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1-16 望みとは違う終わり

 短剣に貫かれたイデアスは、しばらく私を見つめていた。

 今までで一番真っ直ぐ、ただ私だけを。

 そしてしばらくの後、彼は驚きに目を見開いた。


「本当だ、全然違うね。あんなにそっくりだと思ってたのに」


 今更それに気づいたらしいイデアスは、おじいちゃんに顔を向ける。

 おじいちゃんは車椅子の上で目を瞑っていて、少しも身動きをしない。

 もう、とっくに限界だったのだろう。


「君の言う通りだったね、全然分からなかった」


 イデアスは、再び私に目を向ける。

 けれど彼の目に既に敵意はなく、代わりに残っていたのは悔恨だった。


「ごめんね、気づけなくて」


 そう言いながら、イデアスが私に向かって手を伸ばす。

 今度はそれを、私は避けなかった。


(さっきまでの害意は、もうないから)


 私を殺したいという脅威も、もう感じられなかった。

 だからただ、近づいてくる指先を眺めていた。


(……あ)


 けれど指は私に届く前に力尽きて、地に落ちた。

 イデアスが床に倒れ、魔力に還っていく。

 さらさらと。自らの《騎士》と運命を共にする、おじいちゃんと同じように。



「………………やった、イデアスを倒した。あなたのおかげです!」



 しばらくの間の後に実感できた、勝利の喜びに飛び上がる。

 イデアスを倒すことは、私の短い人生の中ではかなり大きな目的だったから。


(おじいちゃんまでいなくなってしまったのは、辛いけど)


 結局助けられなかった、最後まで言葉を交わせなかった家族。

 けれどもう、それを理由に落ち込むのはやめようと決めていた。

 そんなことをしてもおじいちゃんは喜ばないだろうし、


(これで私は、デフェンドさんと一緒にいれる!)


 もしこの戦いに勝てたら私は、デフェンドさんに正式な契約を申し込もうと思っていた。

 今までは作戦に支障が出たら嫌だから言わなかったけど、イデアスを倒した今ならもう問題ない。


(グリーフさんの時は考え過ぎて、手遅れになってしまったから)


 今でも後悔する、もっと早く手を取るべきだったと。

 けれどもう、彼は戻らない。


 それにきっと、デフェンドさんはこの話しを受けてくれる。


(今まで、私に協力してくれたから)


 だからきっと、大丈夫。

 根拠はないけれど、短くとも今まで一緒にいてくれた信頼からそう思う。

 だから嬉しさのまま、私は振り向いた。

 けれどそこにいたのは。



「なんで消えかけてるんですか、問題ないって言ったのに」



 薄ぼんやりとした姿のデフェンドさんが、床に膝をついていた。

 問わなくても分かる、彼は魔力がなくなって消滅しかけている。


「お前が守れれば問題なかろう、元々そういう繋がりのはずだ」


 紳士はそう言いながらも、顔を私に向けない。

 だから表情も分からなかったし、真意も分からなかった。

 けれど彼の言葉を聞いて、遅れて理解してしまう。


「これでやっと約束を果たせそうだ」


 誰との約束だなんて聞かないでも分かる、前の《契約者》さんだ。

 そしてそれを理解した瞬間に襲ってきたのは、再び一人にされる恐怖。


「あの人のところに行くんですか」

「そうだ」


 一縷の望みをかけて聞いてみるも、否定されない。

 それどころか、これ以上ない簡潔さで肯定される。

 そして彼の言葉から、私は謎が一つ解けてしまった。


(だからデフェンドさんは、私に手を貸してくれたんだ)


 《騎士》は魔力で、できている。

 魔力を与える《契約者》がいなくなっても存在する理由は、そう多くない。


(前の《契約者》さんが死ぬ前に、デフェンドさんに全ての魔力を与えたんだ)


 推測の域を出ないけれど、仲が良さそうだった彼らの関係性を考えれば充分にありえる。

 《騎士》に生きていて欲しいから、死ぬ前に自らが持つ魔力を全て譲渡した。

 そうすれば《騎士》は《契約者》がいなくても、しばらく存在できる。


(でもきっと、デフェンドさんはその状態に耐えられなかった)


 イデアスを見ていても分かる、《騎士》にとって《契約者》がいないのは死ぬよりも辛い状態だ。

 だから彼は戦いによって魔力を消費するという、自殺のような手口を取ったのだろう。

 私を、利用して。


(そして今、この戦いによって魔力が完全に底をついた)


 やっと、彼の真意が分かった。

 けれど私にそれが受け止められるかは、別問題だった。


「やだ! 行かないでください! 私、あなたに私の《騎士》になって欲しいんです!」


 今までで一番大きな声が出る。

 それこそ、今までの命のやり取りの中で搾り出した声よりも。


「お願い、私を一人にしないで!」


 さっきの喜びから一転して惨めに、無様に。

 こんな大きな声なんて出したことなんてないから、ひきつったような音しか出ない。


(それでも構わない、彼を引き止められるなら)


 私の、多分生まれて初めてした本気の懇願。

 きっと他の人から見たらとても惨めだと思う。

 けれどそんなの、気にする気にはなれなかった。


(だって初めてだ、こんなに誰かと一緒に行動したのは)


 時間としては、恐らくグリーフよりも短い。

 けれどその密度は今まで生きていた時間の中では、最も濃いはずだ。


(共に在るべきはずの《騎士》は、そう在ってくれなかったから)


 だからデフェンドさんに対する私の感情は、今まで関わった人に向けたものでは最も強かった。

 けれど、それでも彼は止められない。


「ダメだ」

「どうして」


 涙すら頬に伝い、感情が高まりすぎて吐き気が襲う。

 けれど、それでも願いは叶えられない。


「俺もまた、お前の《騎士》ではないからだ」


 彼が口にしたのは、当たり前のこと。

 けれど、一番認めたくないことでもあった。


「一時的に力は貸したが、本来の《契約者》はあれ一人。あの《騎士》には偉そうに言ったが、結局俺も《騎士》の欲望から逃れられなかった」


 元々無理をしていたのだろう。

 苦痛に歪んで、それでも私にそれを悟らせないとしていたデフェンドさんの顔。

 けれどそれは私の表情を見て、崩れ去ってしまった。


(そんな顔をさせたかったわけじゃないのに)


 自分の感情に任せて責めてしまったことを、今になって後悔する。

 けれどもう、出してしまった言葉は取り消せない。


「せめて、これをやろう」

「……銃?」


 どうしようもなくなっている私を見かねたのか、デフェンドさんが震える手で鉄の塊を私に手渡した。

 それは私の今の心のように重く手にのしかかり、存在感を主張する。


「お前の先は長い。きっと役に立つ」


 もう存在を保つことも精一杯なのか、彼の目はもう焦点が合っていない。

 けれど少しずれていながらも、こちらに向いて語りかけてくる。


 そして彼の目を見た瞬間に、何かから醒めた気がした。


「最後まで一緒に居てやれず、すまない」


 謝って欲しいわけじゃないの、一緒にいてほしいの。

 ただあの日見た人達のように、隣にいて欲しいの。


 消え行く紳士に、ぶつけるようにして言葉を伝える。

 けれどもう、誰も残ってはいない。



 残ったのは、私一人だから。

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