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2-04 慰めの庭園と温かい食卓






「大丈夫?」

「うん、まあ。一応」


 室内庭園の隅でぐったりしているイデアスの隣に座り込んで、話しかける。

 彼は今、時間を区切ってハーネストに襲撃されていた。


(ハーネストは結局、ここで暮らし始めた)


 私の《騎士》なのだから、当然と言えば当然だ。

 けれどどうにもこの状況に、私もイデアスも混乱している。


(何日か前までは自分の《騎士》がいないって騒いでたのに、今は私の《騎士》が複数いる)


 世の中、本当にうまくいかない。

 ちなみにハーネストは家事が得意で、一夜にして我が家の生命線を掴んでしまった。

 私もイデアスも今まで自分の世話は自分でしていたが、今はそういうものも彼が取り仕切っている。


(イデアスの分までやっているのは意外だったけれど)


 「たいした手間ではないので」の一言で、ハーネストは全ての家事を担っていく。

 例えば、料理とか。


(《騎士》は魔力を与えられれば大丈夫だけれど、《契約者》はどこかから調達する必要がある)


 だからおじいちゃんには薬を作っていたし、私も適当な物を食べて自身の魔力を補完している。

 幼い頃は料理をおじいちゃんが作ってくれたし、私も手伝ったりしていた。

 けど一人になってからは調理する気も起きなくて、未加工のものばかり食べている。


(そう思うと、まともな食事なんて久々だ)


 ましてや温かい食べ物なんて、最後にいつ食べたかも覚えていない。

 けれど今、私の目の前には湯気を立てた食べ物がいくつも並んでいた。


「僕は呼ばなくてもよかったんじゃないの」

「ついでです、一度作るのであればたいした手間ではありませんから」

「……君が良いならいいけど」


 《騎士》も魔力を得られないだけで、食べることは普通にできる。

 だからイデアスも、ハーネストに引き摺られて食卓を囲んでいた。


「では、食べましょうか」

「「いただきます」」


 手を合わせて、まともに椅子に座って、食べ物を飲み込む。

 すると、久々に食べ物から味がした。


「おいしい」

「……だね」

「なら良かったです」


 若干ぎくしゃくしているけど、私が望んだ団欒がここにあった。

 けれどこの食事をする前に、手伝いを申し出たのは断られてしまった。


「私の仕事を奪わないでくださいね」


 柔らかく、けれど決して許可は下さず。


 それに変わったこともあれば、変わらないものもある。

 主に悪い意味で。


(イデアスへの襲撃が、いい例だ)






 家事の合間に、イデアスとハーネストは戦っている。

 命を奪うような行動は私が禁じたので、半分模擬試合のようなものだ。


(停戦には、できなかったけど)


 私とハーネストの間に正しい契約はないので、私の言葉はあくまでお願いだ。

 それに《台本》も渡されていないので、彼への強制権もない。


「あなたの言葉に従いたいのですが、どうしても彼に勝たなければなりません」


 そういってハーネストは今日も、イデアスを追い回している。

 幸いなのはイデアスが、ハーネストに負けるとは思えないこと。


(実力的には、間違いなくイデアスが勝っている)


 戦闘についてはくわしく知らないけれど、私と戦った時よりは動きがはるかに鈍い。

 だから打ち負かしてしまわないのは、彼が負い目を感じているからだろう。


(こんな風になると思わなかったしね)


 私とイデアスの問題は、あの一幕で決したと思っている。

 だから私は、あの日の話を蒸し返さない。


(けれどハーネストに関しては、存在が罰のようなものだ)


 本来いるべき正しき過去が、人の形をとって襲ってくる。

 だからイデアスは、ハーネストを倒せない。

 冗談のような話だけれど、それが現状だった


「反撃とか、しないんだね」


 イデアスは今まで、ハーネストに攻撃していない。

 防衛は行うが、それ以上に彼を傷つけたり、ここから追い出そうとしているのを見たことがない。


「後ろめたいんだよ、これでも。彼の契約を横取りしたわけだからね」


 ぎゅっと膝を抱えながら、イデアスは辛そうな顔をしている。

 元々《契約者》と《騎士》は一対一の関係が前提だから、他者が割り込むことを想定されていない。

 それに関しては散々こじれた後なので、余計身に染みているのだろう。


「君の《騎士》はハーネストで、邪魔したのは僕。それはどうしようもない事実だ」


 膝の間に頭を隠して、もごもごとイデアスはしゃべる。

 けれど本当に問題なのは、そこじゃない。


「それでも、ここに来て彼が現れるなんて」

(そう、今になった理由は私も気になっている)


 少し前なら、容易にハーネストは私の《契約者》になれた。

 けれどイデアスが私の《騎士》になった今、現れる理由が分からない。

 それこそ私がイデアスに襲われていた時に来てくれれば、何の問題もなかったのに。


「どうして今なんだろう」

「本当にね」


 二人して頭をひねっても、何も解決はしない。

 それでも側に来たのは、話すことで少しでもイデアスが楽になればいいと思ったから。


(こういう時、他の人に相談できればいいんだけれど)


 もう頼れる人は、話を聞いてくれる人はいない。

 いや、本当は一人いた。


(今までは、ジェラが話を聞いてくれてた)


 最近会えてない、年下の少年の顔が思い浮かぶ。

 不意に顔を出して、気紛れに去っていく少年。


(今、どうしてるんだろう)


 いなくなってから、また何も知らないのだと実感する。

 あれだけ話しかけてくれたのに、彼が今どこにいるか見当もつかない。


(さすがに愛想尽かされちゃったかな)


 今までの対応を考えれば、当たり前だ。

 話を聞かないどころか、忠告まで無視して動いたのだから。


(でもそれなら、今度は私から会いに行くべきだ)


 一瞬彼が来てくれたら謝ろうと思って、でも途中でそれはダメだと思い直す。

 ジェラは何度も私に会いに来てくれた。


(今更なに、とか言われるかもしれないけどそれは自業自得だ)


 会いにこそ来てはくれるが、彼も私とは別方向に愛想は良くない。

 でも最後まで話を聞いてくれて、なんだかんだ私は悪くないと言ってくれる。


(だからまだ謝ってもいないのに、許してくれる気がしてしまう)


 何度もかけられた言葉達を思い出して、どれだけ甘やかされていたのかを思い知る。

 そして当たり前に受け取ってしまっていた、自分の愚かさが露呈する。


(もう、誰かに甘えるのはやめよう)


 私が何も考えていなかったせいで、何もしなかったせいで。

 みんなみんな、いなくなってしまったのだから。


(変わりたい? ううん、違う。変わらなきゃ)


 イデアスを守って、ジェラに謝って、ハーネストともうまくやって。

 いなくなった人にはもう償えないけど、これからのことはきっとどうにかなるから。


「……がんばろう」


 小さく、誰にも聞こえないように膝の間に頭を抱え込んで呟く。

 だからそんな私を、イデアスが心配そうに見つめていることには気づけなかった。

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