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1-14 正義を我が手に






 戦いの場に選んだのは、廃棄された植物園だった。

 ここなら市街地から遠い場所にあって、戦っても他に被害は起こりにくいから。


「待たせたね」


 待ち合わせた時間通りに、車椅子を押したイデアスが現れる。

 そこには、未だ昏睡状態のおじいちゃんが乗せられていた。


「やっぱり、おじいちゃんに戦わせる気?」


 おじいちゃんを連れてきたイデアスに、責めるような声が出る。

 想定していたとはいえ、どのような形であってもおじいちゃんに負担はかけたくなかった。

 けれどイデアスは私の言葉に、呆れて鼻を鳴らしただけだった。


「アドールには少し魔力を借りるだけだ、無茶はさせない」


 ねぇ、とおじいちゃんに問いかけるイデアスの表情はどこまでも優しい。

 きっとあれが、彼の本来の姿だ。

 《召喚者》には向けられない、正しい《騎士》の姿。


「けれど魔力量においては一流だよ。君は知っているだろうけどね」

「まあな」


 イデアスに問いかけられたデフェンドさんは、あっさりと同意した。

 もしかしたら彼らは、過去に戦ったことがあるのかもしれない。



「さあ、戦おう! 僕らの欲しいもののために!」



 そして、剣戟で戦いが始まった。

 イデアスは機敏に動いて攻撃し、反対にデフェンドさんはその場に留まって迎撃する。


「《時よ戻れ、美しき世界への道筋を示せ》!」

(さっそく、魔法を使ってきた!)


 イデアスの詠唱が終わると同時に、デフェンドさんの動きが鈍る。

 彼も自身の魔力で抵抗してはいる、けれど動きの差はそれ以外でも左右されていた。


「君はずいぶん年をとったね」

「この世界で普通に生きれば当然だ」


 やはり肉体年齢からも動きの違いは出ているらしい。

 であれば、こちらが不利だ。

 さらに彼は、私というお荷物を背負っているのだから。


「僕達は《騎士》だ、《契約者》もいない時に一人で年をとるなんておかしい」

「お前は《舞台裏》に戻ってしまったからな、分からんだろう」


 戦いながら彼らは、私には良く分からない会話をしている。

 けれどその間も、動きは止まらない。


「どうせお前の戦いは、まだ終わっていないんだろう」

「終わったつもりだったよ。けど、アドールが生きていたから」


 剣を振る隙間から、イデアスの目が私を捉えたのが分かる。

 私は今、戦いの邪魔にならない離れた場所にいた。


(イデアスが本気になれば、すぐに首を取られる)


 ただの《召喚者》である私と、《騎士》である彼の身体能力は比べるのも馬鹿らしいくらいかけ離れている。

 けれどイデアスは私をすぐには襲おうとせず、デフェンドさんのみを攻撃していた。


「君の方は本当に終わってしまったのかい」


 戦いの最中、イデアスがデフェンドさんに問う。

 もしかしたら、精神攻撃を狙っているのかもしれない。

 けれどデフェンドさんは、淀みなく肯定した。


「ああ、俺の《契約者》は死んだ。その時から魔法も使えない」

「それは可哀想に」


 片割れを失った痛みは分かるのだろう、イデアスは本気で痛ましい表情をする。

 けれど剣裁きは少しも緩まない。

 デフェンドさんも、同じく動きに乱れは出なかった。


「だが生きていても同じ。《契約者》を変えたのなら、それが今の主人だ」


 今まで防戦だったデフェンドさんが、一歩前に踏み出す。

 すると平行線が交わるように、戦況が変化した。


「答えろ、お前の《契約者》はインフェリカではないな」


 デフェンドさんが剣に乗せた、私の代弁。

 この戦いの根源でもある、こじれの原因。

 イデアスはその言葉をもって、ついに彼は白状した。


「そう、当たり。もう彼女も分かってると思うけどさ、僕はアドールの《騎士》だ。彼女は《召喚者》にすぎない」


 もはや隠されない邪悪な笑みを、イデアスは浮かべる。

 それは曝け出された、彼の真意でもあった。


「彼女を媒介にして、アドールを復活させるんだ。召喚はしてくれたから、それまで守ろうとは思ってたけど」

(あぁ、やっぱり)


 分かっていたことだけれど、改めて口に出されるとやっぱり辛い。

 これで希望は、一切なくなってしまった。


「アドールに似た彼女に侍るのもいいけど、選べるなら僕はアドールがいい」


 どこまでいってもイデアスにとって、私はおじいちゃんの代替品でしかない。

 その真実が今、鋭さを増して私を切り刻む。


(けれど、それで終わりにはできない)


 ここで終わらせないために、私はこの戦いに乗った。

 これからを、生きるために。


 デフェンドさんが、そんな私を肯定してくれる。


「インフェリカ、気にするな。あの男はやめて正解だ」

「ずいぶんな言いようだね、けれど君の方こそ不義じゃないの。後から彼女に仕えてる」


 イデアスが、再びデフェンドさんに顔を戻す。

 笑みが消えて、今度は真顔になる。


「以前の契約は切れた、前の《契約者》とはそこでおしまいだ」

「薄情だね」


 何度目かの、剣同士が打ちつけられる音。

 けれどついにデフェンドさんが衝撃に負けて、剣で打たれる度に後ずさった。


「前の《契約者》を忘れたわけではない、未だ一番深い傷だ。だからお前が過去に執着するのは分かる」

「なら!」


 同意を求めて、イデアスはさらに剣でデフェンドさんを殴りつける。

 全盛期じゃないデフェンドさんの体力は、もうほとんど残っていないのかもしれない。

 けれど彼は沈められた体勢から、再び攻勢へと移した。


「だがそのために、今の《契約者》を傷つけるのは間違いだ!」


 ガンッ! とより一層大きな音を立てて、デフェンドさんがイデアスの剣を打ちつける。

 すると彼はデフェンドさんが限界だと思っていたのだろう、動きが一瞬遅れた。


「僕には分からないよ、僕の主人は今も昔もアドールただ一人だから!」


 吐き出す息と共に、イデアスは吠え猛る。

 けれどそれは悲鳴のようにも聞こえて、思わず耳を塞ぎたくなった。


「行き過ぎた忠誠心だな」

「そうだね。だからこれ以上、話し合いの必要もない」


 デフェンドさんへ向けて魔法を使おうと、イデアスが魔力を練り上げる。

 これはおじいちゃんの部屋で見たものと同じならば、時を止めたり、遅くするものだ。

 魔法をかけられてしまえば、勝敗なんか一瞬でつく。


「これで終わりだ!」

「終わりはお前だ」


 デフェンドさんの言葉が終わると同時に、攻勢をかけていたはずのイデアスが不意打ちを喰らった。

 彼はじろりと攻撃が行なわれた先を見るが、驚きに目を見開く。


「忘れたか、俺の戦い方を」


 これは私の知らない、デフェンドさんのかつての戦い方だ。

 反対にイデアスは知ってるのだろう、けれど私を甘く見ている故に到達できなかった。


「俺の戦いは、補助が本領だ」


 デフェンドさんが攻撃するのじゃなくて、攻撃する私を彼が守るやり方なんて。

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