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年の瀬  作者: ふりまじん
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大晦日

その年の終わりの日、12月31日を大晦日と言います。

大晦日は、その年を守る年神様の交代の日です。

その日は、大人も子供も大忙しですが、夜になると、家族が集まって楽しく食事をするものです…。




「あら、わたくしの家では、大人は新年の宴会が催されますわ。

お父様と大晦日に夕飯など、食した記憶はありません。」

椿様は、そう言って、不服そうに大晦日の説明をした叔父(おじ)の芳次郎様を(にら)みました。


椿さまは13才。紀本男爵の3番目のお子様…男爵令嬢です。


「家は大晦日には親族が集まって宴会をしました。」

東北生まれのキクちゃんが嬉しそうに椿さまに話しかけます。


キクちゃんは10才です。

山形の出身で、尋常小学校を卒業して、男爵家に行儀見習いに来ていました。

「あら、わたくし存じてますわ。藁のコートを羽織った鬼がやって来るのでしょ?」

椿さまが長く艶やかな黒髪を揺らしながら得意気(とくいげ)に言いました。

それを聞いたキクちゃんは、ビックリした顔で椿さまを見つめました。

「コートを着た鬼ですか?」

キクちゃんは、先日、明智先生に読んでもらった『ドラキュラ』と言う西洋の鬼の話を思い出しました。


明智小五郎先生は、図書館の本を扱う先生です。

少し変わったところもありますが、キクちゃんとは気が合う優しい先生です。

「はぁ〜椿、それは『みの』と言うんだよ。

全く…日本人だと言うのに、ミノも知らないなんて。困ったものだよ。」

芳次郎さんは、苦笑しながら、ソファーに静かに座る青年をみました。


平井太郎先生です。


先生は、大学生で冬休みの間、椿さまとキクちゃんに西洋文学を教えるために大阪からやって来ました。

「はぁ〜良かった。吸血鬼の話では無かったのですね。」

キクちゃんは、ホッとしたように笑い、それをみて、平井先生も笑いました。


「吸血鬼…ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』だね。」

明智先生は、ドラキュラの本を紹介した事を思い出しました。


『ドラキュラ』は、18世紀末にイギリスで出版された怖い話です。


ドラキュラは、人の血を吸う恐ろしい怪人です。

ドラキュラは、東欧トランシルバニア地方を舞台にした物語ですが、キクちゃんは、イギリスのお話だと思っていて、説明に苦労した事を明智先生は思い出しました。


舞台が違う…地域が違うと言う事かな?


「なるほど、椿嬢、貴女(あなた)のお話の鬼は、『なまはげ』ではありませんか?」

明智先生の言葉に、芳次郎さんは顔をほころばせました。

「なるほど、なまはげかぁ…。椿、なかなか面白い事を知っているね。感心したよ。」

芳次郎さんに誉められて、椿さまは少し得意気です。

「平井先生が教えてくださったの。忘れませんわ。」

椿さまは嬉しそうに平井先生に笑いかけました。

赤いビロードのワンピース姿の椿さまは、西洋の少女人形のように愛らしく、平井先生を笑顔にしました。

「それは…すばらしいね。」

芳次郎さんにそう言われて、平井先生は、慌てたように説明を始めました。

「いえ…あの、西洋の伝説を話して行く過程で、日本の妖怪についても触れただけで…。」

平井先生の慌てぶりに芳次郎さんは笑いました。

「そうか、君は、英文学の先生だったね?」

「せ、先生なんて…そんな大層(たいそう)なものでは…」

自分より、10才以上年上で、学士の資格もある芳次郎さんに『先生』と呼ばれて、平井先生は赤くなりながら訂正します。

そんな平井先生の横に座り、椿さまは両手を膝のところで組ながら、すまし顔で言いました。

「あら、平井先生は、先生ですわ。」


それをみて、芳次郎さんも平井先生の横に座りました。

「その通りだよ。平井センセイ。さて、私にもご教授(きょうじゅ)頂けないかな?なまはげについて。」

芳次郎さんは、いたずらっ子のように平井先生を見つめました。


芳次郎さんと、椿さまに挟まれて、平井先生は赤面しながら困っていました。

何とかしなきゃ。


キクちゃんは、一生懸命、ふるさとの正月を思い出しました。


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