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2-07 繋がらなくても、と思っていた






「で、どんなの買ったの?」

「これだよ、何の花かは知らないけど」


 割と長い時間悩んでいたイデアスが選んだお守りは、白い花があしらわれたものだった。

 花弁は長く、清楚な雰囲気を感じさせる。


(ずいぶん可愛いの買ったなあ)


 イデアスの手の中に小さく鎮座するお守りを見て、ちょっと意外に思う。

 おじいちゃんがそういうのを好きだったのだろうか。

 元気だった時には、可愛らしいものを好む印象はなかったけれど。


「それでなんだけど、これ」

「――待って、あそこ!」


 不意に背中に視線を感じて、私はイデアスの言葉を遮る。

 あわてて振り向くと、庭園で見た少年がいた。


「彼かい? 君の庭で見た男の子、は」


 私の声に反応して、イデアスは瞬時に剣を魔力で生成する。

 けれど剣を構える瞬間、躊躇で声が震えたのが分かった。


(やっぱり見間違いとかじゃない)


 近づかなくても分かる。

 少年は、間違いなく若い頃のおじいちゃんの姿を真似ていた。


「また会ったな」

「あなたは誰なの?」


 イデアスと共に駆けつけ、庭園で聞いたようにもう一度問う。

 少年は私を知っているようだけれど、私は彼を知らない。

 だからまずは、そこを聞いておきたかった。


「この《舞台》の全て、あるいは《役者》に仇成す者」


 彼は淀みなく、滑らかに告げる。

 彼の答えは庭園で聞いた時の物とは違っていた。

 けれど嘘を言っているようにも見えず、余計に混乱する。


「今はシアトと呼ぶといい。僕はインフェリカ、お前を《観劇》しに来たんだ」

「彼女に何の用だ?」


 私の横にいたイデアスが、前に出る。

 まだ少年がどういう存在なのかは分からない。

 けれど、いざとなれば戦う気でいる。


(けれどやっぱり、辛そうだ)


 どうやったのかは分からないけれど、少年の姿はイデアスと一緒にいたころのおじいちゃんと同じ。

 だから何を意図しているのかは分からない。

 でもようやく前を向いたイデアスに、その仕打ちは酷すぎる。


「退け、もうお前に用はない。最初こそは《観て》いたがな」

「僕を見ていた?」


 突然話しを振られたイデアスが、さらに困惑する。

 確かに知らないうちに観察されていたなんて聞いたら、気味が悪くて仕方ない。

 けれど少年は、そんなイデアスに一切取り合わない。


「昔の話だ。お前がインフェリカに負けてからは、興味が移動した」

「どうしてそれを」


 少年の言葉に驚いて、思わず声が出てしまう。

 あの時の戦いは、当然限られた者しか知らないはずだ。

 仮にも殺し合いだったあれは、他の人に聞かせられるようなものじゃない。


(だから当事者以外が知ってるだなんて、思いもしなかった)


 場所も街から離れた場所だし、事前に防音魔法なども張っていた。

 それに私とイデアス以外の当事者は、もう存在していない。

 けれど目の前の少年は、それについて深く聞くつもりはないようだった。


「それはいい。僕はお前に試練、いや、物語を与えに来たんだ」

「これ以上、インフェリカに試練は必要ない」


 少年の言葉を聞いたイデアスが、剣を向ける。

 相手は子供だけど、こちらを害する宣言をしてきたから彼もそうせざるを得ない。

 けれど少年は、向けられた刃に怯える素振りもなかった。


「分かっていないな、《役者》は物語があってこそ輝く」


 そう言うと少年は、手元から本を取り出した。

 だから最初は、イデアスに対抗する《騎士》を召喚するのかと思った。

 けれど、違った。


「《再び、お前が敵になるのがいい》」


 言葉と共に()()の《台本》が輝き、表紙に変化が現れる。

 さらさらと描かれる文字は、見慣れた名前を記載した。


「う、」

「イデアス!?」


 不意に頭を押さえて、イデアスが体勢を崩す。

 だからあわてて私はイデアスの元へ駆けつけた。


 けれど、そこで彼に刃を向けられる。


「……え」


 突きつけられた刃に思い出すのは、先日の戦い。

 裏切りが明確になったあの日と、何の変わりもない構図。

 これが表すのは、イデアスがまた私の敵になってしまったという事実。


「イン、フェ、リカ」


 ここ最近聞いていなかった、耳に届くだけで怖気が走る響きでイデアスはしゃべる。

 召喚されたあの日と同じ、冷たい声で私の名を呼ぶ。


「い、や、」

「インフェリカ」


 忘れかけていた日々が、強制的に呼び戻される。

 あの日届かなかった刃が、再びこちらを向いている。


(――――殺される!)


 けれどその刃が私の首を叩き落とす前に、間一髪で助けられた。


「させませんよ!」


 振り下ろされたイデアスの剣を、自身の大振りな剣で力任せに弾き飛ばす。

 さらに私を横抱きにして距離を取ったのは、私の真なる《騎士》だった。


「ハーネスト!」

「一回離脱しますよ、私では彼に敵いません!」


 何度も戦っているからか、ハーネストは無理にイデアスと倒そうとはしない。

 大振りな剣を魔力に還し、彼は身を軽くして逃走を図る。


「……イデアス、なんで」


 イデアスを裏切らせた少年はそれ以上何もせず、逃げる私達を追撃してこない。

 そしてイデアスも、私についてはこなかった。


「ではまた後で、お前にまた会いに行く」


 どんどん遠くなっていく、イデアスの姿。

 去り際にかけられた少年の声だけが、私の中に残されていた。

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