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2-05 差異から生まれるもの






「あの、本当に手伝わなくていいんですか」

「お気になさらず、一人で家事をしているのは私のわがままですから」


 洗濯物を気持ちの良い風に吹かせながら、ハーネストは私の言葉に答える。

 会話の糸口にした手伝いの申し出には、応じてくれなかったけれど。


「本来のあなたの願いは、こういう日常を『二人で』営むことでしょう。けれど、それではダメなのです」

「イデアスがいるから?」

「えぇ。こんな些細なことでも、私は彼に勝っていると思いたいのです」


 洗濯籠を小脇に抱えながら、ひりついた勝負のことをハーネストは口にする。

 それがちぐはぐなようでいて、彼の状態を表しているようでもあった。


「それでどうしたんですか、私に聞きたいことがあるのでしょう」


 イデアスを襲撃する時間は終わったのか、ハーネストは何事もなかったかのように穏やかだ。

 今までも料理とかで忙しかっただろうに、嫌な顔一つせず私がここに来た理由を聞いてくれる。

 だから私も無駄な前置きは飛ばして、本題に入った。


「ずっとここにいますけど、《召喚者》に従わなくていいんですか」


 ハーネストは召喚されてから、ずっとこの家を離れていない。

 それは《召喚者》と会っていないということでもあった。


「何度も言いますが、私はあなたのための《騎士》です。それにイデアスも言っていたでしょうが、《召喚者》はこちらに出てくるきっかけに過ぎません」


 《召喚者》と《契約者》が別であることが稀なんですけどね。

 そう言われてしまえば、返す言葉もない。


「あなたは何も気にしなくていいんですよ」

「っ」


 暖かい大きな手で、頭をぽんと撫でられる。

 そしてその瞬間に、ハーネストの瞳を見てしまった。


(やっぱり、彼は嘘を言っていない)


 本能的に、それが分かってしまう。

 だから同じように、私が思っていることも彼に筒抜けなんだろう。


(悪いけど、視線を外そう)


 これ以上考えを悟られないように、目線を下げる。

 隠し事をしているとばらしたようなものだけれど、それでも今は目を合わせたくなかった。


(これを、望んでいたはずなのに)


 素直に喜べないのは、彼じゃない《騎士》を選んでしまった罪悪感のせいだ。

 《契約者》なら、自分の《騎士》を待つべきだった。

 けれど私は自分の《騎士》が欲しいあまり、ハーネストを待たなかった。


(もう、嫌だな)


 自分の不甲斐なさに、涙がじんわりと滲んでくる。

 けれど人前で泣くのは嫌だったので、歯を食いしばって耐えた。


 すると目線も合わせていないハーネストが、黙って私の頭を撫で始める。


(っ、別のことを考えよう)


 絶対に泣きたくはないので、せめて思考を切り替える。

 最初に思いついたのは、庭で出会った少年のこと。


(予想はハーネストの《召喚者》)


 確証はない、けれど時期的にはちょうど合う。

 それに彼は、私の《騎士》が来ることを私に伝えていた。

 でもそれは予言ではなく、彼が召喚した事実を話しているだけだったと考えた方がしっくりくる。


(だから探す価値はあると思う、ハーネストはそのままにしておけないし)


 そう考え始めると、涙がだんだん引っ込んでくる。

 イデアスのためにも、いつまでもこのままでいたくない。

 私は、彼と契約したのだから。


(探すなら夜だ、こっそり行こう)


 最初は誰かと一緒に行こうと思ったが、確証のないことに巻き込むのはどうかと考えてやめた。

 危険な目に遭う気はないから、見つけたら即撤退だ。






【Side ハーネスト】


「あなた、私がいて不快じゃないんですか」


 何度目かの斬り合いの際に、問いかけてみた。

 この偽物の《騎士》は自分より強く、未だ打ち負かせていない。

 けれど彼が勝つこともまたなく、常に時間切れで勝負は終わりを告げていた。


「ちゃんとは繋がっていないから、君よりはだいぶマシだよ」

「そうでなく、精神的にですよ」


 がん、がんと重い音を鳴らしながら、私は大振りの剣を叩きつける。

 彼のものよりはるかに大きい剣で、その首を力の限り薙ぎ払おうとする。

 けれど彼が、その衝撃に屈することはない。


(全てを巻き込んで叩き潰してしまいたいが、それはできない)


 自分でも分かっている、半分くらいは八つ当たりだ。

 届く範囲も広く、重いおかげで攻撃力も高い刃なのに、イデアスは少しも怯まない。


(私の排除なんて、いつでもできるでしょうに)


 私が彼の立ち位置なら、容赦なく私を排除する。

 それが《騎士》としての正しい動きだし、何より彼にはその力がある。


(彼だって、《騎士》が二人いる違和感を感じているはずだ)


 インフェリカと繋がっていなくても、彼だって長く《騎士》の役目をこなしていた。

 だから主人は違えど《騎士》としての縄張り意識が、体に染みついているだろう。


 けれどその問いに偽物の《騎士》は、否定と肯定の両方を返した。


「思うところがないわけじゃない、でも邪魔者なのは僕だ」

「っ」


 ぱん、と軽い音がして初めて剣が弾かれる。

 激しい動きをしたのでもないのに戦況を変えられるのは、やはり経験の差だろう。

 そして逃げる間もなく、私の首の横に細い剣が添えられた。


「でも君だって、人のこと言えないんじゃないの」

「どういう意味です?」


 それ以上は斬り込まない、けれど剣は退かされない。

 つまりこれは、私が答えるまで逃がさないという彼の意思表示でもあった。


「今、僕を本気で殺そうとしてる?」


 私よりも背の低い彼が、私を見下ろす。

 けれど彼の表情は、影になっていて見ることが叶わなかった。






【Side インフェリカ】


「……よしっ」


 日が暮れてみんなが寝静まるのを待ってから、私は静かに自室の扉を開ける。

 けれどそこには、武装したイデアスが立っていた。


「う、わ!」


 まさか扉の前で誰かが待ち構えているとは思っていなかったので、驚いて飛び上がる。

 対して目の前のイデアスは、やはり待っていて正解だったと一人頷いていた。


「僕もお供するよ」


 一人で夜に出歩くのは危ないからね、と言う彼は咎めるために来たわけじゃないらしい。

 武装は私に対してじゃなくて、外敵に備えるためのようだ。

 けれどそれより、私には気になることがある。


「どうして分かったの」


 イデアスには今夜の計画は何も言っていないし、抜け出す素振りも見せていないはずだ。

 だから、考えが読まれているなんて想像もしなかった。


「あ、もしかしておじいちゃんも同じことしてた?」


 病弱なのに行動的だったおじいちゃんを考えれば、なんら不思議じゃない。

 けれど予想に反して、イデアスは首を横に振った。


「君自身がやりそうだと思ったのが理由だよ。君、一度決めると行動的だよね」

「……そうかも」


 いたずらっ子を見つけたとでもいうように、少し意地悪げにイデアスは笑っている。

 その顔を見ていると、いらないところを分かられた気がして、少し気恥ずかしくなった。

 けれど抜け出しを止められたわけじゃないので、こちらとしても同行を断る理由もない。


「じゃあ、一緒に行こうか」


 どこに、とは聞かずに彼は私についてくる。

 割と無茶なおじいちゃんに従っていただけあって、歩く歩幅を合わせるところも手慣れた様子だった。

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