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1-07 劇中劇と記憶の再現

(できるなら、手を借りたい)


 短い時間ながらも協力してくれてる彼から、害意は感じない。

 今のところ私にとってグリーフは、ただただお人よしの青年だった。


(もし私に何かするなら、とっくにできていた)


 いくら警戒していたとしても、私一人で背の高い男性に対抗なんかできない。

 好機はいくらでもあった、ならもう気を張る必要もないと判断する。


「《再演》すればできるでしょう、《台本》を貸してください」

「はい」


 彼が言う《再演》が何を差しているかは分からない。

 けれどここまで来てしまったのもあって、大人しく従った。


(自分の《騎士》の《台本》なら、絶対渡さないけど)


 イデアスは私の《騎士》じゃないし、何だったら少しくらい痛い目に遭ってくれた方が私は喜ぶ。

 けれど目の前の青年は乱暴なことなどせず、《台本》の隙間に指を差し込んだ。


(券?)


 魔力の輝きが彼の指の付近から見え、光が消えると小さな紙片が現れた。

 私が見るにそれは、《台本》に貯められた魔力から生成されたものだった。


「《観劇券》です、それを《記録観劇場》に使うんです」


 彼は小さな模型の前に立って、そこに《観劇券》を落とした。

 すると券は火にくべた薪のように燃えて、代わりに模型の中に魔力が満ちる。


(これでイデアスの過去が見れるんだ)


 ゆらゆらと揺れる魔力は、イデアスやおじいちゃんの魔力と同じ色をしている。

 だからグリーフの言葉から察するなら、この模型を使ってイデアスの過去を再現するのだろう。


「しかし本当に見るんですか、彼の過去を」


 ゆっくりと開いていく舞台の幕を見つめながら、グリーフが問いかけてくる。

 彼の意図は、未だに分からない。

 けれど完全に幕が開くまでは待つしかないので、今から見るものが私にどんな影響があるかを考え始めた。


「私が傷つくような話でもあるんですか」

「どちらかというと、退屈だと思うんです」


 グリーフの口から、予想外の言葉が飛び出した。

 止めるくらいだから、何か危険があるかと思ったけれど違うらしい。

 そしてそれ以上に。


「どうして《台本》の中身を、知ってるんですか」

「あなたの祖父は、少し特殊ですから」


 意を決して聞いてみるが、グリーフは事前に調べていることを隠しもしなかった。

 ならば、私と出会いは偶然じゃない可能性が出てくる。


(もしかしたら私のことも知ったうえで、接触してきているのかもしれない)


 これだけ色々知っているのだから、そうであっても何もおかしくはない。

 そう思うと少しだけ、グリーフが怖くなった。


(けれど今更、後には引けない)


 グリーフの手を振り払ったところで、これ以上の手がかりを掴めるかは怪しかった。

 図書館の存在までは知っていたけれど、この《記録観劇場》の存在は知らなかったし。

 知れたとしても、使い方が分からなかった可能性も高いから。


「この世界で魔力欠乏の病を患っている《契約者》は、私が知る限り彼が唯一です」

「他に、誰もいないんですか」


 グリーフの言葉に耳を傾けながら、今日は驚くことが多いと思う。

 けれどおじいちゃんだけが病を患っていたことは、今までの私の常識を覆した。


(確かに病を治せる医師は、この街にいなかった)


 怪我を治せる人はいたけれど、外傷以外を治せる人は確かに見たことがない。

 でもそれは行動範囲が狭いゆえに、私が知らないだけだと今まで思っていた。


(本には載っていたから、今までは自分で調べておじいちゃんの薬を作っていた)


 魔力を補填する薬を作るのは幸い難しくなかったから、私でもどうにかできた。

 だからそれでここまで、誤魔化してきてしまった。


(けれど、病気の人なんてどこかにはいると思っていたのに)


 私が知らないだけで、どこかには。

 けれど彼の言葉を信じるなら病はおじいちゃんしか罹っておらず、病を治す者は存在しない。


(理由としては、筋が通ってるのかもしれないけれど)


 まさか、そんな風に世界が作られているなんて。

 そう思う私と、グリーフも同じように思っていたらしい。


「えぇ、だから調べたんです。でもそれ以外は特に、彼は他の人と変わりませんでした」


 グリーフは病の謎のために、おじいちゃんのことを既に調べていたらしい。

 だから彼は、これから上映される展開まで知っているのかと納得できた。


「自らの《騎士》と出会い、絆を深め、病に伏す。ただ、それだけ」


 おじいちゃんのことを知るグリーフは、淡々と感想を語る。

 けれど彼にとってそれは、人に勧める程の物語じゃなかったらしい。


「本人には輝かしい日常で、手放し難い過去でしょう。けれどあなたには、少しの価値もあると思えない」


 それでも、過去を見るのですか。

 言葉にしなくても、そう問われているのが分かる。


 だから私は、はっきりと断言した。


「それでも、知らなきゃいけないんです。知ったうえでどうするかは、私が決めます」


 そうでなければ、考えることすらできないのだから。

 すると私の答えを聞いたグリーフは特に反論せず、自分の意見を退けた。


「そうですね、私が口を出すべきではありませんでした」

「いえ、」


 彼の提案を無下にしてしまったことに罪悪感を覚えながら、ぎこちなく否定する。

 他人としゃべるのは慣れていないから、どうにも居心地が悪い。

 そんな私にお構いなく、魔力の満ちた《記録観劇場》はついに幕を上げた。


「さあ、劇が始まりますよ」

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