第39話 苦戦
「ちょお、おま、ウソでヒェっ!!」
ただいまアンフィスバエナに絶賛苦戦中だ。遡ること数分前、意気揚々と鉄球をコロリンしたリンが思わぬ距離から攻撃を受けたのがケチのつけ始めだった。
奴の触手、あり得ないくらい伸びる。それはリンの鉄球と同じ範囲、70~80m。ここまで遠いとリンの鉄球は威力が落ちる。俺が抱えて移動することでリンの機動力の無さを補い、俺のリーチの短さをリンが補うというギリギリの戦いだ。あまり近寄れない。
敵の触手が直線的な動きでしか伸びないのは救いだが、このまま足を使い続けてはこっちが参ってしまう。あとだいぶリンが酔って来てる気がする。息が荒いもの。
「もう、ちょっと、揺れを ぅふ」
うん、かなりまずい状態だ。相手の射程外まで放り投げるか? いや、俺も危ない。徐々に後退するが、後退したぶん詰め寄ってくる。不本意だがこのままだと押し敗ける。やるしかない。
「おもいっきり、なげる とんで、てったい」
「エふふぇるらめぇ」
「もりに、にげて しゃせん、ふさぐ」
なにがダメってリンの状態が一番ダメだ。俺もこのまま全力で戦えるわけじゃない。レンジが違う敵だが森に入れば木や岩が武器になる。接近を許さなければ敵の毒を受けることも無い。それに街中と違い人がいないから投石を外しても被害は無い。戦闘とは自分の得意を相手に押し付ける事とみつけたり。
「せいっ!」
「にゃあぁぁぁぁぁ!!!」
盛大な悲鳴が遠のいていく。リンちゃんは飛行魔法が得意だから問題ないはずだ。大丈夫だよな? ここで二人ともやられるよりはいいだろう、と思った瞬間左わき腹にちくりと痛みが走る。アンフィスバエナ侮りがたし。というか自分でも相手の隙を狙うからしょうがない。それにしても見た目と違って痛みが小さい。
「まひ、どく?」
嫌な感じだ。わき腹がじんじんと脈打つようにしびれてきている。左手で触れてみても感触が無い。あの触手、リーチが長いだけじゃなく麻痺毒まで持っている。まずくないか?
とにかく森に逃げ込み、相手が攻撃し難いよう足を使う。幸いお腹の辺りまでじんわりしているが走るのにそこまで影響はない。
しかし、一番の問題は積もった雪だ。すごく走りにくい。凍っているからそこまで沈みこまないが力をこめると踏み抜いてしまう。さらにあれなのは石が拾えない。
雪、嫌いだ。木々のおかげで触手攻撃が減ったのは助かるが、こっちは攻撃できないのだから厄介だ。俺の唯一の遠距離攻撃がつかえない…
たつなやみちるならすごく有利だったに違いない。とにかく何かしなければジリ貧だ。とりあえずまっすぐな木の枝を折って投げる。しかし、触手に阻まれて奴の体まで届かない。もっと重い物が必要だ。
あれ、リンの鉄球… あれ最適じゃないか。投げ飛ばす前に貰っておけばよかった。
「りん、きこえる?」
無線で呼びかけてみる。150mは届く無線なのだが反応は無い。…死んだ?
いや、緊急で投げたから無線機が飛んで行ったと考える方が妥当だろう。こうなってしまっては他の物を探すほかない。考えつくのは住宅の中の生活用品だ。空き缶でもあれば俺の力で丸めてポイだ。作戦は決まったが民家は奴の後ろ。無理臭い。
「せんじゅつてき、てったい」
出来る事が無ければ引くしかない。生存者を探したいところだが奴に勝てなければどうしようもない。いや…
「ゆき」
無尽蔵にある雪、これを握りこめば恐ろしく硬い雪玉になる。というか俺の力で握りこめば完全に氷だ。枝よりも重く、ちょっとやそっとじゃ割れない。早速実践あるのみだ。触手を躱して転がりながら木の陰に隠れてぎっちり雪を握りこむ。すると水が浮いてきた。さらに雪を足して握れば完成だ。
「せいっ!」
投げる瞬間少し砕けたが木の枝よりも早く飛び、触手を貫通して敵に突き刺さる。これならいける。
突破口を見つけて雪玉を投げ続ける。手が悴むがここで引くわけにはいかない。真っ赤になった手でひたすら命がけの雪合戦だ。勝利条件アンフィスバエナを蜂の巣にせよ、だ。
雪玉って冗談じゃなく硬くなりますよね。
小学校のころ雪合戦で血まみれになった人がいました。




