ボストンの記憶
気が付くと、僕は校庭を見ながらじっとりと汗をかいていた。どうやら割と長い時間が過ぎていたようだ。食べ終えたモナカアイスの袋をポケットに入れて、また裏通りを歩き始めた。日はまだ高く、まだまだ沈む気配は無さそうだ。
長い裏通りを歩いていると古い文房具屋があり、自販機が設置されていたのでジュースを買った。古びた自販機で、脚の部分には蜘蛛の巣が張っていた。ジュースを飲みながらぶらぶらと裏通りを歩いていると、久々に自由な気持ちになった。
こんな風に目的もなく街を歩き回るのって、いつ以来だろうか。
そういえば、と僕は思った。
蘇って来たのは高校生の時にホームステイで訪れた、ボストンの記憶だった。
あの夏、僕はただ目的もなくボストンの街を歩き回っていた。アメリカで最も歴史のある街だ。親の勧めでホームステイに来たのはいいけれど、実際は寮暮らしで、同室の外国人はいつもどこかへ遊びに行っていて不在だった。僕は一応、語学学校に入って英語の授業は受けていたけれど、持ち前の人見知りを発揮してしまったせいで外国人の友達など出来るはずもなく、土日になると予定は何もなかった。
ヒマだった。信じられないほどヒマだった。
だから僕は朝からただひたすらに歩いていた。ボストンの赤レンガの建物の間を。
あの夏、NBAのボストンセルティックスが20何年かぶりに優勝した直後だったので、街はお祝いムードに包まれていた。僕は目についたスポーツ用品店に寄って、優勝の記念キャップを買った。
ボストンのBIG3と呼ばれたスター選手の中で、僕はレイアレンという選手が大好きだった。彼の3ポイントシュートは、いつも無駄のない美しい軌道を描いてゴールに吸い込まれて行った。そのフォームは、まるで機械のように正確だった。現在のNBAを代表するスーパースターであるステフェンカリーが現れるまで、彼は史上最高のシューターと呼ばれていた。今年のシーズンで、カリーは彼の通算3ポイントの記録を更新するのだろうか。
ボストンの大通りは車も多く、どこまでも真っすぐに続いているように思えた。僕は歩き疲れると、目についたダンキンドーナツに入ってドーナツを頬張った。そして回復すると、僕はまた歩いた。どこまでも続くボストンの街並みを。歩き疲れて寮に戻ってくる頃には、日はもう暮れかけていた。
ボストンの街には、歴史と趣きがあった。ただ、それを堪能できるほど、当時の僕には心の余裕がなかった。僕はその時異国の地で、ただ一人、孤独を感じていた。だから僕はひたすらに歩いていたのかも知れない。自分が孤独であることを、少しの間だけでもいいから忘れてしまうために。