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3-10 片割れを見つけた役者と、彼が選んだ結末

 私を見つめたまま、シアトリウムは口から魔力を流した。

 彼が視線を下げるとその胸からは、短剣が生えている。


「……お前」

「どうして気づかなかったんでしょうね、妖精が私の《契約者》だという可能性を」


 シアトリウムの肩越しには、夜のような髪を持つ青年が立っている。

 あの大規模魔法を行使したせいで疲労がにじんでいるけれど、宣言通り生き残ったらしい。


「あぁ、やっぱり」


 振り向いたシアトリウムと、グリーフの瞳がかち合う。

 私には分からないけれど、彼は妖精との関係性を事実として把握したのだろう。


「やっと実感を得たか」

「えぇ、けれど私はあなたを守る《騎士》じゃない。殺すための《騎士》だ」


 グリーフの持つ小さな短剣は、イデアスの持つ剣よりもはるかに小さい。

 けれどシアトリウムの体に突き刺さったそれは、彼を構成する魔力を触れた先から崩壊させていた。


「殺す為の《騎士》って、そんなことありえるの?」

「《契約者》の望みが殺されることならば」

(……なるほど)


 確かに《騎士》は、《契約者》の願いから生じる生き物だ。

 殺されることが望みなら、それが後ろ向きな物だろうと矛盾は生まれないまま叶えられる。


「あなたの望みは、自分が作った《脚本》を超える者の誕生。その願いが反映されたものが、私です」


 グリーフが突き立てた短剣を、ずるりと引き抜く。

 すると彼の中に満ちていたおびただしい量の魔力が、体内から噴出した。


(彼の短剣は、魔力殺しだ)


 グリーフが、先程の戦いの後に教えてくれた。

 全てが魔力で作られたこの世界では最強の武器で、だからこそ簡単に振るえないもの。

 相手がなんであれ、魔力でできているならその全てを破壊する刃。


 そんなものを持たされて、その理由も分からずに、彼はここまで生きてきた。

 けれど因果は、ここに収束した。


「あなたを殺すために、私が作られた」

「正解だ、やっと気がついたな」


 外傷を受けて膝をつきながらも、満足げにシェアトは笑う。

 けれどそれに比例してグリーフは顔をしかめた。


「気づきたくなかったですよ、あなたと主従だなんて」

「ではなぜここに来た?」

「彼女の為に」


 今まで険しい顔をしていたグリーフが、不意に綻ぶ。

 それは何度か私に見せてくれた、好意を表す表情だった。


「道連れとして殺そうと思うくらいには好いていますからね」

(なんて、答えればいいんだろう)


 理由がどうであれ、出会ってからずっと私を好いていてくれた人。

 私を確かに殺そうとした、けれど生きる理由になった人。

 一度は友と名づけた関係性だけれど、それよりも深いつながりを思わせる日々の記憶。


(複雑で、しっくりくる答えは未だに出ない)


 口を開いても音にならず、思考も形にならない。

 けれど彼はそんな私を見て、満足そうに笑みを漏らす。


「僕よりも、好いているのか」

「当然」

「素晴らしい物語だ」


 シアトリウムは自分の理想通りじゃないグリーフに、賞賛を送る。

 それが、シアトリウムの望みだったのかもしれない。


「ではお前が自決を選ばなかった理由も、そういうことだな」

「えぇ、一縷の望みにかけたかったのです。馬鹿なことだと笑えばいい」

「……いや」


 非効率な方法を選んだグリーフを、シアトリウムは笑わない。


 そして彼らの会話は、時間の経過によって終わりを告げる。

 ごぽり、と水のような音を立てて、グリーフの口から魔力が溢れ出した。


「グリーフ!」

「動揺しないで、死ぬ時期がずれただけです」


 反射的に近づこうとした私を、彼は手で制する。

 どう行動しようが助からないことを、この戦いが始まる前に彼は分かっていた。

 シアトリウムを倒すには、片割れのグリーフが死ぬしかないと、私ももう分かっている。


(けれど、やっぱり心は割り切れない)


 最後の瞬間に思い出すのは、今までのこと。

 思い出というには良くないことも混じっていて、記録と言うには感情が動いてしまう。


(悪意をもって接してきて、最終的に道連れにしようとした人)


 けれど悪いことだけじゃなくて、私に人といる楽しさを教えてくれた。

 そして何より、私に感情を与えてくれた。


(彼が普通の友達だったら、私は生きていなかった)


 彼が普遍的な存在であれば、私はイデアスと戦うことを選ばなかった。

 悲しむけれど、それだけだ。

 でも私にとってグリーフは、今までの行動を覆すくらい特別だった。


(私の、かえられない人)


 結局最後まで、彼との正しい関係の名前が分からなかった。

 でも、それでいいんだと思う。


「大丈夫ですよ、もうあなたを安心して置いて逝けますから」


 正しいことばかりじゃなかったけど、それも含めて色んなことを教えてくれた。

 ずっと私を、色んな形で思ってくれた人。


 そして彼は最後に、答えを残してくれた。


「私も、あなたのお陰で未練なく消えられます」

「本当、に? 私は迷惑じゃなかった?」


 彼を出会ってから私の中に残っていて、ずっと聞けなかったこと。

 彼はずっと私は助けてくれたけれど、私はここに来るまで何も彼を知らなかったから。

 けれど私の恐怖を知ってか知らずか、彼は頷き一つで肯定する。


「えぇ。だから、どうか立ち止まらないで」


 悲しんで、引きずって歩いていかなくて良いんだと彼は笑った。

 だから私も、首を強く縦に振って答えを返した。


「うん、分かった」


 頷き返した私を確認したグリーフはさらに、語りかける。

 それは私にじゃなくて、彼が選んだ未来に向けてだ。


「じゃあ、後はお願いします」


 傷跡を残して、彼はいなくなる。

 彼に外傷を、私に心傷を。


 そしてグリーフと私の会話を黙って聞いていた彼は、両手を合わせて打ち鳴らした。


「……役目を全うしたか」


 劇場の名を冠する青年は、一人の役者が消えた場所を眺め続けていた。

 自身の致命傷から零れ続ける魔力に、見向きもせずに。

 ぱちぱちと、心が動いたことを伝えるために。


「良かった」


 そして長く息を吐いた青年は、再び私に視線を戻した。


「祝福しよう、《脚本》を超える《役者》達。ようやく最終章だ」


 彼の傷から流れ出る膨大な魔力が、暗い舞台を煌々と照らしている。

 そしてそれらは一つの剣を形作り、彼の手に収まった。


「これで終わりだなんて、最初から思っていないだろう?」

「もちろん」


 剣の色はグリーフが持っていた短剣と同じで、きっと魔力殺しの能力が付与されている。

 だからここからは、どちらかが死ぬまで止まれない。


「物語を再開しよう」

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