表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/50

2-01 魔力不足と室内庭園






【Side インフェリカ】


「インフェリカ、大丈夫かい? 熱は? 喉は痛めてる?」

「だ、大丈夫だよ。そんなに心配しないでも」


 イデアスと和解した後、私達は一緒に生活し始めた。

 けれどその数日後、私は倒れて意識を失ってしまった。


(見事な魔力不足だ)


 寝台の上でぼんやりした頭が、そう結論づける。

 原因は大規模魔法から引き起こされた、魔力欠乏だ。

 用意があったとはいえ本来なら私が使えるような代物じゃないから、まあ納得しかない。


(戦い抜く事自体に意味があったから、無茶し過ぎたなぁ)


 あの時は本当に死んでもいいと思っていたから、歯止めをかけなかった。

 つまり生き延びた時のことも考えていなかった。


(でも倒れた私より、イデアスの方が動揺してる)


 私が、おじいちゃんと同じ魔力欠乏に陥ったから。

 今回は一時的なものだけれど、イデアスにはかなり深い傷を残したみたいだ。


「本当に寝てれば大丈夫? 君みたいに僕から魔力供給できればいいんだけれど」

「人は襲わないでね」


 思い出す、魔力供給の真似ごと。

 その方法は、何があっても使わないで欲しかった。


「分かっているよ、もうやらない」

「信じてるからね」


 大丈夫だとは思っているけれど、即答が返って来てようやく安心する。

 彼が看病の合間を縫って襲った人達に謝罪しているのは知っていたけど、一抹の不安があった。

 

(完全に消滅した人はいないから、あの人達には許してもらえたみたいだ)


 被害者はもう関わりたくないから、イデアスに許しの言葉を与えただけかもしれない。

 けれど襲撃されたという恐怖は、犯人には癒せない。

 だから、もう会わないようにすることが一番の償いだろう。


 それにそんな方法を取らなくても私は治るのが分かっている、おじいちゃんと違って。


「イデアスが、こうやって世話してくれるのが一番嬉しいよ」


 この言葉は嘘じゃない。

 誰かに大切に世話をしてもらうことは、私が求めていたものの一つだ。

 そしてイデアスもそれが嘘じゃないのが分かったのか、少しだけ安心したように笑った。


「そっか、じゃあそうするよ」


 彼を守らなければならない、《契約者》として。

 彼が誰かを傷つけず、彼がこれ以上傷つかないようにしなければいけない。






 イデアスはあれから甲斐甲斐しく、私の世話を焼いた。

 今までは気づかなかったが、彼は元から世話焼きな性格らしい。


(おじいちゃんにべったりだったのも、それが理由かなあ)


 これまで彼が献身的なのは、おじいちゃんの病気が原因だと思っていた。

 けれど治ることが保証されている私にも、イデアスはしっかりと世話を焼いてくる。


(罪悪感からっていうのもあると思うけど)


 なんであれイデアスが、私のために動いてくれていることが嬉しかった。

 それがどんな意図だったとしても、私にとっては今まで得られなかった好意の形だから。






「いい庭だね」

「ありがとう」


 病が治ってから数日後、私達は家の中にある小さな庭園に来ていた。

 一人で事足りる用事だったから、本当は一人でくる予定だった。

 けれど過保護気味になっているイデアスは、ついていくと言って聞いてくれなかった。


(本当にただの小さな、室内庭園なんだけれどね)


 誰かに見せるつもりもない、飾り気もなにもない部屋の中の庭。

 いっそ実務的と言った方がいいかもしれない。

 ここは、おじいちゃんの薬を作るためだけに作った場所だったから。


(例外は、エンヴィを拾った時かな)


 あの子はぴくりとも動かず、樹の下で倒れていた。

 だから連れ帰って治療して、ここで世話をしていた。


(懐かしいな)


 学園に通う前から一緒にいた、愛しかった小さな獣。

 けれどもういない存在を考えたって仕方ない。

 今考えるべきは、隣にいてくれるイデアスだ。


「あの時は要らないなんて言ってごめん」

「本当に要らなかったんだし、別にいいよ」


 ここがどういう場所か察したイデアスが、頭を下げる。

 そして私は、謝罪を受け入れた。


(謝って欲しくて連れてきたわけじゃないし)


 あの時は確かに傷ついた、けれどもう気にしてはいないのも事実だ。

 けれどそこまで説明しても、イデアスは首を横に振る。


「いや、アドールは君を恋しがっていた。薬は必要だったよ」


 身体的な傷に必要なくとも、心が欲しがっていた。

 そう、イデアスは言いたいのだろう。

 でも。


「もう過ぎたことだから」

「そう、だね」


 本当に、責めてるわけじゃなかった。

 けれどきっと、イデアスには伝わっていない。

 私の言い方にも問題があるのだろう、けれど根本的には。


(イデアスは、本当の私の《騎士》じゃないから)


 どうやっても覆らない制約を、私達は抱えている。

 だからイデアスには、私の気持ちをそのまま伝えられない。

 辛そうにしている彼を、楽にしてあげられない。


(言葉だけなら、どうとでも言えるから)


 せめて、何か形になるものが欲しい。

 イデアスを少しでも安心させられる、形のあるものが。


(……あ)


 そして目に入ったのは、花壇に置かれたまま使われなかった薬。

 行き先を失った、小さな小瓶。


「これ、あげるよ。非常時に使えると思う」

「え、いいのかい」


 置き去りにされていたそれを、イデアスの手に乗せる。

 魔力で生成されている薬は、《騎士》の彼にも有用のはずだ。


「ちゃんとしたのは近いうちに作るよ、だからそれまでの繋ぎ。おじいちゃんの余りで悪いけど」

「いや、ありがとう。いざと言う時は使わせてもらうね」


 小瓶を受け取ったイデアスは、両手で小さなそれを包み込む。

 ずっと申しわけなさそうだった表情が少しだけ緩むのを見て、私までほっとした。


 そして私はようやく、ここに来た目的を思い出す。


「そうだ、早く魔力を補填しないと」


 今までは、イデアスがおじいちゃんから魔力を受け取っていたから必要なかった。

 けれどこれからは、私がそれを行わなくてならない。


「アドールにしていたのと同じ方法かい?」

「うん、ちょっと待ってて」


 傷のない花をいくつか選んで摘み取って、刻んで水と混ぜる。

 できた液体をろ紙に通して、不純物を取り除いて抽出する。

 イデアスは私の行動を、不思議そうに眺めていた。


(おじいちゃんの為に作っていたから、すぐ作れる)


 おじいちゃんの魔力で構成されているイデアスなら、薬との相性は考えなくていい。

 私とおじいちゃんは同じ魔力を持っているわけじゃないから、最初は調整が必要だったけれど。


(本来《騎士》は召喚した時に、《契約者》と魔力で繋がれる)


 けれど私達は正規の契約じゃないから、魔力も何も繋がっていない。

 逆に言えば、だからあんな命がけの戦いができたのだけれど。


(契約で繋がっていると、魔力損傷が相手に伝わってしまう)


 普通に戦うくらいなら問題ないけれど、死闘になる場合は魔力が枯渇して共倒れになる可能性もある。

 現にイデアスと繋がっていたおじいちゃんは、前回の戦いに耐えきれなかった。


(もう意識もほとんどなかった、優しいおじいちゃん)


 ふと思い出す。

 ずいぶん前から話してもいない、けれど大切だった祖父。

 意識があった時は不自由な体を動かしながら、幼い私の世話をしてくれていた。


(だから私は、おじいちゃんの薬を作り始めたんだ)


 やつれていくおじいちゃんに何とか報いたいと願ったのが、最初の行動理由だった。

 何度も何度も失敗を重ねながら、それでも形にできた私の感謝。


(今思えば、私とおじいちゃんは奇妙な共同生活を送っていた)


 物心ついた時からおじいちゃんと一緒に暮らしていたから不思議に思わなかった。

 けれどそれこそ《騎士》じゃない私を、おじいちゃんはずっと面倒見てくれていた。


(おじいちゃんの墓標は中庭に作った、何があるわけでもないけれど)


 おじいちゃんは魔力になって消えてしまったから、正直別れた感覚がない。

 何度も寝台にいないのは確認しているのに、まだどこかにはいる気がしていた。


(泣く機会を逃してしまった感じがする)


 無理に涙を流す必要もないけれど、自分がずいぶん薄情に思えてくる。

 私が転んで怪我をしたり、食べれるものが増えただけで表情を変えていたおじいちゃんを思い出すと、余計にそう感じてしまう。


(イデアスは逆に、もう十分に悲しんだと切り替えているし)


 ちらりと見やった彼こそ深く沈むと思っていたけれど、実際はそんなことなかった。

 本当かどうか分からないけれど、彼が苦しんでいないならそれでいいと思っているけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ