戦場ではなかった。

「は…は…ジラ…お…をわすれない…で…」

「忘れない…お前は俺が忘れない…」

「う…んありが…と…」

ジラ同じ年程の青年、良く笑い故郷の親兄弟に楽をさせたい、兄弟に学ばせたいというおよそ傭兵に向かなさそうな優しい青年…ジラの友人はそうして戦場の中息を引き取った。

「……」

これで終わりではない、団長も先ほど敵国の騎士…騎士ではないあれは化け物だった、団長はその騎士と相打ち…道連れで死んでいった、何も言わなかったが団長は敵国…あの騎士に何かしらの遺恨があったのかもしれない。

傭兵団はジラを残し壊滅…戦場だ…命の削り合い、誰が生き残って誰が死ぬか分からないだから仕方がない。

戦場に最後まで立っていたのはジラ…すなわち傭兵団を雇った国の勝利、敵の血仲間の血に塗れた身体は息苦しく重かった。

戦場から静かに遠ざかる…ジラ達傭兵団を雇った国がこの地の勝利に湧き、敵国を攻め落としたのはそれから30日後の事…そこから傭兵ジラの伝説が始まっていく…。


「どうもー300ログね。そこ押すなよー順番てのがあるだろ」

紆余曲折があり今は《アウトランダーズ商会》でポップコーンという食べ物を売る売り子をしている、そしてジラは気づく剣を握り戦場を掛ける事に何の未練もない事を、中には戦場の中でしか生きられない者もいる。

また薬草を学んでみてもいいのかもしれない、《不毛の地》の森は薬草の宝庫だ。

詠斗とジャム屋の話しも進んでいる、やりたい事が沢山増えた。

こんな身体になり両親から貰った髪と瞳も変貌し、人からかけ離れてしまったが詠斗達はそんな事きにもしない、ジラ…伝説級の有名人だがそれも気にしない、ジラはジラとしてここでは息が出来る、居心地が良い…この場所を大切にして行こうと思う…。



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