復讐者の足音
「おばあ……ちゃん……くる…し…」
ぼろぼろの家屋、嘗ては家族が住み賑やかな家、今は見る影もない、辛うじてベッドの形をしている場所に枯れた枝のような細さの身体中に包帯を巻かれた少女が苦し気に喘ぎながら女に苦しいと伝え潰れていない方の目に涙を浮かべていた。
「ごめん、ごめんねぇえ」
女は苦しむ少女の手を握りひたすら詫びる、もうどうにもならない少女はもう間もなく息絶える、そして女の唯一の家族がいなくなってしまう。
「おば…ちゃん…つぎは………」
「あ、ああ……」
少女は言い掛け伝えたい事も言えず息を止めてしまう、女は激しく泣き狂う、何度も何度も謝罪を口にし泣き、少女の亡骸に縋った。
「おいていかないでおくれぇ……」
女の最後の家族、老いた女は孤独になりいつまでそうしていたのか……食べも寝も何もする事無くただただ場で絶望していた…。
女の生涯は平凡だった、幼い頃に貧しい村に捨てられ働き手として拾われ、拾われた家族と早くから働き遅くに寝、日々の糧を得る事もままならず貧しい日々、器量も頭もよくはないが身体が丈夫で力があるのが取り得で家族にが重宝された。
だが小さい身体と何時までも老いない外見、恐らく人以外の血が混ざった混ざり物だろうと混ざり物だから捨てられたのだろうと村の人々言うが、よく働く働き手に家族は喜んでくれた。
一緒に育った義兄弟達は皆伴侶を迎え子ども産み育て、女はその子育てもよく手伝い義両親の面倒もよく見た、それが女の全てで幸福だった、それしか知らないから。
そうして日々変わらぬ生活をしていれば、義両親は老いて亡くなり兄弟達の子どもは大きくなりまた子どもを作った、それでも女の生活は変わらなかった。
ある日、義兄弟の小さい孫が熱を出し果物が食べたいと言うので女は森に独りで向かった。
美味しくて甘い果物は森の少し奥にある、美味しい果物を食べて欲しくて女は夢中になって果物を採っていた…それが女の命運を分けてしまった…。
「あ、ああ!」
夢中になって気づけばもう夜になろうとしていたので村へ戻ろうとすると村の方から煙が上がっている、普段はない事だ女は嫌な予感がすると急いで走って村に戻ると…そこは絶望の光景が広がっていた。
至る所に火が付けられ、老人や男や子どもは無残な姿で殺され、女達は嬲り殺され確かに顔馴染みな人々の筈が誰が誰か分からない…女は急いで家に向かう、血と焼ける匂い、どうして何があった?何が…。
「はあ…はあ…」
自分の家、生まれ育った家だった物が焼けていた…女は愕然とし燃え盛る家の中に入れば家族の死体が転がり…皆肉の塊と化していた。
「うぅ…」
「ああ、しっか…」
家の奥でうめき声が聞こえ火の粉を避け向かえば、孫の1人が血の海で微かに声を出していたので女が駆け寄り身体を抱き起せばその悲惨さに声が詰まるが抱えて外へと逃げ井戸に向かえばその周囲にも殺された村人がいる上、井戸の水を汲もう桶を入れれば何かに当たる、それを考えずとにかく水を汲み少女の…身体を拭いてやる。
「いた…ぃ」
「あぁ、ごめんねぇ」
なんでこんな事に何があった、分からない、生きているのは孫だけだ…他の家族は?熱が出ていた子は?
頭がごちゃごちゃしている、とにかく少女の手当が先だとがむしゃらに女は涙を零しながら手当てを行った…。
その甲斐も虚しく鎮火しかろうじてベッドだった物に寝かせていた少女は息絶え、女はただただいつまでそうしていたのか、少女の亡骸に蛆や虫が集るようになった頃、誰かがこの村を訪れた。
「そのままにしているのは可哀想です、とても可愛らしい子だったのでしょう?」
「はい…可愛くてきっと母親に似て村1番の美人に…なんでこんな事に…」
ぎしぎしと傷む床、もう家ではない、他の家族の亡骸もそのままに腐臭が酷過ぎるが女の目からは涙が止まらない。
家だった物に入って来たのは何度も塗り重ねたような黒髪に濃く深い深紅を溶け込ませたような紅色の髪、陽の光に当たった事がないのかもしれない程の白い肌、赤黒い睫毛に縁取られた黒めに瞳孔は鮮やか過ぎる赤、目元の横に並んだ黒子が2つの美しい男、この異様な光景の中に佇む姿は異質で本来なら警戒心が露わになるが、女は何も感じない。
「どうして…こんな事に…」
「戦です、この周辺が戦場となり近隣の村を残兵や盗賊や傭兵に冒険者達が襲っているんです」
「そんな…戦があるとは聞いていませんでした…」
「予定外の戦のようです、まともに金の支払いもされていません。村を襲い、奴隷として攫い売り飛ばし抵抗する者は殺されています、私は周辺の村を訪れ弔っているんです。私はルシルカと申します」
「…私は…名はありません…」
「そうですか…」
嘆く女に男は教えてくれる、理由を知ったとしてもただただ理不尽でしかない、そして女には名前がない、拾われた子どもだおいやお前、お姉さん、おばさん、おばあちゃんと言ったように呼ばれているだけだった。
「弔いましょう、私は火魔法が使えます。彼らの身体をこのままにしておけません」
「……そうですね」
何処までも他者を悼む男に女は頷く、この村にある死体を独りではどうにも出来ない、男に頼み皆を焼いて貰う事にした…。
「ここにいない人達は売られたのでしょうか」
「そうでしょうね」
「……」
「復讐しますか?」
「私は無力です、魔法も碌に使えません…ですが悔しい…売られた人達…家族もいます…でも…」
男と共に1人ずつ丁寧に焼いていく、1度魔法で焼いてしまえば一瞬だ、女は優し気な男に復讐するか聞かれ首を振る、悔しい悲しい辛いが何の力もない弱者は奪われるしか…ないのだろうか本当に?
「私は善人の味方です、何の罪もない人が理不尽に奪われる世界を私は受け入れられません」
「…ええ、そうです…どうして日々を慎ましく送っていただけなのに…」
「…これをあげましょう」
「これは?」
「これはほんの数滴で人を殺せる毒です、只の毒ではありません。貴方が殺したい相手にのみ反応する毒へと変われる物です、それとこれはお金です」
「毒…」
「この瓶の中にあなたの血を入れればそういう毒へと変わります、すぐに毒は効きません。数日後に毒が自然な形で周ります、あなたの仕業だとわかりません。いりますか?」
「………はい」
「このお金はあなたが動くのに必要な資金です、屋台でこの周辺の街で食事に混ぜればこの村を襲撃した者の口に入れば死にます、あなたが分からなくても毒はあなたが復讐すべき相手に復讐してくれます」
「ありがとうございます…」
赤紫色の液体の入った掌サイズの小瓶を収納空間から出し女に差し出す、女はその瓶を受け取った。
「ただ1つ約束をしてくれませんか?」
「どんな約束ですか?」
「あなたの命尽きるまで復讐を続けると、あなたから全てを奪った者達に生涯復讐を誓うと、彼らの家族子ども、子孫まであなたの命ある限り彼らから奪い続けると」
「分かりました、約束します」
「では左小指を出して下さい、血を…」
女は頷くそして小指を差し出す、男は艶やかに笑い小さなナイフで女の小指を切り蓋を開けて血を注いだ。
「では約束を忘れずに…」
「はい、さようなら」
男は満足そうに去って行く、女は誰もいなくなった村に独り残され瓶を強く握り男とは反対の道を進んだ…二度と振り返る事無く…。
その後旅をしながら屋台でスープを売る女の店はとても美味しく日々人々がならぶ人気の店で、安く具沢山で貧しい人々から賞賛され、特に兵士や傭兵や冒険者達は身体が大きいからとよりスープを沢山くれ喜ばれていた。
肉がほろほろと柔らかく病みつきになると評判でみんなに愛される店であり、女は人々の笑顔が見るのが好きだと言いいつもニコニコしていた…。




