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2-08 騎士という存在について






 屋敷に戻ってきてから、膝を抱えて座り込んでいた。

 体が痛くて耐えてるわけじゃない。

 ただ、心が痛かった。


「大丈夫ですか」

「また、ダメだった」


 殺しあって、話し合って。

 絆を結んだから、もう大丈夫だと思っていたのに。

 容易にそれは打ち砕かれた。


「私の《騎士》になるって言ったのに。やっぱり私じゃダメなのかな」


 そう言いながら、また一段深く落ち込んでしまう。

 事実であって、覆せないもの。

 とっくに分かってたはずなのに、いざ突きつけられるとどうしようもなくなってしまう。


(しかも今回は、長く一緒にいた相手じゃない)


 相手は誰かも分からない少年だった、だから今までの言いわけは通じない。

 理由は分からないけれど、絆なんかどこにもない相手に私は負けてしまった。


(イデアスが裏切ったとは思っていない)


 前回と違って、イデアスが向こうに肩入れする理由はないはずだ。

 だから逆に、今回の原因は彼の心情以外のものだとは思っている。


(けれど、どうすれば良かったんだろう)


 何度も何度も思い出して、悲しくて悔しくて涙がにじむ。

 でもいくら考えてみても、解決策が分からない。


(解決策なんて、ないのかな)


 何度やってもダメならやり方が悪いんじゃなくて、そもそも出口が用意されていないのじゃないか。

 そうであれば、仕方がないんじゃないか。

 どんどん暗くなっていく思考に、私は沈んでいく。


 けれどそこから、見かねたハーネストが意識を引き上げてくれた。


「今回のイデアスの行動は、彼の意思じゃないですよ」

「でも、それならどうしてイデアスは敵になったんだろう。……うわ」


 聞き返すために顔を上げると、だいぶ嫌そうな顔をしたハーネストの横顔が見えた。

 否応なしに感情を読まれてしまう私を気遣って、私から目線を外している。


(それでも分かる、不機嫌顔)


 そんな顔初めて見たから、これから話すことはよほど彼にとって嫌なことなんだろう。

 けれどそれを押し通しても、私に話そうと口を開いてくれた。


「イデアスは現在、《台本》を悪用されています」

「悪用?」


 知ってはいるけど聞き慣れない単語で、思わず同じ言葉を返してしまう。

 他人への興味が薄いこの世界じゃ、あまり必要とされない言葉だから。


「要は操られているんです。肩を持ちたくはないですが、彼は良くやりましたよ」


 イデアスと同じ《騎士》が言うならば、そうなんだろう。

 《騎士》でない私には、一生分からないけれど。


「あの少年は魔性です、あれは自身に関わる者を狂わせる。……いえ」


 今までたくさんしゃべっていたハーネストが、一度言葉を切る。

 しばらくしてから彼の目が、戸惑いがちに私を映した。


「正確には感情を増幅させると言った方が正しいでしょう。自覚がないでしょうが、あなたもおかしくなってます」

「私も?」


 思わぬタイミングで矛先が向いて、驚く。

 《騎士》の話しをしていたのだから、私が関係することがあるだなんて思わなかった。


「ええ、本来あなたはこんなに激しい性格じゃない」


 ハーネストに指摘されるけれど、いまいち納得できない。

 だって私は思い返すと、結構やりたい放題やってしまっている。


「そうでもないと思うけど」

「本来は、です」


 彼の言う本来とは、イデアスが召喚されなかった場合。

 私とハーネストが契約を結んだ、もはや存在しない正史。


「ずいぶん変わってしまいましたよ。以前のあなたなら、夜中に抜け出すことはなかった」

「……確かに」


 そう言われて、自分のことなのにやっと気づけた。

 昔なら、夜に起きて行動するなんて想像もできなかった。


「だから出遅れてしまいました、もう少し早く来れれば良かったのですが」

「ごめんね」


 申しわけないと謝りながら、納得する。

 色んな経験をして、私は昔とはかけ離れた存在になってしまった。

 けれどハーネストはそれを理由に、自分を許そうとはしない。


(彼は自分自身が許せないんだ)


 ぴりぴりした、私を危険に晒してしまった事実に対する彼の怒りを感じる。

 私自身が原因なのだとしても、関係ない。

 ハーネストにとって大切なのは、理由がどうであれ私を理解しきれなかったことだから。


「結局のところ、契約から離れられないのですよ。私達は」


 そこまで話すと彼は、諦めたように長いため息を吐いた。

 理由は多分、自分達の生き方に対して。

 ハーネストは私よりよほど、《騎士》という生き物の性を分かっている。


「それにしても意外だな、イデアスを良く言うなんて」


 今聞いた話で、一番驚いたのそこだった。

 彼にとって、イデアスは排除すべき敵のはずだ。

 そしてそれを指摘されると、ハーネストは分かりやすく口を尖らした。


「私だってこんな話、したくないですよ。けれどあなたのためです」

「あ、そっか、ごめん」


 ハーネストは私の《騎士》だ、だから私のために動くのは当然だった。

 だからそれを疑われたのは、恐らく《騎士》の矜持を傷つけることでもある。

 けれど不躾な私に、彼はそれ以上怒らないでいてくれた。


「謝らないでいいです。私がいない時に、彼といた時間も確かでしょうから」

(優しいな)


 《騎士》としては嫌だろうに、イデアスの存在を否定しないでくれる。

 こういうところが、私の理想を反映しているのだろう。


「ともかく、あなたはイデアスを取り戻したいと思ってる。なら私はそれに従うまで」


 自身の意思に反してでも《契約者》に従う、《騎士》としての矜恃。

 そういう生き物だという、紛れもない証。


「そのうえで彼に勝てばいいのです」

(あ、嘘じゃない)


 横顔が正面を向いてぱちりと目が合うと、また直感的に分かる。

 正しい《騎士》との繋がりがあるから、言葉にしなくても心が分かってしまう。


(やっぱり、安心しちゃうな)


 裏に含んだものがない証拠と、それを実感できる安堵。

 イデアスとはない、繋がり。


(でも、イデアスとも契約したから)


 心じゃなくて、向かい合うことで触れ合った繋がり。

 だから本当の意味で心が通わなくても、構わない。


(取り戻さないと、絶対に)


 色々なものが揺れるけど、それだけは絶対に守らなければならない。

 偽物だとしても、私はイデアスの《契約者》なのだから。

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