つまずき
ついに顔合わせ当日を迎えた──。
「お忙しいとこ集まって頂きありがとうございます。初めましての方もいますが今回脚本と演出を担当します落合広樹です。早速顔合わせを初めて行きたいと思うのでお名前と意気込みを1言ずつお願いします。まず、大夢から順番に行こうか。」
顔合わせ開始時間になると落合が言う。
「エリス役やらせていただきます。羽柴大夢です。まほプリが初の舞台化で責任感や緊張感はすごくありますが俺が次期皇帝陛下になるので立派に役目を果たします!よろしくお願いします!」
大夢が言う。
「ジャン役の蛍原コウです。自分とは一見少し離れたキャラクターかなと思ったのですがいたずら好きなとこと似てる部分もあるので僕にしかできないジャンの味を出していけたらと思います!そして、俺こそが次期皇帝陛下になるのでよろしくお願いします!」
大夢と目線を合わせながらコウが言う。
「第3王子のゲルティを演じさせて頂きます星野拓真です。大夢君同様初の舞台化で緊張や責任感などもありますがコメディ作品なので取る笑いはしっかり取っていきます。あと、流れ的にやらなきゃ行けない雰囲気なので……。」
拓真がそう言うと大夢とコウはニヤニヤしながら拓真の顔を見る。
「いやいや、俺こそが次期皇帝陛下になるのだ!よろしくお願いします。」
拓真が言う。
ついに優斗の順番が回ってきた。
「ニコルスキーを演じさせて頂きます。明光優斗です。僕、自身今回が初の舞台でとても緊張しておりますが皆さんにしっかり食らいつきながらニコラスキーに向き合いたいと思います。よろしくお願いします!あと、僕も言っていいですか……?」
優斗がそう言うと「どうぞ」とニコニコしながら大夢とコウと拓真が優斗のことを覗く。
「いやいやいや、俺こそが次期皇帝陛下になります……。!」
優斗がそう言うと
「よくぞ言った弟よー!」
大夢が言う。
そのやり取りを落合が微笑ましそうに見る。
「エドウィン役の田口圭です。一家の大黒柱として皆のことを支えて行きます。よろしくお願いします。」
田口が言う。
「アマミー役の藤山奈々です。王子だけではなく私は座組の母として皆さんのことを支えていけるよう精進します。よろしくお願いします。」
藤山が言う。
「ドニー役の末永諒です。王子たちと国をかき乱すして行きたいと思います!よろしくお願いします。」
諒が言う。
「1周回ったとこで早速読み合わせをしていこうと思う。」
落合がそう言いながら台本を渡していく。
優斗は渡された台本を覗いていく。
さっく読みそく読み合わせがはじまる。
「落合さん俺の1番最初のセリフ空欄なんですけど!」
大夢が言う。
「1番最初のセリフなんだけど日替わりでいい感じに魔法のネタを入れて次の皇帝陛下と王妃のセリフにつながるように王子皆で考えてくれ。」
落合は王子役4人を見ながら言う。
「「はい!」」
四人は返事をした。
数時間後――。
「とりあえず、今日はここまで。全体的にはテンポがいい感じだからあとは笑いがとっていけるように日替わりシーンをしっかりと話し合ってくれ。」
落合がそういうと今日の顔合わせが終了する。
「優斗少しいいか?」
優斗が落合に呼ばれる。
「大丈夫です。何ですか?」
「初めてにしては頑張ってるのはよく伝わってるんだが台本に書いてある文を丁寧に読んでいるだけのように感じる時が多々ある。ニコルスキーが今、どういう心境なのかどういう状況なのかを考えながら台本を読んでみろ。そうするとどんどん言葉に気持ちが乗り、表情も徐々についてくると思うぞ。」
落合が優斗にアドバイスをする。
「落合さん、ありがとうございます!やってみます!」
優斗が言う。
「優斗!皆でご飯行くけど優斗も来るかー?」
大夢が言う。
「いいんですか!?行きます!」
目を輝かせながら優斗が言う。
優斗と大夢とコウと拓真の4人は稽古場の近くのファミレスに来ていた。
「なんでファミレスなんだよ……。」
「じゃんけんで負けたからだろ」
不満そうに言う拓真にドヤ顔で大夢は言う。
「それに俺優しさの塊だから優斗が唐揚げ、コウがハンバーグ、拓真はカレーってバラバラなもの言うから全部食べれるファミレス選んだだろ!」
仁王立ちしながら大夢が言う。
「俺はインドカレーのことを言ったんだよ!てか、そのドヤ顔腹立つわ!」
前のめりに拓真が言う。
「もぉー、拓真くんはわがままでちゅね!」
笑いながら大夢が言う。
「ねね、優斗かひろむん僕の唐揚げ分けてあげるから唐揚げちょうだい。」
コウが可愛く首をコテンとしながらねだる。
それを聞いた大夢がニヤニヤしながら「ほい」とコウのご飯の上に唐揚げを乗せる。
「ひろむん、ありがとう!」
目が輝いた笑顔でコウは大夢にお礼を言う。
「どういたしまして」
大夢が言う。そして、ニヤニヤしながら拓真の方をみて拓真のカレーの上にも唐揚げを乗せる。
「俺の方が役でも実年齢もお兄様だから拓真君にもあげるね!」
拓真の顔を覗き込みながら大夢が言う。
「俺、欲しいって言ってないんだけど…。」
拓真が言う。
「僕も!僕も!」
そう言いながら優斗と拓真のご飯の上にハンバーグを乗せていく。
「まあ、いいや……。ありがとうございます。お兄様方。」
諦めたような照れ臭そうな顔で拓真が言う。
「俺までいいの?」
優斗が言う。
「僕、お兄ちゃんだから優君にもあげる!」
コウが誇らしげに言う。
「じゃあ、俺も……。」
拓真がカレーの上に乗ってたカツを優斗のご飯に乗せる。
「拓真君まで……。ありがとうございます!」
優斗が目を輝かせながら言う。
「「どういたしまして!」」
コウと拓真が言う。
「優斗、いい兄様を持ってよかったな!」
大夢がしみじみと言う。
そうして楽しい食事が終わる──。
稽古が本格的に始まる。
「最初のアドリブシーン何個か考えたので見てもらってもいいですか。」
大夢が落合に言う。
「これ全部実際にやってみろ。」
台詞の書いてある無数の中からいくつかピックアップして落合は大夢に渡す。
王子役4人が演じる。
「どうですか?」
大夢が聞く。
「出だしは面白いが後半もう少しテンポ感を上げてみてくれ。あと、優斗はまだニコルスキーとの距離が開いてるな。ニコルスキーの解釈をもっと深めろ。」
落合が言う。
「はい!」
優斗が言う。
「お疲れ様でした!」
その日の稽古が終わる。
その日の夜、優斗は家で台本とアニメを見ながら役への解釈を深めていた。
「ニコルスキーって控えめっていうかマイナス思考っていうかなんか他の兄弟に劣等感を持っている感じがするな。でも、足手まといになりたくないって気持ちは俺と一緒かも。」
ニコルスキーへの愛着がわきはじめる。
そして、また別の稽古日――。
アドリブシーンの稽古中。
「優斗、もう少しリアクション大きくしてもらえるか?もう一度。」
落合が言う。
「すみません。お願いします。」
優斗が言う。
「優斗、ニコルスキーは確かにそんなぐいぐい前に出るキャラクターじゃないが今のだと後ろにいすぎてるからもう半歩くらい前のめり出てこい。じゃあ次のシーン」
落合が言う。
「すみません。ありがとうございます。」
優斗が言う。
「俺のせいで何度も同じシーンばっかりすみません。」
優斗が王子役の3人に言う。
「いや、気にするな!アドリブシーンは慣れないと難しいもんな!」
大夢が言う。
「そうそう!それにこれは優斗だけのせいじゃないよ!」
コウが言う。
「その通りだ。あとでまた練習しよう!」
拓真が優斗の頭を撫でながら言う。
「「賛成!」」
大夢とコウが言う。
そして、その日の夜ニコルスキーに似ている大夢が出演している舞台の映像を見ていた。
「アドリブシーンは少ないけど見ないよりましだし……。」
優斗は参考にする為に必死映像に食いつく。
そして、また別の稽古日――。
「なんか優君テンポ変わった?」
コウが言う。
「やりづらいかな?」
優斗が恐る恐る聞く。
「僕もまだ慣れてないからいろいろ試して模索してこ!」
コウが言う。
「そうだな。」
拓真が言う。。
大夢が不思議そうな顔をしている。
「ひろむん!今日もあとでアドリブシーンの練習しよ!」
コウが言う。
「もちろん!」
大夢が言う。
「優斗ちょっといいか?」
落合に呼び出される。
「はい!」
優斗が返事をする。
「今日のテンポ今までの中で一番よかった。」
落合がいう。
「本当ですか!」
「ああ。間違ってたらすまない。あれ大夢の真似か?もちろん真似をすることで自分のものにできることもあるんだが……。」
落合が複雑そうな顔しながら言う。
「落合さん言う通り、大夢君が過去に出てた舞台の映像を見て見よう見真似でやりました。」
優斗が正直言う。
「きついことを言うが優斗、もちろん誰かの演技を見て勉強をすることは必要不可欠だが、お前共演者の顔色を芝居をするたびに伺っているだろう?特に大夢のな。、芝居を誰に見るためにやるかを忘れてはいけない。お前は誰に芝居を見せるんだ?」
落合が問いかける。
「観客です。」
優斗が答える。
「そうだろ。だから仲間に迷惑とかいちいち顔色伺うな。そういうとこニコルスキーとリンクしてる部分もあるから最初から表現がうまい部分だがあと、大夢の演技を真似るのもいいが自分なりの味を入れろ。大夢を意識しすぎて自分らしい芝居を探す努力をしないと埋もれるぞ。」
落合が言う。
「ありがとうございます。」
優斗が言う。そして、頭の中に最後の落合の言葉が引っかかる。
そのあと、曲がり角からひょっこり大夢が顔を出す。
「やっぱり、落合さんも思いましたか?」
大夢が言う。
「聞いてたのか?盗み聞きなんて珍しく質が悪いことするな?」
落合が言う。
「優斗が心配でね。で、どう思います?」
大夢が言う。
「さっき優斗に話した通りだよ。大夢が昔やってた演技そっくり。見よう見まねでできるのは大したもんだがあのままだと埋もれる。」
落合が言う。
「でも、自分の演技をつかみ始めた優斗きっとすごい気がするんですよね。なんか今日のあれを見たらそんな気がしました。」
大夢が目を輝かせて言う。
「大夢がそんなこと言うなんて珍しいな。お前も抜かされないように成長し続けろよ」
大夢の肩を叩きながら落合が言う。
「当たり前ですよ!」
大夢が言う。
稽古終わりに落合に言われたことどうしたらもっと自分らしいニコルスキーが演じられるのかを公園で優斗は考えていた。ブランコに乗りながらゆらゆらと考えていると大夢がやってくる。
「こんな時間にブランコとか青春だな!」
ブランコに乗りながら大夢が言う。
「大夢君どうしてここに?」
優斗が驚きながら言う。
「ちょっと遠回りしたい気分だったから公園通ったら美少年がブランコで黄昏れてたから隣に座ってみた。」
笑いながら大夢が言う。
「何かYouTubeの動画にありそうだし、大夢君の方が圧倒的に美少年だよ。」
笑いながら優斗が言う。
「座ってみたって動画か?シュール過ぎだろ!」
大夢が言う。
「ごめん、少し嘘。本当は優斗が心配でご飯に誘おうとしてたら今日の優斗帰るの早くて慌てて後をつけて来た。落合監督に言われたこと気にしてるよな?ごめんな。聞こえてきて……。」
心配そうに大夢が言う。
「大丈夫……。心配してくれありがとう!落合さんに言われたことも気にしてないわけじゃないけど何よりも自分に腹が立つっていうかどうしたら自分が変われるのかって言うか……。」
もどかしそうに優斗が言う。
「そっかー、唐突なんだけど俺の役者を目指したきっかけを話してもいい?」
大夢が少し俯きながら言う。
「逆に俺が聞いてもいいの?」
優斗がきょとんとした表情で言う。
「俺が話してもいいかって聞いたんだから言いに決まってんだろ!」
大夢が言う。
「じゃあお言葉に甘えて……。」
優斗が言うと大夢が頷く――。